主人公は宴を始める
「一体どこに行くの? 早く宴の準備をしなきゃ……」
「街の方だ。 ギターはあるのか?」
「クロノが持ってる筈だけど」
「じゃあ今のうちに準備しておけ」
「え、今から弾くの?」
「あぁ。 皆心待ちにしてる」
不安な表情を浮かべながらもクロノからギターを受け取ったミアは、そのままクロノと城門を抜け屋外へと向かった。
すると花やリボンなどで彩り豊かに装飾が施された広場に、溢れんばかりの住人達が集まっていた。
「ミア!」
「マリエル!」
群衆の中から小さな花束を持ったマリエルを見つけたミアは階段を駆け下りマリエルをギュッと抱き締めた。
「無事で良かった! 怖い思いさせてごめんね」
「大丈夫だよ。 ずっとナタン様が側に居てくれたから」
えへへと嬉しそうに笑うマリエルを見てミアは安堵の溜息をついた。
「ねぇミア、早く歌を歌ってよ! もうすぐ竜王様が来るんでしょ?」
「え、今?」
「そう!」
マリエルの言葉に顔を上げ周囲を見回すと、皆から期待の眼差しを向けられていることにやっと気づいた。
この三日間、街中に流れる声に耳を傾けていた住人達は、今度はそれが間近で聞けると広場に集まっていたのだった。
すると足元に寄ってきたクロノが『ニャア』と小さな声で鳴き、体を擦り寄せた。
(これはイケるかもしれない!)
ミアはクロノの頭を撫でると腹に力を込め大きな声で皆に呼びかけた。
「私がこれから歌うのは竜王様が一番好きな歌なんです。 良ければ知っている箇所だけでいいので一緒に歌ってもらえますか?」
住人達の拍手で感触を確かめたミアは、ギターを肩から下げクロノに合図を送るとポロンと弦を弾いた。
その曲は転生前の世界でも多くの人に愛され歌われていた歌だった。
歌うことを楽しもうと作詞され、音階もわかりやすくできている。
その為どんな人の心にも平等に、優しく響くのだ。
それが『共に歌いたい』と言っていた、竜王が愛した歌だった。
周りに気づかれぬよう『反響』で遠くまで音を運んでいると、何処からか鼻唄のような小さな声が聞こえ始めた。
自分ではない誰かの歌声を聞いたのはいつぶりだろうか。
ミアはスッとギターを弾く手を止めると、手打ちに変えて続きを歌い始めた。
歌に合わせて手を叩くミアに子ども達が真似て手を叩く。
それが大人へと次々に伝染していく。
手拍子と歌声がどんどん重なり空へと溶けていきそうな時だった。
ゴォッと頭上で大きな影が二つ通り過ぎた。
(竜王様!?)
先程迄の空気から一変して不安や恐怖が混ざった様などよめきが起こる。
ミアは急いでギターを下ろすと、大きな影が降りる先を目指し走り出した。
(来てくれたんだ!)
二つの影が徐々に小さくなり、人の姿をした何者かがゆっくりと地面に降り立った。
その一人はランセル、もう一人は銀色の髭を生やし杖で体を支える年老いた男性。
垂れ下がった瞼から覗く金色の瞳で、それが竜王だと分かった。
「竜王様!」
「あの歌の真ん中に居たのはやはりお主か」
竜王は息を切らしてやってきたミアの頬を優しく撫でた。
「来て下さったんですね。 体調の方は大丈夫ですか?」
「あぁ、人の姿になれるまでになった」
細い瞳を更に細めて笑う竜王に、ミアも眦を下げギュッと抱き合った。
「君は一体どうやってここまで来たんだ?」
「頼りになる相棒のお陰です」
にんまりと笑うミアを見て、ランセルも少し困った様に眉を下げて微笑んだ。
「ミアーー!」
背後から小さな少女の声がした。
振り向くとマリエルがナタンと共に走ってきていた。
「マリエル! ナタン! 付いてきたの?」
「ミアについて走っていくからとりあえず追いかけて来たんだ」
「これを竜王様に……」
マリエルは白くて丸い花を集めリボンで結んだ花束を見せた。
「……お主は、我が怖くないのか?」
驚いた表情で竜王が声をかけると、マリエルはニコリと愛らしい笑顔を向けた。
「だって今はおじいちゃんの姿だし、ルールーがいつも『竜王様は優しい人だ』って話してくれてたから怖くないです」
そうしてマリエルは竜王に近づき頭を下げると花束を手渡した。
受け取った竜王は金色の瞳を開きその花束をじっと見つめ小さく呟いた。
「ここにはこんな愛らしい花があるのだな……」
穏やかな顔を見せる竜王に、ミアとマリエルは顔を見合わせ嬉しそうに笑い合った。
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