主人公は道を切り開く 2
「しっかり掴まってろ!」
バルコニーから森へと降り立ったクロノは、ミアを背中に乗せたまま木々の合間を颯爽と走り抜ける。
息をするのがやっとの程だ。
竜王達はきっと空を渡りジュエルスタンへと向かうだろう。
先を越される訳にはいかない。
(早くジュエルスタンに戻って皆に伝えなきゃ!)
クロノとミアは森、国境、平原を越え、ジュエルスタン国の入口付近まで何とか辿り着いた。
ミアは指輪を嵌め人間の姿に戻ると、魔力の切れたクロノに代わり今度は自分の足でジュエルスタンへと走り向かった。
(あと少し……!)
するとふっと大きい影が頭上から降りてきた。
竜王達が来たのかと思い上空を見上げると、その正体はなんとルールーだった。
「何でミアがこんな所にいるのさ!」
「ルールー! お願い、今すぐ宴を始めるよう皆に伝えて! もうすぐ竜王様達が来てしまう!」
「えぇ!? こんな早くに?」
「本当よ。 だから早く始めて竜王様をお迎えしましょう!」
「わ、分かった! じゃあミアも一緒に戻ろう!」
ルールーはミアを抱えると、勢いよく空へと羽ばたいた。
眼下にはジュエルスタンの街の屋根が白い絨毯の様に連なっているのが見える。
よく屋根の上から眺めていた光景だ。
ようやく逸る気持ちが少しずつ解れていった。
(大丈夫、きっと大丈夫!!)
ミアは懸命に言いかせた。
「おい! ドラゴンが来たぞ!」
ジュエルスタン入口に立つ警備兵がミア達に気づき声をあげた。
ルールーと共に降り立ったミアはジリジリと痛む喉に力を込め声を上げた。
「もうすぐ竜王様が来られます! 早く宴を始めて最高のおもてなしをしましょう!」
毅然とドラゴンを従えるその姿と声に、目の前にいる少女が歌を歌い魔物達を治めていた人物だと気づいた兵士達は、直ぐ様伝達を行い其々の持ち場へと動き始めた。
その様子を見てホッと溜息をついたミアの元に、馬を引き連れた一人の男が近づいてきた。
「お待ちしておりました、我等の歌姫。 皆がお待ちです」
「ナタン……!」
豪華な肩章のついた礼装軍服を纏ったその立ち姿は、騎士団の長である威厳を醸し出している。
ミアに深々と頭を下げたナタンは「失礼」と小声で言うと、ミアをヒョイと抱き上げそのまま鞍に上げた。
そしてミアを抱えるように自身も馬に跨ると、腹を蹴り馬を走らせた。
器用に片手でミアの体を支え、街から大きく離れた道から城へと向かう。
その振動からギュッとナタンの胸元に体を寄せると、ナタンもそれに応える様に支える腕に力を込めた。
間もなく城の前へと着くと、先に降りたナタンはミアを優しく抱き寄せる様にしてゆっくりと地面へ降ろした。
「無事で何よりだ」
眉を下げ微笑むその表情からミアを愛おしむ感情が伝わってくる。
その瞳にミアの心臓は大きく脈打った。
「さぁ、ここからは私がご案内しましょう」
城門から同じく礼装軍服を纏うレオが姿を見せた。
腰の引けたミアを助けるように優しく手を引きエスコートしていく。
金色の髪をサラリと流し笑顔を向ける姿に一国の王子と見間違えてしまいそうになる。
頬を赤らめながら歩くミアを、今度は侍女達が待ち構えていた。
そのまま個室へと連れて行かれるとあれよあれよと着飾られていく。
「あ、あのっ! これから何があるんですか?」
一連の流れにいよいよ混乱してきたミアは侍女達に尋ねた。
「この後その御声を国民に届けて頂きたいのです」
「貴方様のお陰で安心してここで働く事が出来ました。 それは国民皆同じ気持ちだと思います。 どうかお願い致します」
嬉しそうに笑みを浮かべる侍女達を見てミアの瞳に涙が込み上げてきた。
「泣いてはダメですよ。 折角の化粧が落ちてしまいますから」
ハンカチを差し出し愛らしい声で侍女達が笑う。
それを聞き、ミアも何とか笑顔で返した。
「そろそろいいか?」
「はい、只今」
コンコンと扉を叩く音が鳴り侍女達はそそくさと扉を開けると、今度は礼装にあわせて髪を上げ整えたジルがそこに立っていた。
「姫君、お手を」
ミアは差し伸べられた手におずおずと手を重ねると、触れた手にキュッと力が込められた。
「うん、綺麗だ」
口元を緩め伏せ目がちに見つめられたミアの体温は一気に上昇する。
それを背後で見ていた侍女達もジルの色香にあてられ思わず溜息を漏らした。
「どうぞこちらへ」
ミアはジルに手を引かれながら、これから始まるであろう宴の席へと向かった。
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