主人公は道を切り開く
あれからかなりの数の羊を数えたがなかなか眠れない。
ミアは一旦自分の中にいるクロノを叩き起こすことにした。
「ちょっとクロノ、出てきなさい」
「……はぁい」
クロノは普段ミアの体内にいる為『嬉しい』『悲しい』等の心模様程度の感情しか読み取れない。
しかし今のミアの感情は読み取らずとも明らかに『怒り』だとわかる。
「まだ明日があるのになんてことするのよ!」
「こんなにがんばってるんやからオレとルールーからの褒美や。 顔見たし逆にがんばれるんちゃうか」
「褒美って……」
クロノはミアの怒りをあっさりとかわした。
「あのタイミングやないと次いつ会えるか分からんやろ? 明日の宴で会えるとは限らんのやし。 ていうか、明日ジュエルスタンに戻るんはいつ頃なんや?」
「そういえば……」
この時点では宴の内容、その時間帯等の情報は一切手元になかった。
だが『皆が待ってる』という言葉が気になり、少しでも早く戻りたかった。
「とりあえず、明日の朝ランセル様と相談してみよう。 どんな宴なのか私も早く見たいな」
「オレも見たい! そんで竜王様の喜ぶ顔も見たい!」
「私も!」
そうしてミアはクロノへの怒りをすっかり忘れ、喉と手のケア、湯浴みを済ますと明日の為にベッドに潜り込んだ。
しかし、そう上手く事は進まなかった。
「ここに残れってどういう事ですか!?」
早朝にランセルを訪ねたミアは困惑した表情でその理由を尋ねた。
「宴には竜王と私で行ってくる。 その間に君は式の用意をしておいてくれ」
「そんな! だって結婚するつもりはないって……」
「竜王が目覚めてから今日で七日目だ。 いつ眠りにつくか分からないからその前に式を挙げておきたいんだ」
「それなら宴を見てもらってからでも!」
「それでは間に合わない可能性がある。 それについこの間まで竜王を恐れていた者達が開く宴に正直期待はできない。 だからすぐに戻る」
「じゃあランセル様は初めから……?」
「……竜王が決めた事はほぼ覆らない。 だが決して諦めたからではない。 君の声を聞いているうちに、竜王が君を手元に置いておきたくなる気持ちが少し分かったんだ。 だからこれは俺の意志でもあるんだ」
ランセルの金色の瞳がミアに昨晩の事を思い出させる。
だが相手は別人だ。
ミアは込み上げる涙を堪えようとぐっと手に力を込めた。
「私は物ではなく人間です。 そして今宴の準備をしている彼等も人間です。 その人間を信じられない方とは結婚なんて出来ません!」
「かと言って君はここからは逃げられない。 動物ならまだしも人間があの森の中を歩けばすぐに魔物にやられてしまうぞ」
「……失礼します!」
ぐいと目元を拭うと、ミアはその場から逃げ出すように部屋を出た。
そして廊下を走り抜け勢いよく自室の扉を閉めると、ズルズルと座り込み涙を零し始めた。
(ジュエルスタンにもう戻れないなんて……!)
ミアの心の中が絶望感で黒く染まっていく。
それに気づいたクロノが外へ出てくると、泣いているミアに体を擦り寄せた。
「宴、行かれへんのか……?」
その問いにミアは泣きながらコクリと頷いた。
「なんや、ミアが花嫁になるんは既に決定事項やったんやな……」
二人は暫く黙り込んだが、クロノは徐々にザワザワと毛を逆立て怒りをあらわにする。
「オレは女神様に『ミアが幸せになった』って報告せなあかんねん。 ミアが幸せになれる場所はここやない!!」
クロノは雄叫びをあげると甲高い金属音を鳴らし漆黒の豹に姿を変えた。
そしてギターを額の石の中にしまい振り返る。
「収納魔法が使えてよかったわ。 ほら行くで」
「行くってどこに……」
「ジュエルスタンに帰るんや」
「でもこの下の森は人間は歩けないって……」
「人間は、やろ?」
クロノはミアの左手を差しニヤリと笑った。
「あ……」
「この森を抜ける間位なら乗せていってやれる。 そこからは走らなあかんけど、ここでただ待つのとどっちがええ?」
「……勿論走る!」
「よっしゃ! 決まったら『善は急げ』や!」
クロノの呼びかけにミアは涙を拭うと、左手の指輪を引き抜き再びウサギへと変身した。
「クロノ、お願い!!」
そしてクロノの背中にしがみつきバルコニーから城の外へと勢いよく飛び出していった。
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