表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/58

主人公は歌うとフラグが立つ

 ミアがこの世界に転生してから、幾日か経った。


 あれからミア達は、作ってもらった寝床を拠点に、この世界を探索して回った。


 ミアが転生した世界の中にはジュエルスタンという国があり、そこでは魔法が使える者と使えない者とがいて、魔法が使える者達が中心となってジュエルスタンを護っていた。


 ジュエルスタンは、竜王の加護により栄えてきた国。 

 自然を扱う魔法も、その竜王から与えられたものだという。

 

 しかし竜王といっても魔物だ。

 国を囲むように茂る森の中には、動物以外にも竜王に従順な魔物が多く住んでいる。

 本当に恐ろしい。


 ウサギの姿をしているミアにとってもそれは例外ではなかった。 


 一歩森を歩けば、キツネのような魔物に出くわしたり、ワシのように大きな鳥の魔物に空から追いかけられたり、動物の熊に襲われたりと、ウサギの姿でいるのは決して楽ではなかった。

 しかしせっかく転生したのだから、一日でも長く生き延びて、人生を謳歌したい。

 その為にミアは毎日必死に生き抜くのだった。




(一体いつになったら、人間になれるのかしら)


 先日解放された〈人間ルート〉。

 どうやらそれは、ミアが人間になる為に用意されたシナリオの様だ。

 しかしそれが解っただけで、どうすれば人間になれるのか、何を攻略するのかといった情報はなかった。


 ミアはウサギの体にも慣れ始め、クロノの加工魔法のお陰で、食べ物にもあまり困らず暮らしていたが、ただ一つかなわない事があった。


 それはギターだ。


 転生前は、毎日のようにギターを鳴らし歌うのが大好きだったのだ。

 沢山の歌や音楽に触れていた記憶が、転生後の体にもしっかりと残っている。 

 それが益々、愛らしいピンクの肉球をもつ手を疼かせた。



「ちょっとお疲れか? 今日はもう休んだ方がええんちゃう?」


 午前中の探索を終え、干し草のベットに暗い顔で寝転ぶミアの顔を覗き込み、珍しくクロノが労りの言葉をかけた。


「歌いたい……ギターを弾きたい……」

 

 ぽつりと呟いた言葉を聞き、クロノは頭をカリカリとかいて、『今日はそのまま待ってろ』と言って一人森の中へと消えていった。

 

 ミアはその後ろ姿をぼんやりと見送った後、また干し草のベットに倒れ込んだ。

 そして覇気のない声で、ゆっくり歌を口ずさんだ。


 暫くスローテンポで歌っていたが、歌の歌詞の意味を思い出してきたミアの声は、その曲の持つパワーを借りるように、少しずつ曲調をテンポアップさせていく。

 何度も繰り返し歌っていると、自然と声も出せるようになった。


 最後には、自分のモヤモヤした気持ちを吹っ切るように歌い切った。 




 目をパチリと開け、フゥっと大きく息を吐くと、ガバッと起き上がった。


(大丈夫。 方法はきっとある筈だ)


 今はギターに触れなくても、考えれば何か良い策が浮かぶかもしれない。

 幸いこうして歌も、その歌詞の意味もしっかり覚えている。

 自分を奮い立たせる方法は幾らでもあるのだ。


(こっちの世界でも、いつかギター弾いて歌うぞーー!)


 ミアが大きな声を出した途端、洞穴の入り口付近で何かがバタバタっと逃げていく気配を感じた。


(あら、動物が集まってたのかしら?)


 ソロリと表に出ると、木ノ実やきのこなどが置いてある。


(クロノの仕業かしら。 きっとコレ目当てに集まってたのね)


 そう解釈したミアは、置かれた木ノ実を洞穴の中へと運ぼうとした。



 その時だ。


 

 

 バキバキバキッ





 突然、木を薙ぎ倒したような音が聞こえた。


 その音にミアの耳がピクリと反応し、バッとその音の出処を探した。




 グァオォォ…

 


 すると向こうから、通常のクマよりも1.5倍はあると思われる、大きなカギ爪をもつクマに似た魔物が現れた。

 ミアがいる洞穴前に置かれた木ノ実やらに惹かれてきたのか、ドスンドスンと足音を立ててゆっくりとこちらへ近づいてきた。

 

(そんな、どうしよう……!)


 相手がこのまま来れば、完全に死亡フラグだ。


 外へ逃げそびれたミアは、一先ず洞穴の一番奥へと身を隠した。

 クマの魔物はミアに気づいたようで、追いかけるようにゆっくりと洞穴へと近づいていく。

 

 とうとう洞穴の入り口まで辿り着いたクマの魔物は、ミアのいる洞穴に鼻を突っ込みスンスンと中の匂いを嗅いだ。

 穴の中に届くその鼻息は荒く生暖かい。

 とうとう食われてしまうのか。


 ミアはブルブルと身体を震わせながら、いよいよ死を覚悟した。


 


 

 


 





 


  




 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ