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主人公は準備を始める 2

 『竜王の目覚めを祝う為の宴を開く』


 長年魔物から身を守るために、竜王が目覚めている七日間を家で過ごしていた国民は、国王の言葉に動揺する。

 経緯を説明されても不穏な空気は拭えない。

 『騙されているのでは』

 そう思う者が殆どだった。


 それを払拭する為には、より確実に魔物達を抑える必要があった。


「さぁ、始めよう!」


 日が少しずつ高くなり、竜族の城からクロノと共にバルコニーへ出ると、ミアはギターを弾き始めた。

 

(私は今の自分に出来ることを精一杯やるだけだ!)


 この城にいれば竜王の魔力によってクロノの能力も存分に発揮できる。

 ギターの音色と共にクロノは『反響(エコー)』を使い広範囲に音を流し始めた。


「こんなとこで音魔法が役に立つとは思わんかったわ」


 どこからか吹いてくる風にあたりながらクロノは眼下に広がる森を眺める。


(これがジュエルスタンまで届けば良いのに……)


 ミアもギターを鳴らしながら空を見つめた。



 ◇



「本当に外に出ても良いのかしら……」


 リディもマリエルを膝に座らせバードと共に外を眺めていた。

 

「もうすぐミアと竜の王子様が守ってくれるんでしょ?」


「だがミアを連れて行った相手だ。 本当に信じていいものか……」


 トントントン。


 家の扉を叩く音がする。


「私だ、外に出てこれるかい? 面白いものが始まったよ」


「ヴィオラさんかい? 外って……」


 バードが恐る恐る扉を開け外の様子を伺った。




 ―――♪

 


 

 耳を澄ますと、空から微かにギターの音が聞こえるのだ。

 

「これはまさか……」 


「この音は間違いない。 あの子(ミア)のギターだ」


「本当にこんな事が……」


「お父さん! これミアが弾いてるの!?」


 いつからか外に出てきたマリエルが目を輝かせながらバードの足にしがみついた。


「そうかもしれない。 本当に出来るかもしれないぞ……!」


 ガチャリ、と家の扉を開ける者が一人、二人と増えていく。

 そして皆、耳をそばだて空を見上げるのだった。




 ◇




「さぁ始まったぞ。 全員心してかかれ!」


「団長、本気でやるんですか!? 先日教わったばかりの魔法をこの場で使うなんて!」


「仕方ないだろう。 俺だってこんなに早く使い所が来るとは思わなかったんだ。 だが、試すには絶好の機会だ」


 ジュエルスタン国境付近に立つ男は、漆黒の髪を風に(なび)かせて空を見上げていた。

 ―――本当は彼女に一番に見せてやりたかった。

 星空の下で交わした少女との約束を思い返し、その表情にほんの少し後悔の念が滲む。

 だが今回の任務が上手くいけば、この先幾らでも見せてやれる。

 いや、見てもらいたい。

 君のお陰で新たな力を手に入れたのだと。

 少女を思い口元が一瞬緩んだが、直ぐ様踵を返し己が率いる団員達と向きなおった。

 

「上手くいけば昨日迄の終日討伐より何百倍も楽になる筈だ。 夜も寝れる上に当番制にも出来るだろう。 因みに寝れるのは、この魔法が俺の定めたレベルに到達した奴からだ」


「団長が鬼モードに入った……」


「我々風の騎士団(アネロス)にしか出来ない名誉ある任務だ。 休みたかったらさっさと己の魔力を使いこなせ!!」


 以前、偶然に見つけた『言葉や音を風に乗せて運ぶ』という魔法の可能性。

 彼は何とかその方程式を作り上げ、それを部下達に叩き込んだ。

 そしてミアの歌声をジュエルスタンの民に届ける任務を担ったのだ。

 アネロス騎士団の団員数が少ない理由には、過酷な労働条件に加えて、その団長であるジル・ハーソンの鬼教官ぶりにもあった。


「勿論出来るようになった奴には特別手当を支給する。 今回の額はでかいから期待してろ」

 

 だが飴と鞭の使い分けも非常にうまい。

 その為、彼の厳しい鍛錬に耐え抜いた団員達は、全員が精鋭部隊として戦の前線に立てる程の実力者である。

 その頂点に君臨するのがジル・ハーソンだ。

 そんな彼を軍神と讃え、志す者も毎年ながら後を立たなかった。


 

 ◇



「さぁさぁ今年は損失がかなりでかいんだ。 魔物が来ないうちにさっさと終わらすぞ!」


「「「ハイ!!」」」


 魔物討伐が長期化したため、損傷した武具が手付かずのまま、山のように積まれていた。


「お前らの日頃の鍛錬の成果を見せてもらおう。 下手な物を作れば承知しねぇぞ!」

 

「それぐらいグイグイいければ女性もイチコロでしょうに……」


「お前も余計な事を言ってないでさっさと検品に行ってこい!!」


 ジュエルスタンで扱う武具の製造、強化、修復、再生。

 これらを担うのがナタン・ラシュレー率いる炎の騎士団(フロード)だった。

 強力な火力をもって敵を制圧するのは勿論だが、彼等の実力はそれだけではなかった。

 炎には百以上もの種類があり、それらを駆使して武具の品質を緻密に引き上げていくという、特殊な技術を持ち合わせていた。

 戦う術しか知らなかった若者共に武具製造という新たな技術も叩き込んだのが、ナタン・ラシュレーだった。

 その中でも複雑な魔力が重なり合って生み出される『魔導具』と呼ばれる武具は、未だ団長と副団長の二名にしか創り出せないと言われている。

 

 二人一対となり魔導具の修復を行っていた最中、小さい方の男が溜息をついた。

 

「顔に似合わず繊細で素晴らしいものを創る事ができるのに、何でこうも女性に縁がないんでしょうね……」

 

「お前のその検品能力には頭が下がるがその口は何とかならねぇのか」 


「大勢いる中から私の価値を見出しここまで育てて下さったのがナタン団長(あなた)ですからね。 本気で心配してるんですよ」


 普段殆ど表情を崩さない副団長が、珍しく笑っている。

 それを見た団長は、フン、と顔を背けた。


「にしてもただの妹思いの女性ではなかったんですね。 さすが団長の心を射止めただけあります」


「討伐に行かずに済んだからって、余計な事喋るんじゃねぇ。 ホラ、さっさと片付けるぞ」

 

 厳しくも情に厚い彼の人柄に自然と人が集まり、フロード騎士団の印象も彼等の代では随分と穏やかになっていた。


 

 ◇



「せっかくの機会だ。 一旦体を休めるか」


 男はその美しい金髪を掻き上げながら、近くにあった長椅子に腰掛け、一息つく。

 

 ジュエルスタンでは、主に戦闘の前線に立つのが水の騎士団(シードル)だった。

 水脈、地脈などから様々な『流れ』を読み戦術を組み立て実践に活かす。

 魔力の制御が出来ればどんな場所でも戦闘可能にするのだ。

 そしてその能力を医療にも取り入れたのが、先代の騎士団長である。

 国内の救護班には水の騎士団(シードル)出身者も多く、現団長レオ・アデールも医療に精通した人間だ。

 先代団長の補佐となって今の組織を作り、その意思を引き継いでいる。

 穏やかな雰囲気を纏っているが、精巧な技術が必要な為に指導もかなり厳しく、こちらも生半可な覚悟ではついていけない事で有名だった。


「そろそろ行くか」


「え、休んでからまだ数分しか経ってないですよ?」


「団員の半数はまだ討伐にあたっているんだ。 討伐に出向く必要がない者のやることは一つ。 一人でも多くの負傷者が宴に参加出来るようにする事だ」


 そして一人の少女も見知らぬ場所で必死に頑張っている。

 『大丈夫だ』と我々を励ますかのように。

 

(あんなに小さかったのに、こんなにも大きな存在になるとはな……)


 顔を上げ、眩しそうに目を細める。

 耳に届く声が、疲れた身体を癒やしてくれる。

 それは彼だけではなかった。

 今年の負傷者の回復が早いのは、きっと彼女のお陰だろう。


(彼女には敵わないなぁ……)


 そう心の中で呟き、救護の現場に戻っていく。

 彼女のように、心も癒やせる様な医療を模索してみるのも良いかもしれない。

 男は新しい可能性を見出した。

 それも愛おしい少女のお陰だろう。

 フフッと小さく笑った顔は、とても穏やかだった。


 団長の慈悲の深さと聡明さに憧れついていく者は数多い。

 三騎士団の中では一番の団員数を抱えていた。



 

「今年は暗い顔をせずに過ごせそうだな」


 少しずつだが、そう呟く声をよく耳にするようになってきた。


 

 最後まで読んで下さりありがとうございました。

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