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主人公は準備を始める

「ご家族も皆心配していたから無事で何よりだ」


 レオとミアは応接間に辿り着く迄の間、城内をゆっくり歩き言葉を交わす。

 

「マリエル達にケガはなかった?」


「あぁ。 でも妹さんは相当ショックだったみたいでナタンが暫く側についてあげてたよ」


 目の前で連れて行かれるのを見たのだからそうなってもおかしくない。

 ミアの胸がズキンと痛む。

 その様子を隣で見ていたレオは、ミアの頭にポンと手を置いた。


「ミアのせいじゃないから、そんな顔をしないでいい」

 

 そう言って笑顔を見せるレオに、ミアも少し顔を(ほころ)ばせた。

 

「で、君はいつの間にご子息の婚約者になったんだい?」


 突然レオの声のトーンが少し下がり、ミアは慌てて弁解し始めた。


「あれは竜王様が勝手に決めた話だから勿論私はそんなつもりないし! ランセル様も『その気はない』って言ってたからそれを信じてるんだけど……」


「俺にはそうは見えなかったけどね」


 レオは溜息混じりに刺々しく呟いた。


「あの二人にどう説明しようかと思うんだが……」


 返事の代わりに『言わないで』と言わんばかりにミアは首を横に振る。


「……あの場に何人かいたからいつかは耳に入るかもしれないが、俺からは話さないでおくよ」


「ありがとう……」


 ホッと小さく溜息をついたところで応接間に辿り着いた。


「ミア、こっち向いて」


 するとレオはミアの頬を指で拭うように優しく触れた。


(そこは確かランセル様が……)


「悪い虫がつかないように俺も協力するから、今はしっかり休んでおいて」


「あ、ありがとう。 レオも無理はしないでね!」


「あぁ、約束するよ」


 ミアはレオの背中を見送ると、部屋へ入り肘置きのついた椅子に腰を下ろし天井を仰いだ。



 日が高いうちは、ミアの歌う声とギターの音色にクロノの魔力を合わせ、魔物達の感情を抑え込む。

 月が出ている間はランセルの魔力をもってそれを引き継いでいく。

 互いに休息は一時間の内の十分と、半日。

 これを四日間続けていくというのがこの度の策である。



 ミアの場合は一日約十時間は歌やギターを奏でておく必要がある為、それは決して容易な事ではなかった。

 しかし自分の声が魔物を引き寄せるのではなく抑えることが出来るとわかり、ミアの心は安堵とやる気に満ちていた。


(花嫁になるわけにはいかない。 必ず成功させてこの国に戻って来なきゃ!)


 ミアは両方の手で頬をパチンと叩き気合を入れ直した。

 そしてペンをとり、備え付けてあった便箋に思いつく限りの歌をイメージごとにすらすらとまとめていく。

 

『自分の道とは違う歌姫になれ』


 憧れの祖母の台詞をふと思い出した。

 

「おばあちゃんが聞いたら驚くだろうな」


 そして何枚もの便箋に曲名がぎっしり並んでいるのを眺めてふふっと笑う。


「さぁ、宴の準備を始めましょう!」

 


 

 

 


 

 

 最後まで読んで下さりありがとうございました。

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