主人公は竜王に会う 2
ランセルが言った通り、後に三名の侍女が衣装ケースと思われる大小様々な荷物を抱え部屋へやって来た。
膨大な量のドレスやアクセサリーの中から侍女達はミアに似合うものを手際よく選んでいく。
自分で着れると断ったのだが全く聞き入れて貰えず、ミアは人形のようにあれやこれやと着せられ髪をいじられ化粧まで施されていく。
(私ってそんなに見窄らしかったのかしら……)
初めて歌を披露した時以上に隅々まで飾られたミアは、複雑な心境で竜王の元へと案内されるのだった。
◇
竜王と呼ばれるのだから、彼等は竜の血を引く一族なのだろう。
ランセルやルールーが人の姿をしているので、竜王は口周りに髭を生やした男性だろうかと想像する。
しかし現実は違っていた。
通されたのは入り口に大きな照明が灯されただけの洞窟の中。
当初ミアが想像していた様な場所に、竜の姿をした王が腰を据えていた。
「起きて早々に人間を連れてくるとはどういうつもりだ」
竜王はたっぷりと敷き詰められたオーガンジーの上で上半身だけを起こし、不服を漏らす。
大きさはクジラ程だろうか。
煌々と灯した明かりからはっきりと見えるのは赤黒くゴツゴツとした肌と大きな鉤爪のみ。
おかげでミアの恐怖心もすぐに落ち着いた。
「唐突で申し訳ありません。 時間も限られております故ご容赦ください」
ランセルが竜王の元へと続く深紅の絨毯の上で片膝をつき報告を始める。
「竜王様がお目覚めになる少し前から魔獣達に異変が起きていたので調査したところ、どうやら竜王様の魔力が低下しているのが判明したのです」
そして後方で様子を伺っていたミアを王の前へと突き出した。
「なのでその力を回復させる事が出来るという者をここへ連れて参りました」
(はい?!)
いきなり何を言い出すのかとミアはランセルを睨んだが、本人はこちらに見向きもしない。
「人間如きに竜の力を回復させられるというのか?」
「実際にジュエルスタンまで行った弟がこの者の術で力を回復させ戻ってきたのです」
「くだらん。 そのような不確かなものに頼るほど我はまだ堕ちてはおらんぞ」
竜王の声に怒りが込もる。
その気持ちは分からなくもない。
「お言葉ですが、この度の目覚めの早さから竜王様の体に異変が起きているのは事実です。 目覚めたばかりで自覚はないでしょうが、私も付き添いますので今回ばかりはどうか耳を貸して頂けないでしょうか。 この七日を一日たりと無駄にはしたくないのです」
「……」
父を慕う息子の言葉に竜王は暫し沈黙する。
体に異変が起きているというのはどうやら本当のようだ。
それが世界にどう影響するのかは分からないが、二人の会話から只事ではないと察する。
「そこの娘」
「は、はい!!」
「お主の体内にいるものを見せてみろ」
「え?」
もしやと思いミアはクロノを呼び出した。
甲高い金属音と共に現れたクロノは二メートル近くある美しい黒豹へと進化していた。
ビロードを思わせる滑らかな漆黒の毛並みは、以前見たジルの使い魔のように明かりをキラキラと反射させる。
どうやらこれも竜王の魔力の恩恵だろう。
「それがお主の使い魔だな。 しかし知らない色の石に見えるがそれは一体何の魔法だ?」
「クロノが主に使うのは『音魔法』です」
「『音魔法』だと?」
暗闇から疑いの視線を感じる。
この世界に住む人間に魔法という力を授けたのが竜王だ。
その竜王が知らないというのだから怪しまれてもおかしくない。
ミアは一先ず話を逸らすことにした。
「ですがクロノの音魔法とルールーの治療とは全く関係ありません」
「魔法ではない方法で回復させたというのか?」
「……力を回復させたのかどうかはわかりませんが、私がルールーにしたのは『歌』を聞かせたという事だけです」
「『歌』を聞かせただと? 詠唱ではないのか?」
「はい。 『歌』は魔法ではないので、覚えれば大人子ども関係なく出来るものです。 勿論竜王様でも」
「我にも出来るというのか、それは興味深いな。 ここでやって見せてくれ」
「そうすれば竜王様はご自身をもっと労って下さいますか?」
ミアは竜王を見据えた。
「……どういうことだ?」
一瞬の間に竜王の動揺がみられた。
「先程ランセル様にも言いましたが、私の歌は相手を想い紡いだものです。 先程の話を聞き、私も『竜王様に早く元気になって欲しい』と思いました。 ですので竜王様が約束してくだされば、今すぐここで披露致します」
「……そのような口先だけの言葉は要らぬ。 いいから早くやってみせよ」
「では約束ですよ」
ミアは片手を胸に当て頭を下げると、暫く目を伏せ考えた後、顔を上げゆっくりと口を開いた。
ミアの声が洞窟内で反響し、穏やかな旋律が隅々まで満ちていく。
内容は恋の歌だが、ミアはその歌に竜王に寄り添いたいという信愛の思いを込めた。
不穏な空気が一変し、竜王を含めその場にいた者達は耳を欹て、艶やかに飾られたミアを一心に見つめた。
「竜王様、如何でしょうか」
ミアは歌い終わると、再び竜王に頭を下げ様子を伺った。
「……確かに魔力は感じなかった」
そう呟いた後、竜王は黙ったまま動かなかった。
時間が経つにつれ再び周囲に不穏な空気が漂い始める。
「……お主、名は何という?」
「ミアといいます」
「ではミア以外はすぐに席を外せ。 早くしろ」
竜王の言葉にランセルを含め周囲から動揺の声が漏れた。
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