主人公は竜王と出会う
目が覚めると、天蓋付きのベッドの上で寝かされていた。
明らかに知らない場所だと気づき、ミアは慌てて体を起こし周囲を見渡す。
ドラゴン達が住む城と聞き洞窟の様なものを想像していたが、家具や調度品を見ているとそこは人間が住む部屋とさほど変わらなかった。
しかし窓の外を見ればここが明らかに知らない場所だというのがわかる。
上空は薄暗く、周囲は深い緑の森が果てしなく続き、この場が人の世から隔離されている様子が伺えた。
突然コンコンコン、と扉を叩く音がする。
「はっはいぃ!!」
ミアはその音に驚き思わず返事を返した。
「失礼致します」
聞こえたのが若い女性の声だった為胸を撫で下ろしたが、扉を開け最初に入ってきたのはミアをさらった青年だった。
「あなたはさっきの……!」
「やっと目覚めたか。 そう怖い顔をするな。 それとも元々か?」
「残念ながら、突然訳の分からない所に連れてこられてにこやかにしてられる程心の広い人間ではないので」
ミアは青年から一定の距離を保ちながら睨みつける。
「まぁ君に可愛気など求めていないから安心しろ。 必要なのはその声だからな」
「声?」
青年は後ろで待機している侍女に目で合図を送ると、部屋の中へワゴンを運ばせた。
「人間の口に合うかどうかは分からんが、それでも食べてゆっくり話し合おう」
テーブルに並べられたのは果実が入ったマフィンの様な焼き菓子と真珠のような真っ白のティーカップ。
侍女はそこに飲み物を注ぐと『失礼致しました』と頭を下げ慎ましやかに退室した。
(え、この人と二人きり……?)
「二人になったからといっても君をとって食うなどしない。 興味もないから安心しろ」
青年は先に椅子に腰掛けると、向かいに座るようミアを促した。
「毒も入っていないから冷めないうちに食べてくれ」
ミアは渋々青年の前に座ると、カップに手を伸ばしコクリと口にした。
カップから漂う花の様な香りに緊張の糸が少し緩む。
「私はこの国の第一王子ランセル。 まだ眠りから覚めていない竜王に代わり君と話をさせて頂く」
「はぁ……」
青年の表情は固く感情が全く読み取れない。
そんな男と何を話せばいいのやら。
発言通り自身に全く興味がないことが伝わり逆にホッとする。
「単刀直入に聞くが、ルールーがケガをしていた時に君の声を聞き回復したというんだがそれは本当か?」
「そんなの目に見えて分かるものではないので私の口からは言えません」
ミアも目を伏せたまま淡々と答えていく。
「ではその声から発せられたのはものの正体は何だ?」
「……歌の事ですか? あれなら魔法でもなんでもありません。 私がいた国では当たり前だったので」
「どこの国だ?」
「もう覚えてません」
それは事実だ。
転生前の記憶は殆ど消えかけている。
それだけ体がこの世界に馴染んで来ているという証拠だ。
「では、今目の前でやってみてくれ」
その台詞にピクリと反応をしたミアは目を開きランセルを睨みつけた。
「私が歌う時は相手の事を思う時です。 見世物ではないのでその要求は聞けません」
「そうか、じゃあ君が俺の事を思うようになればいいということか」
口調が代わりランセルの金色の瞳がギラリと光る。
ランセルは椅子から立ち上がるとミアの座る椅子の肘置きに手を乗せ、反対の手でミアの顎を持ち上げた。
「こ、こんなことして私が心変わりするとでも思ってるんですか?」
「その割には声が震えているようだが?」
感情を見破られミアは赤面した。
それを見たランセルは無表情のままミアとの距離を更に詰める。
ミアはゴクリと息を呑むと、意を決して声を発した。
「あ、貴方はルールーに言いましたよね? 『我々の血を貶めるような事をするな』と。
今の貴方は私に同じ事をしようとしてますよ?」
ミアの言葉にランセルは初めて動揺を見せた。
だがすぐに無表情に戻り、ミアから手を離すと元いた椅子に座り直した。
「確かにその通りだ。 私としたことが失礼な事をした」
口調も戻り身を引いてくれた事にミアは大きく安堵の溜息をついた。
勿論心の中でだ。
「しかし困ったな。 確かめる術がない」
「でしたらさっさと帰して貰えませんか?」
「そういう訳にはいかない。 さっきも言ったが竜王には君の声が必要なのだ」
すると突然ドォン、という地鳴りと共に大きな地震が起きる。
椅子にしがみつき必死に堪えていると、今度は劈く様な雄叫びが部屋中に鳴り響く。
耳を塞いでも鼓膜が破れそうな程の音量にミアは顔を歪ませた。
すると突然、時が止まったかのように静寂が訪れる。
『ミア、大丈夫か?』
どうやらクロノが魔法を使ってミアの周りの音を遮断してくれたのだ。
『音の事なら任せとけ、そのまま耳塞いで痛い振りしてろ』
ミアは言われた通りに耳を塞ぎ続けこの場が収まるのを待った。
ようやく地鳴りも収まり周囲は静けさを取り戻す。
クロノが防いでくれたとはいえ、まだ耳の奥がキンキンと痛み、目眩がする。
「今のは一体……」
「例年より早いが竜王が目覚めた。 あの声で周囲の国にそれを知らせたのだ」
確か憶測では目覚めるまであと三日あった筈だ。
やはり何か起きているらしい。
「竜王が目覚めたなら話が早い。 君には直接竜王に会ってもらう」
するとランセルはつかつかと部屋の外へと向かう。
「後で服を届けさせる。 そんな見窄らしい格好で会ってもらっては困るからな。 私が迎えに来るまでに身支度を整えておくように」
ランセルはミアに告げると足早に部屋を出ていった。
(一から十まで腹の立つ男ね……)
ミアの腹の中でこれ迄にない程の怒りが湧いていた。
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