主人公は気持ちを整理する 2
竜王が目覚めるまで後三日。
リディ達の店もとうとう休業に入り、客の出入りは殆どなくなった。
街中でも食材や日用品を売る店舗を残し他は休業の札が扉に掛けられている。
そんな中、ミアも部屋の中で一人ぼんやりと過ごしていた。
(この先どんな顔して会えばいいんだろう……)
先日の事を思い返すと、まだ自分の気持ちを伝えていない事に気づき改めて告白しなければならない状況だという事が判明した。
(いや、今会ってもそれどころじゃないし、またタイミング見計らってでいい筈で……)
加えて屋根上での出来事を思い出すと今でも頭頂から湯気が出る。
あれから日が経つというのに免疫のないミアはいつまでもそんなことを繰り返していた。
(ダメだ。 何かして気を紛らわそう……)
そうしてテーブルの上にあった本を手に取りパラパラと開く。
引き篭もり生活になると分かり、その後改めて図書館へ出向き借りてきていたのだ。
有り難い事にこの間返却期間が延長出来ると聞き、様々な種類の本を借りた。
(何だかんだとジルにはたくさん助けられてるな……)
ウサギになった自分を拾ってくれた事、ドラゴン治療で助けてもらった事。
人間になってからも度々自身の不安を拭ってくれた事。
(だ、ダメだ! また考えちゃう!!)
頭をガシガシと掻き再び雑念を振り払う。
そうしてふと窓の外に目をやると、上空には鳥より大きな影が二つ見えた。
(……また来てる)
その影の正体はドラゴンだという噂だ。
これまで竜王の覚醒期を待たずに街の上空を飛び回る事が無かった為、街の人々も怪訝そうにその様子を伺っていた。
(何か探してるのかしら……)
大小の二匹は親子だろうか、気持ちよさそうに空を飛んでいる。
ミアは窓ガラスに近づきドラゴンの様子を伺った。
すると、一匹のドラゴンと目が合った様な気がした。
勿論上空からここまでかなりの距離があるので実際に目が合う事などあり得ないのだが、それでもドラゴンがこちらを向いた気がしたのだ。
ミアは思わず窓から後ずさると、飛んでいたドラゴンはこちらに向かって急降下し、そのままガシャン!!と窓ガラスを突き破り部屋に入ってきた。
「きゃあ!!」
ガラス破片と共に風圧で飛ばされ驚くミアの声を聞いたドラゴンは、ニヤリと牙を見せると、すうっとヒトへと姿を変えていく。
白に近い肌色に少しはねた緋色の髪。
そしてビー玉のように丸くて大きい金色の瞳をもつ美しい少年が割れたガラス破片の上に立った。
「その声、ミアだよね?」
「え? 何で私の名前を知ってるの?」
少年はニッコリと笑うとそのままミアの胸元に飛び込んだ。
「人間になってるなんて思わなかったから探すのに苦労したよ。 でも見つかって良かった! 会いたかったよ!」
初対面かと思われる少年は嬉しそうに擦り寄りミアを困惑させた。
「ちょっと待って! 何かの勘違いじゃないの?」
「え、ミアはもうボクのこと覚えてないの?」
美少年はキュルンと潤んだ瞳でミアを見つめる。
その金色の瞳を見て、ミアはハッと何かを思い出した。
「もしかして、お城で治療してたドラゴン?!」
「当たりーー! ルールーって呼んで♫」
「ミア! 何があった!?」
リディとバードが騒ぎを聞きつけ慌てた様子で部屋へ入ってきた。
「あ、ダメダメ。 ジャマされちゃ困るんだ」
ドラゴンはバード達の方へ手を向け何かを唱えると、バチンッと電流を流すようにして二人の動きを止めた。
「お父さん! お母さん!」
遅れて来たマリエルが二人の姿に驚愕する。
「ちょっと! 二人に何するのよ!!」
「だってミアを連れて帰るのにあの人たちがいたらジャマなんだもん」
「連れて帰る……?」
「そう、ボクらの住処に。 ね、兄上♫」
そう言ってルールーが振り向いた方を見ると、窓際に長身の青年が一人佇んでいた。
(一体いつから……!?)
後ろで束ねられた長い髪はルールーよりも少し暗めだが、美しい容姿と白い肌から血の繋がりが見受けられる。
けれど彼の金色の瞳は金属のように冷ややかで、ミアは思わずブルッと身震いした。
「ルールー、見つけたなら飛び込む前にちゃんと言え。 家主に失礼だろう」
「だってやっとミアに会えたんだもん。 嬉しくてつい……」
青年ははぁ、と溜息をつくと、拘束されていたバード達の魔法を解除した。
「お父さん! お母さん!」
マリエルは床に倒れこむバード達に駆け寄った。
「なんだよ、チビもいたのか」
眉を下げて呟くルールーを、マリエルは涙目でキッと睨みつけた。
「お父さん達に何するのよ!」
ルールーはその形相に思わずビクリと肩を上げる。
「な、何だよ! お前も同じ目に合わせてやる!」
ルールーが今度はマリエルめがけて手を向けると、後ろから青年がパシンとその手を掴み制止した。
「いい加減にしろ。 我々の血を貶めるような真似をするんじゃない」
「きゃう!」
青年はそのままルールーを外へ放り出すと、ゆっくりとマリエルに近づいた。
「待って! これ以上この家の人達に手を出さないでください!」
ミアは慌てて青年の前に立ち、マリエル達を庇った。
青年はミアを一瞥すると、そのまま胸に手を当て深々と頭を下げた。
「我が弟がご家族に大変失礼なことをした。 代わって非礼を詫びる。 すまなかった」
ミアもマリエルもその姿に啞然とする。
「ご両親は直に目を覚ます。 だから安心してくれ」
それを聞き二人が安堵の表情を見せたのも束の間、青年はいきなりミアの腰を抱き寄せた。
「さぁ女、行くぞ」
「え?!」
抱かれたままで地に足がつかず、ミアは慌てて手足をバタつかせたがその手の力は全く緩む気配がない。
「無駄な足掻きをするんじゃない」
「するに決まってるじゃない! 私を何処に連れて行く気よ!!」
「我々の城だ」
ミアを抱えたまま青年は窓の方へつかつかと歩き、窓に片足をかけた。
「ここから先の道中は人間に知られたら困るんでな、申し訳ないが暫く眠っててくれ」
「え?」
青年はミアの額に指を当て何かを詠唱した。
するとグラリと視界が歪み、ミアはそのまま青年の腕の中でカクンと眠りに落ちた。
「ミア!!」
マリエルが名を叫んでもミアの耳に届く事はなく、青年は外へ出ると赤く大きな翼を広げミアを連れて飛び去っていった。
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