主人公は夢を抱く 2
宴も終わり、店は通常営業に戻る。
しかしミアの周りは想像以上に賑やかになり正直戸惑いが隠せなかった。
それはいつものように外回りを掃こうと家を出た時の事だ。
「ねぇミア、あの歌を歌ってよ!」
「え? えぇ?」
「私も聞きたい! お願い!」
昨夜歌を聞きに来ていた一人の女性がミアを見つけ声をかけると、周囲にいた女性達が『私も』と次々とミアに攻め寄りあっという間に囲まれてしまったのだ。
どうやら彼女達は、ミアから発せられる美しい歌声にのせた恋の歌に感銘を受けたようで、その時の感動を本人を前に思い思いに語り始める。
おかげでミアは箒を持ったまま賛美の嵐に身を置く羽目になった。
歌とは喜びや悲しみを旋律にのせて『心情を表現』するもの。
その為ミアの歌は、感化されやすい子どもや若い女性を中心に受け入れられたようだ。
勿論ミアの容姿と歌声に惚れた男性も大勢いたのだが、屈強な女性陣を前に為す術もなかったようだ。
「ミア、その様子だと昨日は大成功だったようだね」
すると背後からわぁっ、と感嘆の声と共に花束を持ったレオが姿を現した。
「俺達はちょっと事情があって外で聞かせてもらったよ。 はいこれ」
手渡されたのは五本のピンクのバラを包んだ花束。
生まれてこの方男性から花束をもらった事など無いミアは、頬を赤らめ恐る恐るそれを受け取った。
「……ありがとう……」
「後の二人は恥ずかしいからって俺が代表で来たんだ。 気に入って貰えた?」
「勿論だよ」
「ついでにその五本のバラの意味は知ってる?」
きょとんと首を傾げるミアに、レオは顔を近づけミアを愛おしげに見つめる。
「『君に会えて心から嬉しいと思ってる』。 俺達の思いも受け取って貰えると嬉しいな」
すると周りで二人を見守っていた女性達は『キャーー!』と小さな悲鳴を上げる。
ミアは返す言葉が見つからず口をハクハクさせた。
そんなミアの反応に満足したのか、レオは満面の笑みを浮かべる。
「これから暫くは忙しくなるから、また隙を見つけて聞きに来るよ。 それじゃあお嬢さん方もくれぐれも外出には気をつけて」
王子スマイルを向けられ女性達はほう……っと熱い溜息をついた。
「もうそんな時期になるのね」
「今年は被害が少なかったらいいけど」
「どういうことですか?」
彼女達の会話が気になりミアは理由を訪ねた。
「ミアはまだ知らなかったよね。 実はこの時期になると毎年魔物が増えるのよ」
「魔物が? どうして?」
年に一度、ジュエルスタンの守護竜である竜王が長い眠りから目覚めるのだ。
その期間はおよそ七日。
そしてその竜王の魔力に惹かれ多くの魔物達が活動的になるのが、竜王が目覚めている七日を含めて約三週間程と言われている。
特に間の七日間は、凶暴化した魔物が街に近づき被害を受ける事が頻繁に起こる。
その被害を最小限に減らすために、この頃から危険ランクの高い魔物から討伐が始まるのだ。
(あの時魔物を倒していたのは、この時に備えるため……?)
ウサギだった頃、穏やかに見えた魔物が目の前で討伐された日の事を思い出す。
この時の為に日頃から討伐が行われていたと気づき、あれは無益な殺生ではなかったのだと理解した。
「毎年その七日間は魔除けの札を下げて家から極力出ないようにして過ごすの。 私なんかは読書か編み物ぐらいしかないから堪らないわ」
「でも魔物に襲われても嫌じゃない?」
「確かにそうだけど。 あ、ミアの歌声が部屋でも聞けたら気持ちよく過ごせるかもね」
女性達はミアに嬉しそうに笑いかける。
ミアもつられて笑顔になった。
「ちょっと待って! 魔物の事で聞きそびれたけど、ミアったらレオ様とどういう関係なのよ!」
一人の女性が先程の状況を思い出しミアに押し迫った。
他の女性達もハッと気が付きどんどんミアに迫っていく。
これは喋らなければ逃して貰えそうにない。
「あ、彼にはちょっとお世話になった事があって……」
「『彼』って、もうそんなに親しい間柄なの?!」
「いや、そうじゃなくて……」
「さっき『後の二人』って言ってたけど、まさかあのフロードとアネロスの騎士団長の事じゃないでしょうね」
「まさかミアってば騎士団長レベルの男性も虜にしてるの!?」
「そこは分からないです!!」
次々と質問攻めにあい、ミアは顔をまっ赤にしてとうとうその場から逃げ出してしまった。
女性達はその後を嬉しそうに追うのだった。
竜王が目覚めるまで、後二週間。
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次回更新も明日の昼頃を予定しています。
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