主人公は夢を抱く
日もすっかり沈んだ頃、リディ達の店はミアのお披露目に期待する大勢の観客で既に賑わっている。
そんな店の外から中の様子を伺う三人の男達がいた。
「これで中に入ったらさすがにバレてややこしい事になりそうだな」
「呼んで貰えたのに近くで見れないのは惜しいね」
「折角の晴れ舞台だ、今回は外から聞いとくか」
そう話すのは、この国の騎士団長達だ。
彼等は極力目立たないように各々に装う予定だったが、集まってみると黒のベストに白シャツ姿だった為、存在が際立っていた。
夜で目がききにくいのが幸いだ。
そんな中、ミアの登場を待つ事十分程。
賑やかだった店内は静寂に包まれる。
いよいよ宴のスタートだ。
しかし一向に拍手は鳴らず、微かなざわめきだけが聞こえてくる。
「どうしたんだ?」
外から扉をそっと開き覗いてみると、その理由が一瞬にして解かれた。
出てきたミアは一見町娘のようだが、大きく開かれた襟ぐりから普段は見せない彼女の白い肌と、薄紅をひいた艷やかな唇、ほんのり紅潮した頬から十代とは思えない色香を醸し出していた。
しかしそれを清楚な雰囲気へと仕上げたのは、頭頂に巻かれたヘアバンドと、その片側に添えられたダリアのような花飾り。
下ろした長い髪も緩く弧を描き、歩けばふわりと風になびく。
一目で心を征する愛らしさだった。
「あの小さなウサギさんがここまで変身するなんて驚きだな……」
彼女の変貌ぶりに三人も思わず息を呑み、目が離せなくなる。
そんな人の目にも気づかぬまま、ミアは立てかけてあったギターを手に取ると、それを足に乗せ優しく弦を弾いた。
次の瞬間。
ミアの歌声と同時に優しく奏でるストロークが、今度は聴覚を惹きつけ観客を魅了する。
店内を一瞬にして心地よい空間へと変えた。
「まるで魔法みたいだ……」
彼等はドラゴンを治療していた時の事を思い出す。
「あの時の俺達の選択は間違ってなかったみたいだな」
「ここの観客は既にあの歌声と音色の虜になってる。 彼女を消すなんて事はもうできないだろう」
「下手したらこれは国を揺るがすんじゃないか?」
喝采を浴び涙を浮かべて笑うミアの姿を見た三人は、顔を見合わせコンッと拳をぶつけ合った。
するとその高揚感を萎えさせる様な男の声が響く。
「なんだ、この店は随分と盛り上がってるじゃねぇか」
現れたのは十数名の男達。
腰回りに剣や飛び道具等をぶら下げているところを見ると賞金稼ぎの集団のようだ。
「兄ちゃん達はここの給仕係か? えらく男前が揃ってるじゃねぇか。 という事はこの店にはイイ女が居るんだな?」
三人は互いの服装に目を向ける。
そして下卑た笑みを浮かべゆらゆらと近づいてくる男達に再び視線をやると、三人は大きく溜息をついた。
「給仕係か……三人も集まれば見えないこともないな。 まぁ今はそれでも構わないか」
「寧ろその方が好都合だろ。 正当防衛になる」
「迷惑な客の相手をするのも給仕の役目だしな」
「ごちゃごちゃ言ってねぇでさっさとそこを……」
男が最後まで言い切るのを待たずに、ジルは男めがけて振りかぶり、拳を顔にめり込ませ数メートル先へと吹き飛ばした。
「……軽っ」
「てめぇ!」
側で見ていた二人の男が剣を抜き、そこに魔力を込め大きな魔法剣を創り上げた。
「物騒なものは出さないでくれ」
レオは向けられた剣に触れ一瞬でそれを粉砕すると、ジルが飛ばした男の方へと一蹴りで二人を送り飛ばす。
その様子をみていた残党はたじろいだが、今度はナタンを囲みそれぞれの武器で一気に襲いかかった。
「その勇気だけは褒めてやろう」
ナタンはトン、と高く飛び上がると、振り下ろした拳の風圧のみで自分へと集まる男達を地面へと叩きつけ残りを戦闘不能にした。
「俺らの顔を知らないって事は国外者か?」
「暗くてよく見えてなかったんだろう。 酔って洞察力を疎かにした報いだな」
「こっちは超S級の魔物を相手にしてるんだ。 ケンカ売る相手を間違えたな」
店の方からは、暗い夜を明るく照らすように笑い声や手拍子が鳴り響く。
どうやらこの騒ぎに気づいていないようだ。
「大事な姫君の舞台を汚そうものなら我々守護人が容赦しない。 ここはお引取り願おうか」
起き上がろうとする者の気力をへし折るように、三人はニヤリと不敵な笑みを浮かべるのだった。
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