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主人公は慌てふためく 2

 図書館から出ると、ジルはミアが借りた分の本も太いバンドで一括にして肩にかけた。


「あの後ずっと中にいたのか?」


「居たよ。 気になるのが結構あって面白かったし」


「……変なやつ」


「なんでよ! 自分が連れてったんじゃない!」


 一時変な空気になったが、出る頃にはいつもの二人に戻っていた。

 日も高くなり、街はさらに賑やかになっている。

  

(ウサギだった頃と大して変わらないから有り難いけど……)


 本音を言えば縮まらない距離がもどかしくて思わずミアの口から溜息が零れた。

 様子がおかしい事に気づき、ジルがミアに声をかけようとした時。


「ミアちゃん!」


 先にミアに声をかけたのは、店によく来る常連客の一人の若い男だった。

 

「いやぁこんなところで会えるなんて嬉しいな! 一人で買い物かい?」


「いえ、一人ではないです」


 男はミアが指差す方を振り向くと、眉間に皺を寄せてこちらを睨んでいるジルと目があった。


「か、彼氏さん……?」


「……違います」


 その一言を聞いた男の表情がパアッと華やぐ。


「なら良かった。 じゃあこれからも安心してお店に行けるよ」


「はぁ、ありがとうございます……」


 すると突然ジルがミアの肩を抱くようにして男から引き離した。


「すみません。 俺との先約があるのでこれで失礼します」


 そしてそのままミアを連れてその場を早々に立ち去ったのだった。


「ちょっと、あんな態度とったら失礼じゃない!」


「ああいうのはこれぐらいじゃへこたれないだろ」


「でも今度お披露目の時に来てくれる予定の人なのに……」


「お披露目?」


「三日後にお店でギターを弾いて歌うの。 さっきの人はそこに来てくれる予定の人なの」


「……それは悪かった」


 するとジルはミアから手を離しスタスタと前を歩き始め、ミアは慌ててその後を追った。


「待って、どこ行くの?」


「飯買ってくるからそこで待ってろ」


 こちらを見ないまま歩いて行くジルを見て、ミアは怒りを込めてバシンッと背中を思い切り叩いた。


「なにすんだよ!」


「これぐらいしなきゃこっち見ないじゃない!」


 見れば薄っすらと涙を滲ませているのに気づき、ジルは言葉を呑み込んだ。


「三日後の夜にお店で歌のお披露目をするってレオとナタンに伝えといて」


 そして周囲を見回し人がいないのを確認したミアは左手の指輪を外し、ウサギへと姿を変えた。


「!?」

 

「ジルは呼んであげない! 来たかったら捕まえてみなさいよ!」


 ミアはべーーっと舌を見せると、路地裏を颯爽と走り出した。

 再びウサギになったミアを見て呆気にとられたジルはハッと我に返ると、慌ててミアの後を追った。

 城の中とは違い広範囲な上、道が入り組んでいる中でウサギを捕まえるのは至難の業だ。


「また追いかけっこかよ! だが……」 


 ジルはパチンッ!!と強く指を打ち鳴らした。 


(おれ)から逃げられると思うなよ!」


 ジルは使い魔を五体に分けると、それらを疾風の如く周囲の道に駆け巡らせた。

 すると一分も経たぬ間に『キャーー!!』という悲鳴が聞こえ、安堵の溜息をついたのだった。 


 悲鳴が聞こえた方へ歩いていくと、一匹の使い魔に伸し掛かられぐったりしているウサギ姿のミアがそこに居た。


「どういう事か説明してもらおうか」


 怒りを顕にしたジルに抱き上げられミアは一瞬慄くが、すぐにプイッと顔を背ける。


「教えない!」


「ほう、喋る気になるようお前のその毛皮剥いでやろうか?」


「そ、それはダメ! 人間に戻った時多分裸になっちゃう!」


「は……」


 ジルが一瞬固まる。

 

「ちょっと何考えてるのよ!!」


「お前が変な事言うからだろう!!」


 はたと気づくと、ウサギに話しかけるジルに周囲から奇怪な目が集まり始めている。

 このままではバレてしまうと、そのまま一人と一匹はそそくさとその場から離れるのだった。


「もうでたらめ過ぎて呆れてきたぞ」


「無視するジルが悪いんじゃない」


 ウサギ姿のミアを抱えたまま昼食を買うと、以前の様に屋根上へと上がる。

 ジルは相変わらず眉を寄せたままだった。

 

「また人間には戻れるのか?」


「この指輪があれば戻れるわ」


 そう言ってミアは赤い石のついた指輪を見せた。

 するとジルはそれをヒョイと取り上げる。


「無駄に魔力使わせたんだから暫くそうしてろ」


「ひどい!!」


 飛びついてきたミアをむんずと掴まえたジルは、そのまま膝に乗せ宥めるように背中をポンポンと優しく叩いた。

 

「……悪かったよ。 だからもう逃げんな」


 謝罪の言葉を聞き、ミアはぺたんと耳を倒し大人しく撫でられる事にした。


 屋根の上のため、日差しは少し暑いが風が心地よく吹き抜ける。


「風って何でもできて最強なんじゃない?」


「どうかな。 風は目に見えないから扱いは難しいし、炎や水みたいに前線で戦える訳じゃない。 彼奴等が戦いに有利になるようにサポートするだけだからな」

 

 実際にアネロスはフロードやシードルより団員数が少なく、戦に出兵する頻度も高い為に辞退する者も多いという。 


(だから皆を牽引するために色んな事勉強してるんだ……)


「何よ、それでもカッコいいじゃない」


「はは、サンキュ」


「さっきの話だけど、私を捕まえたから約束通り三人でお店来ていいからね」


「お前の夢が叶うんだろう? 行かせてもらうよ。 でも……」


 ジルは膝の上にいるミアの頬を指で撫でた。


「ずっとここに居れば良いのに、てのが本音かな」


 伏せめがちの睫毛から覗くハチミツ色の瞳に見つめられ、ミアの心臓はギュンと掴まれる。

 人間同士では意識し過ぎて素直になれなかった二人の距離は、思わぬ形で縮まっていったのだった。





 

 

 

 


 

 本日も最後まで読んで下さりありがとうございました。

 次回の更新は月曜になります。

 良ければ評価、レビュー、ブックマーク等もつけて頂けると大変励みになりますので、どうぞよろしくお願い致します。

 

 

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