主人公は新たな決意をする 2
その後、リディ達はミアが店で歌えるようヴィオラに相談しながら初舞台の準備に取りかかっていた。
ミアはというと相変わらず借金返済の為バイトを続けながら、合間を縫ってギターの練習を重ねている。
まるで路上ライブをしようと決心した時のような、期待と不安が混ざった毎日だ。
あれから屋根上で歌っていてもジルと会うことはなかった。
きっと研究に勤しんでそれどころじゃないのだろう。
寂しさも感じていたが、複雑な心のまま会うよりかずっと良いと自身も練習に打ち込む。
一先ず恋心は心の奥にしまいこんだ。
◇
「前に会った時もそうだけど、雨なのになにか嬉しいことでもあったのかい?」
雨の日の午後、ミアは借りていたマントを返しにレオと会っていた。
休憩の合間、雨を眺めながら二人で椅子に腰掛け、ミアはご機嫌な理由をレオに話した。
「そうか。 家族に理解してもらえたなら心強いね」
「うん。 大切な人達が聞きたいって言ってくれるのってすごく勇気もらえるよ」
そう言ってミアは眉を下げて笑った。
「俺だってミアのこと、大切に思ってるんだけど」
「へ?」
するとレオはミアの肩に自身の頭を置いた。
「レ、レオ……?!」
「だから俺にも歌ってほしいな。 雨の日にミアが歌っていた曲」
いつもより近くで聞こえる優しい声。
金糸のような髪がさらりと揺れ頬をくすぐる。
それがレオとの距離の近さを認識させた。
「こ、このままで歌うの……?」
「うん」
ミアは動揺を隠せないままに、小さな声で歌を口ずさみだした。
けれどレオが少し動くだけでミアはビクリと反応し歌が一瞬止まる。
それを繰り返すうちに、レオはとうとう堪えられなくなりくっくっと小さな声で笑い始めた。
「笑わないでよ!」
「ごめんごめん。 反応が余りにも可愛くて」
口元を抑えながら笑うレオを見てミアは頬を赤らめそっぽを向いた。
しかしレオは自分の首元へとミアを引き寄せ頭を撫でるのだった。
「そんなに怒らないで」
至近距離で聞こえる声にミアの心臓はドキンと大きく跳ねた。
(こ、これは……心臓に悪い……)
ミアはおずおずとレオから体を離すと、コホンと咳払いをした。
「もう怒ってないので、そろそろお仕事に戻ってください」
「ははっ、ミアは手強いなぁ」
レオの笑顔を見ていると、振り回されっ放しの自分はまだまだ子どもなのだと痛感する。
実際にまだ未成年だから仕方ないのだが。
(そういう意味ではナタンが一番穏やかに話せるのかも……)
帰宅途中、先日の事を思い出した。
あの日マリエルとの約束を律儀に果たそうと、開店前に顔を出しに来た時のこと。
彼もまた目立たないよう色付きの眼鏡をかけ店の前をウロウロしているところを、マリエルが見つけ持て成した。
『あの時はマリエルを助けて頂きありがとうございました』
リディとバードは何度も頭を下げるも、ナタンはそれに照れた様子で終始恐縮していた。
マリエルはというと、急いで髪を結い一番お気に入りの服に着替えミアと共に給仕を手伝うのだった。
それが何とも微笑ましく見守っていると、ふとした瞬間にナタンと視線が合う。
『ナタン様、どうかしました?』
『いや、なんでもない。 ていうか、なんで敬語なんだ?』
『それは皆の手前です。 あまり親しくしているとマリエルにも怒られちゃいますから』
にっこりと微笑むミアとは裏腹に、ナタンは少し考えた様子で顎に手を当てていた。
『なぁ、ミア』
『はい?』
『一曲、歌ってもらえないか?』
『えーーっと……マリエル達やヴィオラさん以外にはギターを使って歌った事無いからまだ慣れてないけど、それでも良い……?』
『え……』
突然のリクエストに思わず口調が戻ってしまったミアは照れた様子でナタンを見る。
そしてナタンもつられて緩む口元を手で覆い隠すのだった。
ミアは照明を少し落とし、ギターを鳴らして歌ったのは炎を題材にしたしっとりとした曲だ。
『炎が出てくるのに、そんな穏やかな曲があるのか?』
『うん、炎を見つめながら歌うんだよ。 あの時見た騎士団長のナタンは皆に光と熱を与えてるから慕われてるんだって思ってね。 ずっとこの歌詞をイメージしてたの。 強くて優しい炎をね』
話を聞いたナタンは俯き大きく息を吐いた。
『ごめんね! 勝手な想像で言っちゃって……』
『いや、そんな事言われたのは初めてだから戸惑ってるだけだ……』
そして周りに人がいないのを確認したナタンに片手で抱き寄せられ頭元で礼を言われた為、さすがにミアも驚き戸惑いを隠せなかったのだった。
以上回想終わり。
(いや、全然穏やかではなかった……)
あの時のナタンの体の温かさにドキドキしたのを思い出したミアは手で顔を仰いだ。
しかし恋愛経験がほぼ皆無なミアにはいまいち彼等の行動を理解できずにいた。
(大人の男性って、付き合ってもない女性にああいうこと普通にするのかしら……)
ーー年齢が違えば考え方も捉え方も違う。
ミアは大人な駆け引きをどうやら誤解しているようだ。
これは突っ込まざる得ないと、クロノがキン、と小さな音をたて突然ミアの肩元に現れた。
「お前はほんま残念なやつやなぁ」
「どういう意味よ」
「……お前がお子様過ぎて彼奴等が不憫でならんっちゅう話や」
結局、ミアは男性陣に振り回されぬようあれこれと策を考えるようになってしまうのだった。
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