主人公は新たな決意をする
次の日、ミアは腕を組んでギターの前に立ち、昨夜の事を思い返していた。
男性が女性の髪を結うなんて聞いた事がない。
だからあの時、ミアは自分が妹扱いされていると考えたのだ。
だが自分の手を掴んだその強さに思わず息を呑んだ。
怒らせた? いやそんな筈はない。
そのまま耳元で囁く声は、とても優しかったから―――。
(ぎゃ―――!!!)
慌てて耳を塞ぎ、心の中で発狂する。
気を抜けばジルの声が自動で脳内再生されてしまうのだ。
ミアはブンブンと首を左右に振って羞恥を追い払う。
所詮妹でしかないと納得した筈なのに、最後の彼の行動のせいでこれまで以上に悩む羽目になってしまったのだ。
だからといって自分の事をどう思っているかなど聞く勇気もない。
結局、大きな溜息をつくしかなかった。
恋というのは本当に難儀なものだ。
「ミア! 早く早く!」
部屋の扉をドンドンと叩く音と共にマリエルの声がする。
その音にハッと我に返り、ギターを手に取った。
「待って! 今行くから!」
今日は店の定休日。
ギターを手に入れたと聞いたマリエルが、歌が聞きたいとせがんできたのだ。
すると話に興味をもったリディ達もぜひ聞きたいとお披露目の場を設けてくれたのだ。
想い人の事は一旦横に置いておこう。
どうせ考えても答えは聞かないと出ないのだから。
ミアは気を取り直して、一階の店へと駆け下りた。
店内には既に椅子に座ったマリエルが、足をバタつかせながら期待を膨らませている。
そんなマリエルを挟むように、緊張した面持ちのリディとバードがいる。
そんな三人の前に、ミアはギターを抱えて立った。
「久しぶりだから緊張するけど、楽しんでもらえるようがんばります!」
ミアは少し照れた様子で自分用に置かれた椅子に座ると、ふっと息を吸い込み、ジャンッとギターを鳴らした。
選んだのはマリエルに初めて歌った時の曲だ。
言葉遊びだった歌が、ギターの音色が入ることで一つの曲となり、歌の背景が見えてくる。
すると部屋の空気が一変し、マリエルは目を輝かせた。
「魔法みたい!!」
「今の、何……?」
リディ達も目を見開きミアを見ている。
「私の国ではこんな歌が沢山ありました。 勿論魔法じゃないんで、何も起こらないから安心してください。 でも……やっぱり怖いですか?」
ミアは不安げに眉を下げて三人の方を見た。
「私は好き!! もっと聞きたい!!」
マリエルの反応を見てリディ達も小さく頷く。
「じゃあもう一曲、いいですか?」
ようやく緊張が解れてきたミアは、再びギターを鳴らし歌い始めた。
さっきとは全く異なる曲のテンポ。
三人はそのリズムに、あっという間に惹き込まれてしまう。
最初こそ耳を澄ますように聞いていたのが、少しずつリズムを捉え、小さく体を揺らす。
すると突然マリエルが椅子から飛び降り、その場で楽しそうに足を鳴らして踊り始めたのだ。
リズムに合わせるかの様に、飛んだり跳ねたり回ったり。
その姿が何とも愛らしく、ミアはギターを弾く手を止めてマリエルを抱き締めた。
「マリエル、すっごく可愛い!!」
「えへへ〜」
「ミア、もう一回同じのを弾いてくれ!」
するとバードも立ち上がりミアに歌の催促をした。
ミアは驚きつつも同じ曲を歌い始めると、なんとバードもマリエルと一緒になって踊り始めたのだ。
手を繋いで回ったり、それぞれ思い思いに体を動かし、リディはそこに手拍子をいれる。
ミアは泣きそうになりながらその光景を見ていた。
「こいつはいい!」
歌が終わるとバードは満面の笑みを浮かべて床に座り込み、その隣でマリエルがけらけらと声を上げて笑っていた。
「こんな楽しいの初めて!!」
「魔法の詠唱じゃないのよね、一体何なの?」
「『音楽』です。 ただ音を楽しむものです」
「音を楽しむもの、か……」
バードはその言葉を聞いて天井を仰ぎ何かを考え始めた。
「なんで今日まで私達に黙ってたの?」
「以前歌ったところを見られた時に『魔物』扱いされてしまって……またそんな目で見られるのが怖くて」
「魔物扱いね……。 確かに魔法かと思っちゃったわ。 すごく心地良いんだもの」
「心地良い……?」
「ミアの声とその楽器が何かを満たしてくれてるというか……うまく言えないけど、ふわっと心が軽くなるのよね」
「私はすっごく楽しい気分――!」
二人の言葉を聞いたミアは、ドクドクと心拍が早くなっていくのを感じ、ギターを持つ手にグッと力を入れた。
気を抜けば泣いてしまいそうだったから。
「なぁ、一つ提案なんだが」
暫く黙っていたバードが手を上げ、話に入ってきた。
「客の前でも歌わないか?」
「「え?」」
ミアとリディは思わず聞き返した。
「いや、こんな愉快な気分になるんだから、客の前で歌えば皆も喜ぶだろうし、飯もすすむんじゃないか?」
「ちょっと待ちなよ。 ミアはマリエルに口止めするくらいにデリケートになってるのよ? そんなの無茶でしょう」
「だから無理にとは言わないさ。 でもこんなすごいもの、俺達だけの秘密にしとくのは勿体ないだろう。 きっと皆ミアの歌声を気に入るさ!」
「全く、商魂逞しいんだから……」
顎に手を当てうんうんと頷くバードにリディは少々呆れ顔だ。
しかし否定をしないところをみると、リディもバードの意見に賛成なようだ。
「私なんかが出て、ご迷惑じゃないですか?」
「何を言ってる。 ミアが店に出るようになってから売上は上がってるし常連も増えたんだ。 ミアが歌えばこの店に、いやこの街に新しい風が吹くぞ!」
「ミアが魔物だなんて誰も思わないわよ。 まぁそういうこと言う客は私が追い出してやるわよ」
「私もやっつけてあげる!」
三人の笑顔にとうとうミアは涙を零し始めた。
ここに来て、必死にしがみついてきた歌を肯定された。
この温かい家族のお陰で、ミアはようやく人前で声を出す決心がついたのだった。
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