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主人公は出会う

「おいミア、ホンマに大丈夫なんか?」


(多分大丈夫だよ。 人の匂いはしないから……)


 ミア達は息を潜めてガサガサ、ズルズルと何かが這いずるような音がする方へと近寄った。


 なんとそこにいたのは子犬サイズのトカゲの様な赤い生き物だ。

 しかも後ろ足に矢が刺さったまま血を流して身体を引き摺っている。

 さっきの狩人が放った矢に当たったのだろうか。


(大丈夫?)


 しかし近づこうとした途端、低い唸り声を上げ、鋭い目つきでこちらを威嚇してくる。

 痛みで気が立っているのだろう。


「こいつ、ドラゴンの子どもちゃうか?」


(確かに言われてみれば……)


 この国は竜の加護を受けてるという設定だ。 

 その竜がケガをしているなんて大事だ。 


 この状況を何とかしようと、ミアは周囲を見回し、手当てに使えそうなモノを探した。

 すると茂みの中に、薄青色の布が運良く引っ掛かっているのを見つけた。

 手に取るとシルクの様な肌触りだが、大きさは丁度いい。

 ミアは急いで子どもドラゴンのところへ持っていった。


(これを巻いてあげるから大人しくして!)


「ギャァオオッッ!」


(ヒィッ!)


 近づいた途端に大きな声で威嚇され、ミアは思わず後ずさりした。

 鼻息荒くして睨んでくるが、まだ足の血は止まっていない。

 何とかしてやりたいが、何かいい方法はないだろうか。


(何か恐怖心を取り除けるもの…………そうだ!)


 ミアはそのアイデアを試そうと、思い切り手を叩いた。


 ポフンッ


(……あれ?)


 ポフンッ

 ポフンッ


 いくら手を叩いても、ポフン、ポフンと癒やしを誘う音しか出なかった。 


 それもその筈だ。

 人間と違ってウサギの手には肉球がある為、手を叩いても音はならないのだ。


(まさかこんなところに弊害があるなんて……!)


 愛らしい肉球を見つめながらミアはがっくりと肩を落とした。


「……お前、何してんのや?」


 クロノが訝しげに、いや心配下に顔を覗き込むと、ミアはカッと目を見開いた。 


(こんな事で諦めてたまるかぁ!!)


 今度は足元に落ちていた石を二つ拾い、それをコンコンと鳴らし始めた。


 コンコンコンコン


 徐々にリズムに乗ってきたミアは、スゥッと息を吸い歌い出したのだ。

 

 ギターの練習曲に、よく歌っていた大好きな曲の一つだ。

 気持ちが解れるようにとポップ調にアレンジして歌った。


 『もっと歌いたかった』

 そんな心残りが転生前の記憶を蘇らせたのだ。 


 勿論ドラゴンに言葉が通じるとは思わない。

 それでもメロディーやリズムから楽しい雰囲気が伝わるはず。

 

(あぁ……、ギターが弾きたいなぁ……)


 ミアは転生前の記憶に思いを馳せた。


「なんや、手でリズムとろうとしてたんかいな! 歌、めちゃいいやん!」

「そう?」


 目を輝かせるクロノを見て、ミアは恥ずかしげに頭を掻いた。 


「見てみぃ、コイツの目からも殺気が無くなっとる」


 言われてドラゴンの方を見ると、確かに怒りのオーラが消えている。

 寧ろ興味を持ってくれたようで、クルル、クルルと小さな声で鳴いている。

 どうやら心を落ち着かせる事に成功したようだ。


(良かった……手当て、させてくれる?)


 ミアは布を持ってゆっくりと接触を試みる。

 すると今度は大人しく触らせてくれた。

 ホッと胸を撫で下ろすと、早速足に刺さった矢をゆっくりと抜き、布を巻いた。


(これでよし!)


 獣の手なので所々緩いが、ドラゴンの表情は穏やかなのできっと大丈夫だろう。


(お互い気をつけて生きようね) 


 ミアはドラゴンの頭を優しく撫でた。

 そして改めて自分の身の置かれた状況を思い知る。


(夜が来ないうちに、寝床を探した方がいいかな)


 万が一に備えて隠れる場所を見つけなくては。

 こんな序盤で二度目の人生を終わらせたくない。

 ミアとクロノは周辺を探索することにした。


 すると、クルル……とドラゴンの子どもが小さく鳴き、ミアを引き止めた。


(何? どうしたの?)


「こいつ、ミアが気に入ったんかもな」


 それが本当なら嬉しいのだが、ウサギの体では多分世話も上手くしてやれない気がする。


 何より、この国はドラゴンを大切にしている筈だ。


 ここで引き止めるより、ちゃんと世話できる人に預けたい。


(ごめんね、一緒には連れていけないよ)


 ミアはもう一度ドラゴンの頭を優しく撫でると、ドラゴンは少し淋しげな声を上げた。


「おーい! 見つけたぞ!!」


「恐らくあのドラゴンだ! 早く捕獲用の網を持って来い!」

 

 複数名の男の気配を感じ、三匹はハッと顔を上げた。

 辺りをみると何やらガサガサと騒がしい。

 まさか矢を放った男に仲間がいたのだろうか。


(クロノ、早くこの子を連れて逃げるわよ!)


「了解や!」


 ミアとクロノはよいしょとドラゴンを持ち上げ、少しでも人気のない所を目指して駆け出した。


 しかし、自分達とほぼ同じサイズのドラゴンを抱えて逃げるのはなかなか大変だ。

 ミアもクロノも早々に息切れてしまい、一旦茂みの隙間に潜って身を隠した。


 男達の目的は保護なのか、密輸なのか。

 分からないから下手に動けない。

 ここは一度戻って情報収集するべきだろうか。

 逡巡していると、今度はすぐ前方からガサガサッ!と葉音がたった。


「(ギャッ!!)」


 突如茂みからプラチナのような毛並みの豹が顔を出したのだ。 

 アオーンと鳴く豹の牙を見て、三匹は竦み上がった。


(食べないでー!!)


「何か見つけたか?」


 男の声だが、さっきまでのと違ってなかなかなハスキーボイスだ。

 思わず耳を立てたミアの瞳に飛び込んできたのは、ハチミツ色の二つの宝石。


「ドラゴンにウサギと猫……。 何だこの組み合わせは」

 

 濡羽のような黒の髪、ハチミツ色した切れ長の瞳。

 森の中に居るのが不思議な程に美しく、色香を纏った美青年。

 その造形美にミアは思わず息を呑んだ。

 


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