主人公は助けを求める
シルヴェスト家はディルーナでも名のあるパイプオルガン演奏の家系で、ヴィオラもその名家の出身だ。
防音対策のされた部屋、自前のパイプオルガン、身につけた音楽教養の高さからそれを証明する。
(この世界にもそんなすごい人がいるんだ……!)
独学でギターを弾き歌ってきたミアにとってはあまりにも住む世界が違いすぎて、本人の口からそれを聞き驚愕する。
しかしミアの歌声に感銘を受けたヴィオラは、ミアを歌姫にする為に手助けをしようと話を持ちかけたのだった。
「その歌声にギターが加わるとなると今すぐにでも聞いてみたいが、どうやってギターを手に入れるのが手っ取り早いかね……」
口元に手を当て考え込むヴィオラにミアは恐る恐る声をかけた。
「あの、まだお金も貯まってないのに気が早すぎるのでは……」
街を歩いていたら突然スカウトされた、というのはこんな気分なのだろうか。
ミアは突如舞い込んだ夢の様な話にあたふたしている。
「金が貯まるまで待ってたらあんたの腕も落ちていく一方だろ。 だから投資してやると言ってるんだ。 私が先にギターを手配してやるから、あんたはギターを触りながらこれまで通り働いて返してくれりゃいい」
「借金……ですね」
「あぁそうだ。 だがそれなら急ぐ必要はないから仕事量も多少は減らせる。 正直そこは考えてもらいたいからね。 後はどうするか自分で決めな」
「よ、よろしくお願い致します!」
ミアはヴィオラに頭を下げ、ギター入手に手を貸してもらうことになった。
次の日の朝、ミアはリディ達に事情を話し仕事について相談をすると、夜に関しては既にミアを目当てにくる常連客がいるというので、夜の給仕は変わらず続ける事になり、その他昼の手伝いを調整していくこととなった。
「ミアはいつも楽しそうに働いてくれるからつい頼んじゃうけど、ヴィオラさんの言うのも一理あるわね」
「確かにあれから男客が増えてるしな。 まぁミアに手を出したらそいつは出禁にしてやるさ。 だから何かあったら今みたいに言ってくれたらいい」
「ありがとうございます」
ミアが二人に頭を下げるとリディがその頭を優しく撫でた。
「ミアさえ良ければ、このまま家に居てくれても良いのよ。 マリエルも懐いてるし」
二人の優しさに触れ、両親を思い出したミアは思わず瞳を潤ませる。
そして隣で絵を描いていたマリエルをちらりと見ると、マリエルは歯を見せて笑いながらミアに近づき耳打ちをした。
「ミアがお歌上手なのは誰にも言ってないからね」
「……じゃあもうすぐしたら、一番にマリエルに歌ってあげる。 だからもう少しだけ内緒にしててくれる?」
「ホント!? じゃあ約束!」
ミアもマリエルに耳打ちをすると、マリエルは目を輝かせて小指をミアに差し出し、二人で約束を交わすのだった。
◇
その数日後、ミアは鼻歌を歌いながら店の前を掃除をしていた。
先の見えない貯金生活から借金生活へと転向したが、先程ヴィオラからギターの手配が出来たとの報告を受け、浮足立った気持ちを抑えられないでいたのだ。
ウサギだった頃はこの夢を叶えるために兵士達に追いかけ回されたり、ドラゴンに襲われそうになったりと文字通り命を懸けたイベントに必死になっていた頃の事を思い出す。
(ここまで色々とあったなぁ……)
感傷に耽っていたその時だった。
「マリエルのおねえちゃん!!」
以前マリエルに意地悪をしていた少年三人が、血相を変えてこちらへ走ってきた。
「貴方達、どうしたの?」
「馬車がマリエルを乗せたまま外の方へ行っちゃったんだ!!」
「えぇ!?」
話を聞けば、マリエルをからかい取り上げた絵が風で飛ばされてしまい、荷台にのってしまった絵をマリエルが取ろうと荷台に上がった時、馬車が動き出してしまったらしい。
「何色の馬だった?!」
「えっと……確か黒!」
「わかった!」
ミアは箒を投げ捨て、街の入り口の方へと急いで向かった。
(マリエル一人じゃきっと降りられない……早く見つけて助けなきゃ!)
けれど荷台を引いていても相手は馬、走ってもどんどん距離があいてしまう。
しかも街の外へ出てしまえば更に加速し馬車を止めるのは不可能だ。
(どうしたら……!)
ミアは前からくる人々を避けながら懸命に走るも、疲労しきった体がふらつき、ドン、と男性にぶつかるとその場に座り込んでしまった。
「あぁ、すみません。 ケガはないですか?」
「あ……」
どうやらぶつかった相手はどうやら騎士団の兵士の一人だった。
「お願いします! マリエルを助けてください!!」
「おい、なんの騒ぎだ?」
騒ぎを聞きつけ兵士の背後から男が近づいてくる。
その者はフロード騎士団長のナタン。
彼ら兵士は魔物討伐から戻ったフロード騎士団だったのだ。




