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主人公は白状する

 屋根からポタポタと雨音が聞こえる。

 ジルは濡れた前髪から落ちる雫を拭うこともせず、ただじっとミアを見つめたまま動かない。

 けれどミアの中では色々な思いが交錯していて顔が上げる事が出来なかった。


「何で、そう思ったの?」 


 やっと出せたのは質問に対する疑問。

 するとジルもミアに合わせて小さな声で返事を返す。

   

「名前もその黒い瞳も同じだから、そうじゃないかと思ったんだ。 それに一度、俺の前に現れた事無かったか?」


 あの時ジルは酔っていたにも関わらず、今のミアとウサギのミアとが同一人物だと言い当てられた時の事を思い出す。

 あの日『そんなにも自分の事を見てくれていたんだ』と彼に対する好意が本物になった。


(あれは夢だって納得したと思ってたのに、まさか覚えていたなんて……)


 堪らなく嬉しいのに、それを掻き消す様な言葉が脳裏を掠める。

 ミアはきつく握った手に更に力を込めると重い口を開いた。


「ウサギが人間になるなんて、そんなの魔物と一緒じゃないの?」

 

 以前ならそんなこと微塵にも思わなかったのに、この一ヶ月は周りの目を気にしすぎてまともに歌えなかったからか、自虐的な発言をしてしまう。

 それを聞いたジルは壁から手を離すと、ミアの頭をコツンと叩き肩をすくめた。


「……まぁこの世界じゃ魔物が人間に化けるなんてよく聞く話だ。 だから動物が人間になるってのもあるんだろ」


「そうなの……?」


「だがドラゴンですら喋らないのに、動物や魔物がその姿のままで喋るっていうのは聞いた事がない」


「だからあの時あんなに驚いたの?」


「あぁ。 新種の魔物が出たのかと思ったよ」


「でも私は本当に魔物じゃなくて只のウサギで……ぃったたたた!」


「やっと白状したか」


「い、いたいよぉ」


「俺が聞きたかったのはそこじゃない。 お前が俺と一緒にいたウサギなのかどうかだ。 魔物だろうとなんだろうと関係ない」


「ごめんなさい………」


「人でもウサギでも、会えるならもう一度会いたいと思ってたんだ」


 空耳だろうか、と思うような台詞にミアは思わずぽかんと口をあけた。

 ジルはミアの頬を引き伸ばしていた手を外すと、すっかり濡れてしまった前髪をくしゃりとかきあげ顔を背けてしまった。

 その姿をみてミアも徐々に頬を赤らめた。


 『このままバレてしまったら自分はどうなってしまうのだろうか』

 『また魔物だと疑われて逃げ回らなければならないのか』


 そんな事よりも、『ジルに気味悪がられる』のが一番怖かった。

 なのに『会いたいと思ってた』なんて言われたらこれ以上黙っていても仕方がない。

 ミアはドンッとジルの胸に飛び込んだ。


「おい、お前まで濡れるだろう!」


「黙っててごめんなさい!」


 ぎゅっとしがみついた服からじわりと湿り気を帯びていく。

 それでも離れようとしないミアを見て、ジルもその肩を抱こうとゆっくりと手を伸ばした。


 が、その時だった。


「はいはいお二人さん。 お取り込み中悪いんだが、そろそろ家に帰ろうか」


 パンパンと手を叩く音に驚き二人は即座に体を離す。

 そこには怒りのオーラを放つレオが立っていたのだ。


「お前の様子が気になってヴィオラさんの家を訪ねたらまだ帰ってないと言うし、探してみたらこんな所に連れ込んでるし……」


 濡れた体に冷気が触れ、火照った体の熱が引いていく。


「お前には少しお仕置きだ」


 レオがパチンと指を鳴らすと同時に使い魔の狼が現れ、ジルに飛びつきそのまま地面に押し倒した。

 まるで飼い主に戯れるかのように覆い被さった狼はそのまま顔をベロベロと舐め始めた。

 体はかなり大きい為、起き上がることは難しそうだ。


「おっ……おいっ……くるしい……」


「まだ雨が降ってるし手加減は出来ないな。 さて、ミアは……」


 再びパチンと指を鳴らすと、今度はミアの濡れた体を乾かした。

 

「少し話を聞いてしまったんだが、君があの時のウサギさんだったんだね。 俺もまた会えて嬉しいよ」


 王子の満面の笑みにミアはついぽーっと見とれてしまう。

 味方を得たかの様な高揚感で、ミアの顔からはすっかり陰りが消えていた。


「俺の事も気にせずレオと呼んでくれたらいい。 そうだ、今度ナタンにも会いに行こうか」


「うん!」


「おい、早く退かせてくれ……」


「俺の手柄を横取りしようとした上にミアを連れ込んだ罰だ。 暫くそうしてろ」


「す、すみませんでした……」


 レオはジルの拘束を解かぬままミアをヴィオラの家へと送り届けると、ヴィオラも眉間に皺を寄せてミアを待ち構えていた。

 

「わざわざありがとね。 ミアは一旦あたしが預かるよ」


「レオ、このマントは次の雨の日に必ず返しに行くから!」


「ありがとう。 次の雨の日を楽しみにしているよ」


 レオははにかんだ様子で来た方へと帰っていった。

 その様子を隣で見ていたヴィオラは大きく溜息をつき、ミアの肩を叩いた。


「ミア、話がある。 うちへおいで」


 ヴィオラの険しい表情にミアは戸惑いながらも、話を聞きに家に入った。

 


 

 


 



 



 



 

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