主人公は目立ってしまう 2
「さぁ、さっさと彼女を引き渡してもらおうか」
使い魔の狼を従え冷淡な面持ちで立っていたのは、ウサギだった頃に歌を聞きに来ていたレオだった。
そのレオが放つオーラは魔力なのか、殺気なのか。
ミアを襲った男達は返事も出来ぬまま顔面蒼白で次々と倒れ、呼吸困難を起こし動けなくなってしまった。
それを見たレオは小さく溜息をつくと、使い魔に彼等を運ぶよう告げ、自分が羽織っていたマントを外しミアの体を包むようにして着せた。
「もう大丈夫だからね」
自分が知っている顔のレオを見てやっと恐怖から開放されたと解り、ミアはポロポロと大粒の涙を流し始めた。
「レオ……怖かったよぉ……」
震える声で名を呼ばれたレオは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐにパチンと指を鳴らすと、ミアの体をキラキラと細かな光で包み、濡れていた体と服を乾かし整えた。
その様子にミアは思わず息を呑み目を見張った。
「これで服も君も落ち着いたかな?」
「すごい魔法……」
「水分を気化させただけだから大したことないよ」
「ううん。 私まで魔法にかけられたみたいでドキドキしちゃった。 ありがとう」
眉を下げて微笑むミアを見て、レオは再び大きく脈打った心臓を抑えるように今度は手で口を覆い顔を背けた。
その様子を見たミアは、自分が馴れ馴れしく話しかけていた事に気が付き、慌てて頭を下げた。
「ごめんなさい! 馴れ馴れしく話しかけてしまいました!」
「いや、別に構わない。 もう大丈夫なら送っていこう」
「はい……」
レオに優しく手を引かれ立ち上がると、レオの側にいるからだろうか、まだ雨が降っているのに体が濡れていない事に気づいた。
どうやらこれも水の魔法のお陰のようだ。
そしてミアを襲った男達がレオの仲間と思われる兵士達に担がれていくのを見送ると、残った二人で店へ戻ることになった。
「あの、いつも警備にあたっていたのはレオ様の騎士団の方々なのですか?」
「普段は街に駐在する警備兵なんだが、雨の日はシードル騎士団が警備にあたるようになっている。 雨という自然の恵みは我々の魔力を増幅させてくれるから効率がいいんだ」
「そうなんですね」
「そういう君は水の魔法が使えるのかい?」
「え?」
「さっき雨の中楽しそうに歩いていたから、水の加護を受けているのかと思って」
(見られてた!?)
ミアは正体がバレるのではと思い左右に大きく首を振ると、レオはそれ以上追求せず話を続けた。
「ほら、雨の日は見ての通り街は静かになるだろう。 我々にとって雨は有り難いものだが、そうじゃない者にとっては余り良くは思われていない気がしてね」
そう話す声は少し寂し気にも聞こえたが、ミアを見つめる瞳はとても優しかった。
「でも君が楽しそうに歩く姿は、我々の存在を肯定してくれている様に見えてとても嬉しかった。 本当にありがとう」
レオはそう告げると、胸に右手を当てミアに深々と頭を下げた。
まるで本物の王子様のような振る舞いにミアは思わず口をはくはくとさせる。
彼の長い睫毛から覗くロイヤルブルーの瞳には仄かに熱情が籠もっているようにも見え、何て返すのが正解なのかわからず、ただ顔を熱くするのだった。
「あぁ、彼等が戻ってきたみたいだ」
赤くなったミアを見てクスリと笑ったレオが後ろを振り返ると、街の入口付近から服や体を濡らした騎士達がぞろぞろと戻って来るのが見えた。
どうやら風の騎士団らしく、そこにはジルの姿もあった。
彼を見つけ顔を綻ばせたミアと目があったジルも少し笑ったかの様に見えたが、同時に隣りにレオがいることにも気づき、すぐに眉を潜めこちらに向かって歩いてきた。
「レオ、そんな所で何やってるんだ?」
「警備中に彼女が襲われているところに出くわしてね。 今送っていく所だ」
「襲われたって……」
「未遂だよ。 もしかしてジルの知り合いかい?」
「たまたまヴィオラさん繋がりでな」
「じゃあ君はヴィオラさんの親戚かい? 名前は……」
話の流れから自分の名前を名乗る場面になったが、実はミアにはここで名乗れない事情があった。
ウサギの時の名前と同じ『ミア』ということがジルに知られてしまうと、自分があの時のウサギだとバレてしまう可能性があったのだ。
幸いレオの前では名前を名乗ってなかった為気づかれずに済むだろうが、勘のいいジルには誤魔化せる自信がない。
(よく考えたら、私ってば別れ際にジルにキスしたんだった……!)
幾ら人間になる為とはいえ大胆な事をしていた事にも気づいたミアは、頭から熱を放出させながら一人悶えた。
その姿に二人は少し不安気に見つめる。
ミアはとうとうバレるのを覚悟して、恐る恐る声を出した。
「ミア、です」
そしてちらりとジルの方を見たが、意外と彼は無愛想な表情のままだった。
(もしかして、気づかれなかった……?)
よく考えればあれから一ヶ月は経っている為、もうウサギ騒動の事は忘れているのではないだろうか。
そう理解したミアはホッと胸を撫で下ろした。
「ミアっていうのか。 可愛い名前だね」
「あ、ありがとうございます……」
レオの褒め言葉に思わず頬を赤らめるミアを見たジルは、小さく溜息をつくとぐいとミアの腕を引いた。
「丁度ヴィオラさんの所に用事があるのを思い出した。 レオ、こいつは俺が連れて行く」
「え?」
ジルはレオの返事を聞かぬまま、ミアを連れて雨の中ヴィオラの家の方向へ向かった。
途中、軒下を見つけたジルは足を止めドン、と壁に手を押し当てミアを壁越しに追い詰めた。
「あんた、元ウサギだったんじゃないか?」
目が全く笑っていないジルを見て、『やっぱりバレた……』とミアの顔から血の気が引いていった。




