表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/58

主人公は目立ってしまう 

 顔の火照りも妙な脈動も落ち着いた頃、ミアは教会の中へ入り、パイプオルガンの前に座るヴィオラの元へ駆け寄った。


「ヴィオラさん、お願いがあります!」


「なんだい。 慈善事業ならしないと言った筈よ」


「ギターの相場を教えて下さい」


「は?」


「お金が用意出来れば、あの話は終いにはならないんですよね?」


 思いもよらないミアの発言にヴィオラは呆気にとられるも、少し考え答えを出した。

 

「ディルーナでの相場だが、今は確か金貨二百枚程だ。 そんな大金どうするつもりだい?」


「勿論稼ぎます」


「稼ぐったって、そんな甘いもんじゃないよ」


「時間はかかるのは承知の上です。 でも始めないことには進まないので」


 転生前に実家暮らしをしていた頃は、バイト代を貯めれば何とか購入出来たが、ここでは生活もしていかなくてはならない。

 となるとかなりの時間を要する。

 目標額がわかったミアはヴィオラに一礼すると、スカートを翻して教会を後にし、早速職探しと宿探しを始めるのだった。


 昨晩泊めて貰ったリディ達に事情を説明すると、暫く部屋を借りたまま働かせてもらえる事になり、何とか貯金生活をスタートする運びになった。

 朝は市場へ出て食材の仕入れを手伝い、昼間に休憩を挟み次は仕込みと給仕を手伝う。

 慣れない内は怪我や寝不足で体調を崩すこともあったが、一ヶ月程経った頃にはそれも無くなりすっかりエプロン姿が板についてきた。


 そして変化があったのはミアだけではない。

 リディ達の店は大通りの店とは違い、客の殆どが周辺の住民か常連客だったが、仕入れや手伝いの際に楽しそうに鼻歌を歌うミアが目に留まり、物珍しさに店へやってくる新規の客が出てきたのだ。

 勿論ミアは魔物扱いされないよう人前で歌う事はしなかったが『黒い瞳の少女』は、少しずつ店を賑やかにしていった。


 ある日の午後、店の手伝いが間に合ってるというのでミアは半休を貰い、服等を買いに街に出た。

 これまで何度か街を歩いてみたが、音楽が発展していないジュエルスタンには楽器を扱う店は勿論なく、音に関する書籍も殆どない。

 そんな街の状況を見るとやはり気落ちしてしまうが、そんな時は部屋に置いてある金貨の入った瓶を見て気を紛らわす事にしていた。 

 ミアは昼食を買う為に持っていた金貨を空にかざすと、それをポケットにしまい近くにあったベンチに腰をかけた。


(今日はこのまま夜まで我慢しようかな……)


 するとポツリ、ポツリと雫が地面を濡らし始めた。


(雨だ)


 サァ……と大きくなる雨音と共に人々は早足に家へと入っていく。

 そして雨の街を歩く人は殆ど居なくなった。

 表にいた警備兵達も向こうからやってきた兵士達と交代をすると、更に外にいる人間が減ってしまった。 

 

(今は人も少ないし、たまにはいいかな)


 暫く雨を眺めていたミアはベンチから立ち上がり、まるで小さな子どもの様にパシャンッと足音をたてると、小声で歌を歌い始めた。

 

 この雨が心の靄を洗い流し、止んだ後にはまた笑顔になれますように。


 そんな歌を歌いながらミアは雨を避けることなく踊るような軽やかな足取りで街を歩いて帰った。


「よぉお嬢さん、雨なのに随分と楽しそうだが、そのまま俺らと一緒に飲まないか?」


 突然背後から声をかけられたと思った瞬間に腕を掴まれ、ミアは慌てて振り返った。

 すると三人の男がニヤニヤと笑いながら、こちらを見ている。

 

「帰るところなのでお断りします」


「じゃあ俺達と遊んだ後に送っていってやるよ」


 一人の男が背後からグッとミアの口を手で覆うと、そのまま引き摺り込む様にして人のいない路地裏へと連れ込んだ。

 そして乱暴にミアを振り下ろすと一番図体のでかい男がミアの顎を掴み、もう片方で首から肩へとするりと撫でる。 


「ここなら誰も来ないし存分に楽しめる」


(今なら手が空いてる。 ウサギになれば逃げられるかも……)

 

 男の顔が近づいて来る恐怖から逃れるようにミアは目をギュッと固く瞑ると、指輪に手をかけた。


『ミア、ちょっと待て!』


 頭の中にクロノの声が響いた。

 途端に周囲の空気が凍り、異変に気づいたミアは恐る恐る目を開けると、月の光を思わせる薄い青みを含んだ毛色の狼がこちらを睨んでいた。

 男達は突如現れた狼の気迫に怯え体をガタガタと震わせている。

 

「キース、いい子だ」


 月白色の狼を撫でながら、金色の髪を束ねた長身の男がこちらへ近づいて来た。

 見たことのある顔の筈なのに、その蒼い瞳は凍てつくような鋭さで男を睨み、冷笑を浮かべる姿はまるで知らない人の様だった。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ