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主人公は路頭に迷う 2

 空に星が輝き始めると共に、酒や食事を求めて店内が少しずつ賑やかになっていく。

 

「お姉ちゃん、オーダーいいか?」


「はい、ただいま!」


 ミアは一つに括り纏めた髪を揺らしながら、一飯の恩を返すべく懸命に給仕をしていた。

 その合間に様々な話を耳にしたが、中でも驚いたのがジュエルスタン王国の騎士団の話だ。

 聞いたことのある名の者達が数々の功績をあげていると知り、ミアは顔を引き攣らせた。


(もし会うことがあったら『様』を付けなきゃだ……)


 そう心に留め、テーブルの食器を片付けていくのだった。

 

「リディ、席はあいてるかい」


 カラン、という音で入口の扉に目をやった。

 そこには金と銀が混ざりあった髪を束ねた初老の御婦人が立っていた。

 空いてるテーブルを見つけると案内も待たずにその席につき足を組むと持ち込んだ新聞を読み始めた。

 

「あの人がマリエルを寝かしつけてくれるヴィオラさんよ。 後でこれをもっていって頂戴」


 そう言ってリディは、ミアにパスタのようなものが入ったシチューを手渡した。

 近寄り難い雰囲気を醸し出すヴィオラにミアはたじろぎながらも、シチューと水の入ったコップをテーブルへと運んだ。


「お待たせしました」


「おや、黒い瞳のお嬢さんかい。 珍しいね」


 この国では多色な瞳が多い中、ミアのような黒い瞳をもつ者は珍しく、先程から色々な人から同じ様に声をかけられていたのだ。


「ちょっと訳あってこの国に来たんです」 


「へぇ……」


 ヴィオラは切れ長の瞳で一瞥をくれるとカトラリーケースからフォークとスプーンを取り出し食事を始めた。

 ミアは『失礼します』と小声で呟きテーブルを後にしたが、彼女の事が気になって仕方がなかった。


(おばあちゃんにそっくり……)


 容姿は違えど振る舞いや話し方がミアの敬愛する祖母とよく似ていて、ミアは胸に熱いものを感じ手にギュッと力を込めたのだった。



 ◇



「今夜は客が多かったし手伝ってくれて助かったよ」

 

 店の看板を片付けるミアに、マリエルの父親バードが額の汗を拭いながら労いの言葉をかけた。


「今夜は行く宛がないなら上で休んでいきなさい」


 ミアはリディの提案に驚くが、『この時間に女の子が彷徨くのは危ない』とバードにも足止めされ、一晩部屋を借りることになった。


(こんなに良くしてもらっていいんだろうか……)

 

 余りにも上手く行き過ぎる展開にミアは不安になりながらも、程よく疲弊した体を湯浴みで解し二階へと上がった。

 そして今宵泊まる部屋の扉を開け少し小さなベッドにドサリと倒れ込み、先程出会ったヴィオラの姿を思い出す。

 

(ヴィオラさんて人、また会えるかな)


 祖母と似ていたというだけだったが何か通じるものを感じたのか、ミアは次の出会いを期待して目を閉じた。

 するとクロノは小さな金属音と共に嬉しそうに現れた。


「ミア、お疲れさんやったな」

 

「ありがとう。 そういえばステータスって変更あったの?」


「あったあった! 今回は手紙みたいになっとるで」

 

 ミアはゆっくりと体を起こし、クロノと共にステータスに連連と書かれた文章に目を通した。


【この度は、ルート攻略おめでとうございます。 ウサギから見事に人間になるという困難をよくぞ乗り越えました。 こんなに早くクリアするとは思わず私も驚いています】


「想定外だったんだ……」


【この逆境にも立ち向かい成し遂げた貴方に、最後のルートを開放します】 


 するとステータスにパッと文章が浮かび上がる。



__________


〈夢ルート〉開放


__________



「夢、ルート?」


【ここからは貴方が叶えたい夢に向かうための第二の人生です。 ルートと言っても是迄のようなクエストはありませんが、序盤に少しだけお手伝いをさせて戴いた箇所がありますので、ルート扱いになりました。 後はそのチャンスを活かして夢を叶える為にがんばって人生を謳歌してくださいね。 そしてこれは貴方へのご褒美ですのでどうぞ受け取ってください】


 すると目の前に小さな袋が現れ、ベッドの上にポスン、と落ちた。

 袋の中を開けてみると小さな赤い石が埋め込まれた指輪と金貨が数枚入っていた。


【報酬の一つに『キセキの指輪』をお渡しします。 これはたった一度だけ、『奇跡』を起こすことができます。 使うときはよく考えて使ってくださいね】


「あの女神様がこんなに労ってくれるなんて……」


 是迄のルートやクエストの内容は酷いものだったが、今回ばかりは感謝しかない。

 〈夢ルート〉という響きにも胸が高鳴り、ミアは早速左手の中指に指輪を嵌めてみる。

 濃く深い赤色の石はまるでガーネットのようだった。


「綺麗……」


 ミアは嬉しくなって思わず天井に向けてそれを眺める。

 

「あ、でももう寝るんだし外しておこうかな」


 そして手から指輪を外すと、ビリビリッと体に電気が走った。


「!?」


 感電後にベッドで座っていたのは、なんと白い毛皮のウサギになったミアだった。


「なにこれ? 戻っちゃった!?」


 今度はウサギの手で画面をスクロールする。

 何行もの空白があった後、再び文面が現れた。


【ここまで読んでくれてると良いのですが、その指輪は貴方の手から外れるとウサギの姿に戻ってしまうので、覚えておいてくださいね。 その方がスリリングで楽しいかと思い、オプションとして付けておきました。 勿論無くすと人間には戻れなくなるので気をつけてくださいね。 ではこれから先の人生、幸多き事を願います。 かしこ】

 

「やっぱり優しくない!!」


 ミアは思わず指輪をベッドに叩きつけた。

 クロノがそれを慌てて拾いあげたが、怒り顔からどんよりと暗い表情に変わっていくミアを見て思わず恐縮してしまい、腫れ物に触わるかのように指輪を差し出した。

 

「い、今はうさぎのままではおられへんのやし、付けとけ……」


「うぅ……」


 ミアは渋々左手に指輪を嵌め、人間の姿へと戻る。

 こうなると迂闊に外せなくなってしまい、ミアは大きく溜息をついた。


(やっと人間になったんだもの、絶対にウサギには戻らないんだから!)


 ミアは決意を固め再びベッドに倒れ込んだ。

 ようやく手に入れた第二の人生。

 ここからだというのにまだまだ気が抜けそうにない。


(ウサギかぁ……)


 『ウサギ』のキーワードから、ジル達の事を思い出しガバリを体を起こした。

 

(まさか、また会ったりしないわよね……)


 彼等はこの国の騎士団長。

 この国にいる以上、出くわす可能性は大いにある。

 人間になったのだから、あのウサギと同一人物だとは結びつかない筈だが、歌を歌うとなったら話は別だ。

 まだ音楽が普及していないこの国で歌を歌えば、怪しまれること間違いない。

 

(ウサギが人間になったなんてわかったら、今度こそ魔物扱いになる?!)

 

 人間の体を手に入れたものの、人生エンドルートはまだ存在しているようだ。

 歌姫になりたいけれど死にたくない。

 夢ルートの攻略は、これまで以上に難がありそうだ。


 

 

 


 

 

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