主人公は路頭に迷う
「ちゃんとクリア出来たんだ……」
ジルと別れ人間の姿に戻ったミアは、ステータスを見つめていた。
__________
〈人間ルート〉〈恋愛ルート〉攻略
報酬 :『鉱石』『キセキの指輪』『新ルート開放』
ジュエルスタン王国の城下町に向かいクエストをクリアすることで報酬獲得
__________
「ジルとの繋がりも無くなっちゃった……」
またじわりと涙が浮かんでくる。
けれど直ぐさまそれを手の甲で拭った。
ぐぅーー……
お腹から聞こえる音と共に、ミアは項垂れ大きく溜息をついた。
幾ら悲しくても、お腹はすくものだ。
人間に戻れたのは喜ばしかったが、ウサギの時のように森の中のものが食べられる訳ではなく、食料を調達しなければいけない。
(きっとひどい顔してるだろうけど仕方ない……)
ミアは泣き腫らした目を擦りながら、ステータスに書かれている通りに城下町を目指すことにした。
ジュエルスタンの城下町に入ると、大勢の人の声や様々な音が飛び交っていた。
石畳の大通りは馬車同士がすれ違える程に広く、通り沿いには多種多様な店が建ち並ぶ。
外で食べ物や装飾品を売る店もあれば、仕立て屋や鍛冶場等これまで見たことのないような物を扱う店が多く、ミアは目をキラキラさせながら大通りを歩いた。
ピロピロリン♫
ミアは頭上で例の電子音が聞こえたが、なんせ街中だ。
こんな場所でクロノを呼ぶわけにもいかず、ステータス確認は後回しにし、ミアは街を眺めながら食堂らしき店を探し歩いた。
すると大通りから外れた街路から、子どもたちが数人で言い合っている声が耳に入ってきた。
「返して! 大事なものなんだから!」
「何だよ、こんなボロっちいのが大事なんて可笑しいよ!」
幼い少女が三人の少年に囲まれ、本を取り上げられている所に出くわした。
涙目になって訴える女の子が不憫になり、ミアは思わず止めに入った。
「ちょっと! あんた達女の子に寄ってたかって何やってんのよ!」
仁王立ちですごむミアに少年達は『ヒッ!』と怯えた様子で本を落とし、慌てて路地奥へと駆けていった。
ミアは本を拾い砂を払うと、『ハイ』と少女に手渡した。
「お姉ちゃん、ありがとう!」
目に涙を浮かべながらも愛らしい笑顔を見せる少女に思わずミアも顔を綻ばせる。
「そうだ、ここら辺にご飯が食べられる所知らない?」
「それなら家においでよ!」
すると今度は目を輝かせミアの手をグイグイと引く。
その勢いに押され、少女の力強い手に引かれるままに路地奥へと進んでいった。
賑やかな大通りとは違って道幅も狭く静かな空間が広がる。
看板が出ているところもあるが、人通りが少ないからかあまり賑わっている様子ではなかった。
「こっちこっち!」
進んだ先に、鍋とフォーク、ナイフの絵が描かれている札が掛かった家を見つけ、少女は慣れた様子でそこへミアを招き入れた。
「お客さん連れてきたよーー!」
扉を開けるなりパタパタと奥へ入り、母親らしき女性を連れてきた。
「こんな時間にお客様なんて……あら!」
女性は驚いた様子で目を大きく開き、ミアを見る。
「このお姉ちゃん、お腹すいてるんだって!」
お店の有無を聞いただけだったのが、少女の中ではいつの間にか食事がしたいということになっている。
「貴方大丈夫? 目が腫れてるけど……」
「お姉ちゃん、お腹空きすぎて泣いてたんだよ。 お母さん早く何か出してあげて!」
見事に事実を曲説されミアは思わず首を振ったが、構わず話は進んでいく。
「それは大変ね。 今何か用意するから好きなテーブル席に腰掛けて待ってて頂戴」
そして女性は奥の部屋へと戻っていく。
こうも事が運ぶとは思わず挙動不審になっていたが、先程の少女がガタガタと奥のテーブル席に座り笑顔で手招きした為、好意に甘え椅子に腰掛けた。
「ねぇお姉ちゃん、どこからきたの?」
ワクワクした表情で突然問われ、ミアは思わず口籠った。
「お姉ちゃんはね……ここじゃない国から来たの」
「一人で?」
「そう、一人で……」
嘘は言ってないが、まさか転生してここに来ましたなんて説明するわけにはいかず、ミアは苦笑いを浮かべ、話題を変えた。
「そうだ、まだ名乗ってなかったわね。 私はミア。 貴方のお名前、教えてくれる?」
「私はマリエル! もうすぐ十歳になるの!」
「そう、かわいいお名前ね」
歯を見せて笑うマリエルに、ミアもつられて笑った。
「マリエル、此処まで連れてきてくれてありがとう。 本、好きなの?」
「うん、お父さん達忙しいから、一人でこれを読むの」
「今、お父さんは?」
「お父さんは今仕入れに行ってて、お母さんは夜の仕込みやってる。 だから私は邪魔しないようにお隣のおばあちゃんの所で本を読んだりお絵描きしたりして待ってるの」
「そうなんだ……」
寂しげに俯くマリエルを見て、胸がきゅうっと苦しくなる。
ミアは何とか先程の元気な表情に戻したいと思い、マリエルに一つ提案した。
「ねぇマリエル、私と同じように手を叩いてくれる? 私の国の歌を聞かせてあげる」
「おうた?」
「そう。 こうやって手を叩いて」
ミアは手をリズムよく叩くと、それを真似するようマリエルを促した。
マリエルもぎこちないが、ミアに合わせて手を叩く。
「こう?」
「そう、上手よ。 そのまま歌が終わるまで叩いてていてね」
コクリと頷いたマリエルを見ると、ミアはそのリズムに合わせて歌を歌い始めた。
言葉遊びのような歌詞と弾むようなリズム。
勿論マリエルには歌詞の全てを理解出来る訳ではないが、それでも瞳がキラキラと輝いていく。
歌い終わると、リズム打ちをしていたマリエルの手が拍手に変わった。
「ミアすっごい!! 何今の?」
「これが私の国で流れていたの。 面白いでしょ?」
マリエルは少々興奮気味にコクコクと頷いた。
しかしミアはハッと気づく。
この国ではまだ歌というものが無く、それを『魔物を唆す魔法』と呼ばれたことを。
同じ事を繰り返し兼ねない、とミアは慌ててマリエルに告げた。
「でも、この事は誰にも内緒だよ?」
「なんで? すっごく楽しかったのに」
「ごめんね。 でもこの事は私とマリエルだけの秘密にしておいてほしいの」
「……わかった」
不服そうに頷くマリエルを見てミアはホッと胸を撫で下ろした。
(つい歌っちゃったけど、やっぱり気をつけなきゃいけないよね……)
折角人間になれたのに、歌うのを我慢しなくてはならない現状にミアも顔に暗い影を落とした。
「さあ出来たよ! 召し上がれ」
気落ちしたミアの目の前に出されたのは、ゴロリと大きめの野菜が入ったシチューとフォカッチャのようなパンだった。
「まだ夜の分が出来てないからこれだけになっちゃったけど食べて頂戴」
「うわぁ……っ! ありがとうございます!!」
白く立ち昇る湯気と香りに食欲を刺激され、ミアは早速シチューを口に運んだ。
「美味しい……っ!」
こんな温かい食事はいつ振りだろうか。
ミアは目を潤ませながら次々と頬張った。
「貴方、本当に美味しそうに食べるわね」
「だって本当に美味しいんです!」
するとミアは、手持ちが金貨10枚ということに気が付き、慌ててそれを差し出した。
「あの……食べた後でごめんなさい。 手持ちがこれだけしか無いんですが……」
金貨がこの国ではどんな価値があるのか解らず所持金全てを見せると、母親は驚いて首を振った。
「そんな大金頂けないわよ。 あるものしか出してないんだからお金なんていらないわ」
「でも、こんな美味しい食事ただでは頂けません!」
「……貴方、働いた経験はある?」
「はい、以前コン……お店でなら」
『コンビニ』と言いかけて慌てて訂正する。
「じゃあ今晩うちの手伝いしてくれる? それでいいわ」
「解りました!」
母親の計らいにミアは大きく頷く。
そうしてミアはステータスの確認も忘れて、テーブル席の番号と通貨の種類を頭に叩き込み夜の開店時間を待つことにした。




