主人公は思い知らされる
ドラゴン治療期日まで後二日。
次の日も予告通りレオはドラゴンの治療に顔を出していた。
レオはミアの歌声にすっかり聞き惚れている様子で、腕を組みながら満面の笑みを浮かべ二匹の様子を見守っていた。
「あのウサギ、とてもいい声しているね。 聞いててすごく癒やされるよ」
「確かにそうだな」
レオとは対象的に、ジルは変わらず無表情のままで二匹を見つめていた。
「珍しく素直じゃないか。 そこで笑えばもっとモテるだろうに」
「余計なお世話だ」
無表情からムッと縦皺を寄せるジルを見て、レオは『やれやれ』と溜息をついた。
ドンドンドンドン!!
突然扉を強く叩く音が響き部屋にいた全員が肩を上げて驚くと、ジルは慌てて扉の方へと向かった。
「おい! 何事だ!」
「俺だ! ここを開けてくれないか!」
その声を聞いた瞬間ジルは『はぁ……』と長く大きい溜息をつき、渋々扉を開けた。
開けた先に居たのは、ナタン・ラシュレーという男。
錫色の髪を短く整えた、レオよりも更に長身体躯で、細身のジルやレオとは対象的に屈強な体格をしている。
彼も端正な顔立ちで、アースグレーの瞳には雄々しき光が垣間見えた。
「何故ナタンまでここへ来る。 仕事はどうした」
「昨日は遅くなったんだが、その分今日はさっさと済ませて来たんだ。 お前のクビがかかってると聞いてね」
「あんまりここでそういう話を漏らすな。 来るならさっさと入れ」
無愛想に誘われたにも関わらず、ナタンは嬉々としてジルの後に続いた。
「何だ、レオも来てたのか」
「あぁ、俺もジルの身を案じてね」
「冗談も程々にしろ。 お前等単なる野次馬だろう」
同僚、というより悪友関係に近いこの三名が、このジュエルスタン王国の砦となる三大騎士団を統率する団長である。
風のアネロス騎士団長ジル・ハーソン。
水のシードル騎士団長レオ・アデール。
炎のフロード騎士団長ナタン・ラシュレー。
三名ともまだ二十代という若さだが、其々が魔力、武芸、戦における才能に傑出している猛者達で、周囲は彼等を『ジュエルスタンの守護人』と呼んでいる。
名を聞けば慄く者も多い精強な男達が、一つの部屋でドラゴンとウサギを温かく見守っていると聞けば、誰もが失神するのではないだろうか。
そうとも知らず、ミアの中では『また人が増えた』という認識しかなかった。
「あれが噂の『魔物を誑かすウサギ』なんだって?」
遠目から興味津々に二匹を見つめるナタンを窘める様にレオが否定する。
「違う。 アレは『癒やしの声を持つウサギ』だ。 ジルもそう思うだろ?」
「確かにドラゴンの様子を見ているとその方が近いかもな」
言葉は通じなくとも、二匹は互いに嬉しそうに歌を歌ったり会話をしているようだ。
主従関係というより友達として繫がっている雰囲気を纏っている。
「あの様子だと明日には無事に治療が済むんじゃないか?」
「いや、あのドラゴンが自ら旅立つ迄は終わったとは言えないさ」
何故こんな大事に……と言いげなジルは目を伏せてふう、と小さく溜息を漏らした。
数日共に過ごしたことで、ミアが国を脅かすような力を持つ魔物ではないことは理解した。
しかしそれを明確に証明するものが未だに見つからない。
その為確実にドラゴンの治療を終えなければ、ラロウドの言葉通りミアに処分が下るだろう。
己で招いた事態なだけにジルは焦りを感じていた。
「なぁ、一度あのドラゴンを外へ出してみたらどうだ?」
ナタンの提案にジルはハッと目を見開いた。
「あれだけ元気そうなら多分飛べるんじゃないか? そしたらこの治療も成功なんだろ?」
「確かに長い期間この部屋にいたんだし、そろそろ外界が恋しくなってるかもしれないね。 宰相に提案してみようか」
「そうか、その手があったか……」
思わぬ解決の糸口が見えた事で、ジルも僅かに安堵の表情を見せた。
それを側で見ていたナタンはまるで弟を可愛がる様にジルの肩に腕をかけた。
「明日俺とレオで宰相の所に話してきてやるよ。 首謀者のお前が行くより説得力はあるだろうからな」
「俺もナタンに賛成だ。 やる価値はあると思う」
先手を打たれたジルはぐっと言葉を飲み込むと、暫く考えた後『悪いが頼む』と重い口を開いた。
それを聞いてレオとナタンは互いに眦を下げて顔を見合わせた。
「これが本物の女だったら冷やかせるんだがなぁ。 いや、これでも充分酒の肴になるか」
「余計な言葉は謹んでくれ」
残念そうに呟くナタンをジルは凍てつくような瞳で睨みつけた。
ナタンも負けずとニヤリと口角を上げ威圧するようにジルと対峙する。
「ほらほら二人共、今日もこれでお開きらしいよ」
するとレオが嬉しそうにミアを抱きながら、眠っているドラゴンの方を指差し二人に声をかけた。
「もう終いか。 残念だが明日を楽しみに寝るとするか」
「レオは何やってんだよ」
「見てのとおりだよ? そんなにこのウサギが大事なら余所見してちゃダメだよ」
「なっ……」
思わず言葉を詰まらせ動揺するジルを見て、レオも驚いた様子で固まってしまった。
「このウサギはジルまで治すのか」
暫くしてそう呟いたレオは、ジルにミアを手渡した。
「……どういう意味だよ」
「何でもない」
眉を潜めながらも教えた通りにミアを抱くジルに、レオはクスクスと満面の笑みを浮かべた。
(この三人って仲良しなのね)
彼等の素性を知らないミアでも、三人のやり取りから目には見えない信頼の絆を感じ、それが少し羨ましく思えたのだった。




