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【番外編付】転生したらウサギでした。〜めげずに(人間の)歌姫を目指したら、イケメン騎士団長達に愛されてました~  作者: 夢屋


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主人公は心に寄り添ってみる 2

 自室についた途端、ジルは『はぁ』と大きく息を吐き、ミアの入った革袋をベッドの上にドサリと降ろした。


「どうしたの? 疲れた?」


「お前と一緒にするな」


 革袋から顔を出したミアは先程の溜息が気になり声をかけたが、まるでそれを突き放すかの様な言葉が返ってきた。

 ミアは何か気分を害するような事をしたのか聞こうとしたが、ジルはそのまま無言でクローゼットから着替えを持ち出すとバタン、と扉を閉めて出ていってしまった。


(やっぱり何かあったみたい……)


 ミアはモヤモヤした気持ちのままベッドに寝転がった。


「なんやミア、心ん中が曇ってるなぁ」


 キンッと小さな金属音がしたと思えば、黒猫姿のクロノがミアの前に現れた。

 ミアを助ける際に体内へ入った事で、ミアの心の色模様が解る様になったようだ。

 背中についた小さな羽で気持ちよさそうにふわふわと浮かぶクロノを見ながら、ミアは長い溜息をついた。


「ジルって何考えてるのか全然わかんない」


 そして顔を顰めながら頬を膨らませた。


「そんなん最初からそうやったやん」


「でも、最近益々わかんない! 昨日はあんなに優しかったのに、今日はすごく冷たくあしらうんだもん。 何か寂しい……」


「そんなん、聞いたらええんちゃうの?」


「そんなの出来る訳ないでしょ!」


 ミアは転生前、好きな人こそいたが途中でギターが恋人となってしまった為、そうした色恋沙汰には疎遠になっていた。

 そもそもジルはミアを『魔物を誑かすウサギ』と認識している為に、とやかく言える立場ではないと考えていたのだ。


(こんな調子なのにあと二日でドラゴンを元気にしてあげれるのかな……)


 目の前にいる人にさえ声が届かないのに、言葉の通じない生き物にまでそれが届くとは思えない。

 己の無力さを感じたミアは思わず耳をしゅんと垂らした。

 

「おい、泣くなよ」


 ミアの心模様の変化を察知したのか、クロノが先に声をかけた。


「……泣かないわよ」


 すると何か思いついたのか突然ベッドから飛び降り、床を足で大きく打ち鳴らすと両手を忙しなく動かし始めた。

 脳内のステレオでロックを大音量で再生しながらエアギターを弾き始めたのだ。

 勿論人間の時のように指が動くわけではないが、それでもどこかに気持ちをぶつける様に必死に藻掻くよう両手を動かす。

 

(あーー! ギター弾きたいよぉ!!)


 ジャジャーーン!と脳内再生された曲が終わると同時に心の中で欲を叫ぶと、ミアはパタリと床に倒れ込んだ。

 室内で全身運動をしたために体に熱が籠もってしまい、立って居られなくなったのだ。

 ハァハァと息を切らしながらも意識を保つように体をゴロリと仰向けにした。

 

「……体もやけど、頭の方も大丈夫か?」


「うるさいわね……もうほっといてよ」


 エアギターというモノを知らない使い魔からしたら、鼻歌すらなくただ必死に体を動かす姿は奇行に映ったようで、要らぬ心配をかける羽目になってしまった。

 そして何とも不自由な体にイライラを募らせ目を潤ませるのだった。


「あーーもう! ストレスが溜まる!」


 床に寝転がったまま手足をジタバタと動かしていると、扉が開きぎょっとした顔でジルが入ってきた。


「何やってんだよ。 どこかおかしいのか?」


「ジルまで失礼な事を言わないでよ!!」


 ものすごい剣幕で睨みつけると、ミアはプイッとジルに背を向け丸くなった。

 どうやら八つ当たりを受けたと察したジルは、机に荷物を置きミアに近づくと、ミアの胸元に手を伸ばしレオがやっていたように腕の中にミアをスッポリと収めた。


「成程。 これは持ちやすいな」


 これまでとは違う抱え方と距離感にミアは驚いた。

 そして、湯浴みをしてきたのか湿り気を含んだ漆黒の髪から覗くハチミツ色の瞳が、伏せ目がちにこちらを見ている事に気づく。

 長い睫毛といつもより高めの体温、そして少し開かれた襟刳りから見える胸元が、男性とは思えない程の色気を醸し出していた。


(こ、これは……天に召されてしまうかも……)


 至近距離で色香にあてられたミアは『まだ死にたくない……』と思わず両手で顔を覆った。

 

「何だ、やっぱりレオの方がいいのか?」


 顔が近いせいか、小さく発した声を聞き逃さなかったミアは思わず顔から手を離し、ジルを見上げると少し不機嫌そうな顔をしている。

 それに気づいたミアは慌ててそれを否定した。


「違うの! いつも膝の上だったでしょ? なんかこの体勢が恥ずかしくて……」


「何だ、ウサギにも羞恥心はあるのか」


「本物のウサギはどうだか知らないけど、私は元人間だったって言ってるでしょ!」


 すると眉を潜めていたジルの顔が少し綻び『それは失礼』とミアの耳元で囁いた。

 心地良く響く低音ボイスに脳内を支配されたミアはくらりと目眩を起こす。


(『食用ルート』ではなく『爆死ルート』かしら……)


 僅かに残った意識でそんなことを考えていた。

 ジルは魂が抜けそうなミアを抱えたままベッドに腰掛けると、ミアを降ろし自らも隣でゴロリと体を横たえた。


「なぁ、今日はもう歌わないのか?」


 ミアの背中を撫でながら問いかけるジルの瞳は、室内灯によって光が加わり黄金色に見える。


「……ジルこそ今日は机に向かわなくていいの?」


「あぁ、また後でするよ」


 だから……と続きが聞こえてきそうな息遣いと向けられた視線にミアはドキドキしながら返答に悩んだ。


「じゃあ私もまだ眠くないし、うっ……歌っちゃおうかしらっ」


 悩んだ結果歌うことにしたが、思わず声が上擦ってしまったミアを見てジルはまた目を細める。


「お前、面白いやつだな」


 さっき迄不機嫌そうにしていたのに、今は笑顔を見せている。

 勿論薄っすらと笑みを浮かべる程度だが、何がきっかけでそうなったのかが解らないミアの心は、終始落ち着かない様子だった。

 あの時は何故不機嫌そうだったのか。

 何が彼の心を緩めたのか。

 それが解る日が来るのだろうか。


 歌っている最中で眠ってしまったジルの寝顔を見ながら『やっぱり訳わかんない……』と小さく呟き、自身も丸くなって隣で眠りについた。


 

 

 


 


 

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