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主人公は新ルートを解放する 2

 お互い見つめ合ったまま、暫く固まっていた。


 誘導尋問に引っ掛かったミアは、ダラダラと冷や汗を流し、青年も実際に目の前でウサギが喋ったのを見て、動揺が隠せずにいた。

 


 暫くして、青年は冷静さを取り戻すかのように大きく息を吐くと、再びミアの背中を撫で始めた。


「まさか本当に噂のウサギだとは思わなかったな……」


「それは違うわ! 私は誑かすなんて事してない!」


 開き直ったように、ミアはヒトの言葉で身の潔白を訴えた。  


「本当か? 喋るウサギなんてさすがに聞いたことないぞ」


「でも私は魔物じゃなくて普通のウサギだってば!」 


「喋る時点で普通じゃない」


「これには事情があって、ヒトの言葉を話せるようになったのも最近だもの」

 

「証明するものは?」


「証明するもの……クロノ! クロノがいるわ」


「もしかして、あの黒猫の事か?」


「そう!」


「あれは使い魔じゃないのか? 額に石があっただろ」


 よく見ていた上に、よく覚えている。

 青年はミアに冷ややかな視線を向けた。

 

「決定だな」


「待って、本当に違うんだってば! 誑かした覚えもないし、国を襲おうなんて微塵にも思ったことないしそもそもそんな力持ってない!」


 涙を溜めながら訴えるミアをみて、青年は眉を潜めた。


「……まぁそれが真実かどうかもこれだけじゃ判断できないし、喋るウサギを匿ったなんて周りに知れたら俺の首も危ない。 何か言い訳を考えないとな……」

 

 青年は膝にミアを乗せたまま、背中からベッドへと倒れ込んだ。

 天井を見つめながら、そのままミアの頭を撫でた。


 


「俺の名はジル。 ジル・ハーソンだ。 お前、名はあるのか?」


「あるわ。 ミアよ」


「ミアか……。 じゃあそう呼べばいいか?」


「ええ。 貴方の事はジルでいいの?」


「ああ、そう呼んでくれ」


 ミアは膝から下りると、ジルの顔近くまで寄り、頭を下げた。


「ねぇジル。 このことは誰にも言わないで。 じゃなきゃ私、食用にされちゃう」


「食用って極端だが……まぁ遠くはないか。 わかったよ、約束する」


 ミアはその言葉を聞き、安堵した。


「じゃあ私のいた森に早く帰して」


「何で?」


「何でって……私がいたら自分の首が危ないんでしょ?」


「確かにそうだが、お前が他のヤツに捕まって食用にされるのはもっと気分が悪い」


 その言葉を聞いたミアは、歌を聞きに来たクマの魔物が目の前で倒された時の事を思い出した。

 あのような思いをしないで済むようにと、森の奥へと隠れた時の感情と、ジルの言葉が重なる。 

 自分と同じ考えを持った人間に、ここで出会えるとは思ってもみなかった。


「ここまで連れてきた俺にも責任がある。 森に帰るのはこの騒動が治まってからだ。 それまで俺が匿ってやるから」


「……おかしな人ね」


「喋るウサギに言われたくないね」


 互いに悪態をつきながらも、一人と一匹は互いの身を守るために共生する事に決まった。

 

「で、ミアは何を食うんだ?」


「え? 今は草や木の実とかかな」


「今はって、どういう意味だよ」


「実は私、人間だったのよ」


 ミアの告白に、ジルは豆鉄砲をくらった鳩の様に目を丸くし固まった。


「お前、俺をバカにしてるのか」


「違うってば! 話を聞いてよ!」


「……一応聞いてやるよ……」


「実は私はクロノの手違いのせいで一回死んでしまったんだけど、女神様が新しい世界に私を転生させてくれてね。 転生前はちゃんと人間だったのに何故かウサギにされてね、本当に酷くない? それでこの国で来たんだけど、その時はヒトの言葉なんて全然話せなくて、話せるようになったのはつい最近よ。 レベルアップしたのかなんなのかわかんないんだけど、突然音がなったと思ったら『ヒトの言葉習得』とかステータスに書いてるの。 訳分かんないわよね、全く」


「俺はお前の方が訳分かんねぇよ。 ……もういい。 とりあえず食べるもん用意してくる」


 ミアの話を聞いたジルは『ミアは国を脅かすウサギだ』という事を証明している様にしか思えなかったようで、呆れた様子で部屋を出ていってしまった。


(やっぱりこんなの理解されないわよね……)


 ポツンと部屋に残されたミアは、しょんぼりと肩を落とし溜息をついた。


「ねぇクロノ、出てきてよ。 寂しいよ……」


 途端に心細くなったミアは、呟くようにクロノの名を呼んだ。


 すると、キン!という金属音と共に、クロノが目の前に現れたのだ。

 

「ミア! 探しとったんやで!!」


 聞き馴染みのある話しぶりに本物だと理解したミアは、現れたクロノに飛びつきわんわんと泣いた。

 不安と安心が混ざり合い、感情がコントロールできなくなってしまったのだ。 

 

「クロノぉ! 会いたかったよ!! 寂しかったよぉ!!」


「さっき迄森におったのに、いきなりここに来たっちゅう事は、オレはやっぱりミアの使い魔になってたんやな。 お前が呼べば出てこれるんがわかって良かったわ」


 そう言ってミアの体をポンポンと叩いた。


 すると次の瞬間クロノは何かを思い出したように目を見開き、ミアを引き剥がした。


「そうや、ミア! お前大変な事態になってるで!!」


「え……ここで暮らす事になったってこと? それならもう知ってるから大丈夫だよ?」


「ちゃう! コレを見てみぃ!」


 そう言ってクロノは大急ぎでステータスを開いてミアに見せた。


________________


 報酬 受け取り完了

 これより『恋愛ルート』 追加

________________



 ミアの涙がピタリと止まり、更に目を点にして先を読み進める。


________________


 攻略対象 : ジル・ハーソン


________________



「え……? 何コレ、どういうこと?」


 ジル・ハーソンといえば、ミアを連れてきた先程の青年の名前と同じだ。

 それが攻略対象と書かれている意味を、イマイチ理解出来なかった。


「『新ルート追加』って言ってたやろ。 多分このことや。 つまりお前は報酬として『恋愛ルート』を解放してしまって、そいつと結ばれなあかんようになったんや」


「はぁぁぁっ?!」


 ミアはこの急展開に目眩を起こし、ベッドに倒れ込んでしまった。

 

 ウサギなのに人間の男性と結ばれなければいけないなんて、そんな無茶な話があるだろうか。

 ミアは自分が『食用ルート』に向かっている気がしてならなかった。


「女神様って、私のことキライだったのかしら……」


「いやその逆で、ただミアにやらせたいと思ったことを盛り込んだだけやと思う……純粋さ故や、許したってくれ……」


 クロノは不憫そうに呟いた。

 その隣で、ミアは魂が抜けたように、呆然と天井を仰いだ。




 


 


 

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