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サフールのポルクスダイヤ  作者: あかあかや
16/17

小麦の大地

10日後になり、ボブが召喚された。周囲は一面の小麦と大麦の畑が地平線まで延々と広がっている。品種のせいなのか、まだ穂は出ておらず青々とした大草原だ。吹き抜ける風は冷涼で乾いていて、波紋のように風が大草原に模様をつくっている。

出迎えたフタンに挨拶してから、ボブが小首をかしげる。

「あれ? 港町じゃないですね。何かトラブルでも起きましたか?」


フタンが微笑んだ。

「その逆だ。魔力が余ったので、マフラ港町からさらに200キロメートルほど内陸へ進んだ。ここはワラガル村だな。開拓地だ」

確かに、石造りの農家が二十数軒ほど集まっている小さな村が近くにある。その後は、小川へ行き、土汚れが酷い麻人形と麻ミュレを洗って腰ポーチに収納したのであった。



村長に会うと歓迎してくれた。ワインを勧められたが未成年という事で断り、ブドウジュースを受け取るボブとフタンである。

「冬になると海が荒れましてな。海路では交易が難しくなるんです。早急にテレポート魔術ゲート路線が開通するように祈っておりますよ」

サフール王国では小麦と大麦はそれほど馴染みが無い。来たる寒冷化に備えての、諸外国向け輸出産業という位置づけだそうだ。村長がそう話してから、こっそり打ち明ける。

「実はウィスキーとビールの製造を進めているんですよ。酒であれば我が王国民も好みますからな」


ボブは感心しているがフタンはジト目になっている。ポルクは無反応だ。フタンが「コホン」と咳払いをしてから本題に移った。

「それで村長。この辺りに魔獣と盗賊団は居るか? 規模が小さければ駆除討伐しておくぞ」


村長が大真面目な表情になった。

「そうですか? この辺りにはマフラ港町にしか駐在所が無いんですよ。とても200キロメートル離れたこの村まで巡回してきません。ぜひお願いします」

魔獣は巨大なアブ群だと話す村長である。地図を作業机の上に広げて指さす。

「この辺りに巣があります。30キロメートルほど距離がありますね。数は分かりませんが、数百匹は居ると思います。家畜と農夫を襲って吸血するので困っているんですよ」

次に村長が地図の別の場所を指さした。

「ここに盗賊団のアジトがあります。遺跡に棲みついているんですよ。こちらは100人ほどですね。魔術具は筒型の銃弾発射器だけでしょう」


フタンが腕組みをした。

「どちらも多いな。駆除討伐の確約はできないが、できるだけの事はしてみよう」

村長がすがるような目をフタンに向けた。

「どうか、よろしくお願いします」



村長の家から出た後でボブがポルクに聞いてみた。

「何か策はあるかい? ポルクよ」

ポルクが即答した。

「魔獣群の方は、巣ごと爆破魔術を使えば問題無かろう。盗賊団の方は、廃墟ごと重力操作魔術で10メートルほど浮かせれば壊滅だな。雑作も無い。負傷者の治療はフタン君に任せる」

正確には水などの液体を瞬時に気化する気化魔術だ。力場術の共通魔術である。

フタンが了解した。

「なるほどな。それでいこう」


共通魔術の気化魔術は射程が15メートル以内で、気化爆発の範囲は直径1メートルだ。そのため、ボブとフタンは物理障壁をかけた上で、周囲の景色に溶け込んで接近している。乗ってきた麻ミュレは500メートルほど後方で待機中だ。


現場に到着するとアブ型の魔獣とその巣が見えた。魔獣は体長50センチメートルほどもある。羽ばたいているのだが、実際はソーサラー魔術を使って飛行しているのだろう。巣はちょっとしたアパートくらいの大きさである。

ボブが目を丸くしている。

「うげげ。でっかいな。それはそうとポルクよ。この辺りには水辺が無いぞ」

ポルクが素っ気なく答えた。

「魔獣の体内に充分な量の体液がある。それを使う。では、始めるぞ」


次の瞬間、上空を哨戒飛行しているアブ型の魔獣が次々に爆裂し始めた。さらにアパートくらいもある巣の中でも爆破音が連続して起き始める。

ボブが身構えるが、巣の中からはアブ型の魔獣が飛び出してこない。小首をかしげる。

「あれ? 出てこないな。籠城でもするつもりなのか?」

ポルクが呆れた口調で答えた。

「衝撃波を食らったのだよ。アブはハチと異なり女王が居ないため、こうして集合住宅をつくって暮らしているため殲滅するしか方法が無い」

卵と幼虫も全て全滅したのを確認したポルクが報告した。

「完了だな。次は盗賊団のアジトへ行くか」


フタンが感心している。

「さすが魔術研究所の共通魔術だな。法術での制圧は無理だっただろう」


次の盗賊団のアジト討伐はもっと呆気なかった。ボブが15メートルまで接近し、射程距離内に入ると石造りの廃墟ごと空中10メートルまで浮かび上がり、その後自由落下した。これだけで制圧である。

ガレキはポルクが個別に重力操作魔術を使って斜め方向へ吹き飛ばし、下敷きになっていた盗賊を救出していく。ほぼ全員が打撲と骨折を負っていたため、治療で大忙しのフタンだ。

「こらポルク! もう少し手加減しろっ」

そう言いつつ真白剣でキッチリと矯正していくが。


治療を終えた盗賊は矯正された後で、監禁用の収納ポーチの中へ押し込められていく。1つのポーチでは収容人数が20人以下という事なので、今回は5個使っている。

その作業を終えたフタンが「ふう」と一息ついた。

「よし。これでここも完了だな。ボブさん、ポルクさん。今回の召喚はここまでにしよう。盗賊どもは村長に引き渡して、今日中にマフラ港町の駐在所まで送ってもらうようにする」


ボブが了解した。

「分かりました。それでは次回の召喚は5日後になりますね」

フタンが迷彩柄のヘルメットの上から頭をかいた。

「実は、首都で多少仕事が溜まっていてな。今回もこれから首都へ戻る。なので、次回の召喚も10日後だな。場所はここワラガル村から出発だ。肌寒いから、厚手のシャツを1枚持ってくると良いだろうな」


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