さらに南下
この週は地元のカトリック教会での掃除奉仕をしたボブであった。チャックと彼女のブレンダも一緒に掃除をしている。ついでに礼拝も済ませて後で、チャド・ソーパー司祭が声を掛けた。
「ご苦労様でした。平日は掃除に来てくださる方が少ないので助かります。チャック君は次の日曜日にサッカーの練習試合でしたね。ケガを負わない範囲で活躍してください」
チャックがキリリとした眉を上げて、分厚い胸板を「ドン」と叩いた。ちなみに、ボブとブレンダを含めて3人とも気楽なポロシャツ姿である。
「体調は万全ですので、頑張りますよ」
ブレンダも笑顔だ。背丈がチャックと同じ180センチメートルほどなので、スポーツ商品のモデルのようにも見える。
「応援に行くね」
ボブもうなずいた。
「俺も応援に行くよ」
その後は、教会近くのインド料理屋へ行き食事をとったのであった。チャック司祭はスパイスが苦手なので不参加である。この料理屋ではタンドール窯があるため、ナンと鶏肉料理が有名だ。いわゆるタンドリーチキンである。
量が多いため、ボブたち3人で同じ料理を注文している。注文を終えたボブが、黒板に書かれているお勧め料理を見てチャックに話しかけた。
「ジャガイモ料理が安くなってるんだな。よく見つけたな、チャックよ」
チャックがドヤ顔になっている。
「サッカークラブの選手はどいつもこいつも大食らいだからな。安い料理には目ざといんだ」
パプアニューギニアでも高地ではジャガイモを栽培しているのだが、ほとんどはオーストラリア南部からの輸入だ。そろそろ秋なので在庫処分という事なのだろう。
今回は鶏腿肉と手羽、胸肉のタンドリーチキン盛り合わせを中心にして、鶏の内蔵と首肉の香辛料煮込み、豆スープ、葉野菜の香辛料炒め、ジャガイモの香辛料蒸し、そしてバターを塗ったナンだった。料理に使っている香辛料は全て異なっている。
インド人は水だけで食事をするのだが、ボブたち3人は氷を詰めた炭酸飲料を頼んでいる。
教会から来たばかりなので、形ばかりの食前の祈りを捧げてからガツガツと食べ始めるボブたちであった。まあ、中学生なので食べ盛りだ。
2、3種類の香辛料と岩塩を蒸したジャガイモにまぶした料理を食べたボブが、ふと思った。
(そういえば、フタンさんの世界じゃ、ジャガイモ料理は見かけなかったな。氷河期の世界でも熱帯地方じゃ栽培できないか)
次にバターを塗ったナンを1枚とって、タンドリーチキンを巻いてバクバクと食べた。
(小麦粉を使った料理も無かったな。美味いんだけどねー……)
最後はメチャクチャに甘いインド菓子を食べたボブたちであった。さらにチャイまで飲んでいる。このインド料理屋はどうやら北部料理を扱っているようだ。インド首都の東からビハール地方へかけての料理で、この甘い菓子が特徴的である。
ちなみに北西部になると油を大量に使い、羊肉料理が多くなる。北東部では魚料理が多くなる。南部へいくにつれてココナツを使った料理が増えてくる。
食事を終えてからボブがチャックたちと別れた。チャックが小首をかしげている。
「これからオーストラリア軍の払い下げ商店へ行くんだよな。いきなりミリタリー趣味に目覚めたのか?」
ボブが短髪パーマをかいた。
「いや、そうじゃなくてな。白いヘルメットだとちょっと目立つから、迷彩柄のヤツを探すつもりだ。店を教えてくれて、ありがとうな、チャック」
チャックが軽く肩をすくめた。
「クラブチームにミリタリー趣味のヤツが居るからな。気にすんな。それじゃ、また明日な」
さて、召喚日になった。今回もヤラデン港町の町役場前だった。
ボブを出迎えたフタンがヤシの実ジュースを渡した。ボブがそれを受け取り、飲みながら港を見つめる。何隻もの交易船が係留されているのだが、半数以上が差し押さえの看板を乗せている。船上には水夫は見当たらず、積荷も乗っていない。
「俺の予想以上に盗賊団と関わっていた船長が居たんですね。港町の機能が麻痺しているような」
フタンも同じヤシの実ジュースを飲みながら、冷ややかな瞳で交易船群を見つめた。
「法を守らなかった以上、当然だ。テレポート魔術ゲートは1本しか通っていないから、交易船とも共存できるのだがな。さて、コレを飲んだら町長に会いに行くぞ」
ボブが腰ポーチから迷彩柄のヘルメットを1つ取り出し、それをフタンに渡した。
「この色合いでしたら、目立たないと思います。どうぞ使ってください」
フタンが感心しながらそのヘルメットを受け取った。
「ほう……なるほどな。感謝する」
町役場に入ると、依然と比べて若干職員数が少なかった。町長に会って聞くと、やはり盗賊団に関わっていた者が居たそうである。町長が苦渋を舐めたような表情で話してくれた。
「急激な変化に対応できなかったのでしょうね。職員不足になりましたので、先日から新規募集をかけていますよ。テレポート魔術ゲート路線の安全が確保できましたので、今後は忙しくなります。職員の増員になりますね」
イラバイ盗賊団は警察による強襲で壊滅していた。フタンが小さくため息をつく。
「はあ……物理障壁では魔術攻撃に対処できない。当然の結果だな」
町長の話によると警察は熱線魔術の弾幕を張り、イラバイ盗賊団の包囲殲滅を狙ったそうだ。しかし、イラバイ首領は機転が早く、警察に敵わないと知ると獣人ウィナスに警察の足止めをさせて、どこかへ逃げおおせたという事だった。町長が肩をすくめる。
「結局、警察は盗賊団を1人も捕まえる事ができませんでした。200人ほども居たのですが。廃村は爆破魔術を使って吹き飛ばしていますよ」
フタンが感心した表情を浮かべている。特に何もコメントしていないが。ボブも同じ表情だ。
(へえ……200人ほどを脱出させたのか。イラバイ首領ってかなり優秀だな。それと獣人ウィナスの戦闘力も想像以上か)
町長が話題を変えた。
「ところで、今日はこれからどうする予定ですかな? 町内の観光をする予定でしたら、案内人を付けますよ」
フタンが素っ気なく答えた。
「私たちの仕事はテレポート魔術ゲートの動作確認なのでな。これから南へ向かう。1100キロメートル分の確認をして、ガンヤラ港町へ到着する予定だ」
町長が驚いた表情を浮かべている。
「なんと……忙しいのですね。我が王国の水田南限となります。ガンヤラ港町までの区間も安全が確保できますと、我が王国民の食糧需要を完全に満たす事ができるそうです。よろしくお願いします」
町役場の外へ出たボブがフタンに聞いた。
「フタンさん。今回はかなり長距離を調べるんですね。ポルクよ、大丈夫か?」
ポルクが自信満々の口調で答える。
「術式の確認作業を自動で繰り返すだけだからな。自動で作動する魔術をすでに組んである。ガンヤラ港町へ到着すると同時に、確認作業も完了する。問題無い」
ボブが感心している。
「おお……凄いな、ポルク」
フタンも興味深く聞いていたのだが、何か思いついたようだ。
「で、あれば……途中に盗賊団か魔獣が居るかどうか調べておくか。テレポート魔術ゲートを使う商人に聞けば分かるだろう」
ボブが肩をすくめながらも同意した。
「そ、そうですね」
こうして、行き来している商人たちに聞いてみると……やはり居た。商人から出現地点に最も近いテレポート魔術ゲートを教えてもらい、ポルクが空中モニターに表示した。ガンヤラ港町の北100キロメートルの場所だ。
「盗賊団ではなくて、カマキリ型の魔獣群だな。肉食なので牛舎の近くに巣があるだろう。物理障壁だけで対応できるな」
ボブが恐る恐るポルクに聞いた。
「また俺を空中高く投げ上げて、敵の居場所を調べるのか?」
ポルクが否定した。
「不要だろう。カマキリ型の魔獣は地上に巣を作る。だが、ボブが空を飛びたいのであれば、やっても構わぬぞ。それと、投げ上げるのではなくて逆自由落下だ」
当然、遠慮するボブであった。
とりあえず港町の屋台で食事を済ませるボブとフタンであった。今回はエビとカニ肉の混ぜご飯に、目玉焼きと揚げ魚を注文している。魚は熱帯魚で平べったく、手の平サイズだ。白身肉で淡白な風味である。これに野菜炒めと豆スープを食べて、ミルクコーヒーで口直しをした。
念のために米粉の煎餅とヤシの実を買い、フタンが迷彩柄のヘルメットを被った。
「では、行こうか」
ボブも同じヘルメットを被ってうなずく。
「はい、フタンさん」
今回は長距離なので、テレポート魔術ゲートの準備が整うまで10分間ほどかかった。今は準備完了して、ゲートの向こう側に牛舎と牧草地が見える。
フタンとボブがゲートを歩いて越えると、ポルクがすぐに報告した。
「動作確認をし、術式間違いを修正した。カマキリ型の魔獣も位置を把握したぞ」
ポルクが空中モニターを出した。牧草地の西に広大な常緑樹の森があり、その中に巣があるようだ。カマキリ型の魔獣は30体という概算だ。
「了解した。思ったよりも巣の場所が近かったな。10キロメートルほどか。ここは私に任せてくれ」
フタンが腰ポーチから麻ミュレを取り出し、それに騎乗した。右手には真白剣の柄を握っている。ボブが小首をかしげた。
「駆除ですよね。ここは俺の熱線魔術で撃ち殺した方が良いのでは?」
麻ミュレの背に乗ったフタンがボブに微笑む。
「牛舎と牛、人間を守るように行動を矯正する。殲滅してしまうと、新たな魔獣が森に棲みつくだけで、駆除を繰り返す事になるのでな。では、ポルクさん、私に物理障壁をかけてくれ」
「分かった」
ボブが冷や汗をかきながら感心している。
「な、なるほど……では俺も麻ミュレに乗って、後方支援しますね」
牧草地と森林は隣り合っているため、森林の手前でフタンが麻ミュレから降りて、森の中へ駆け込んでいった。ボブは森林の端から500メートルほど離れた牧草地で麻ミュレに乗って待機している。
ポルクが観測を継続し、リアルタイム表示でカマキリ型の魔獣の位置をフタンとボブに知らせている。フタンは空中に魔術陣をつくって、それを足場にして跳んでいるようだ。森の中なのだがかなりの高速移動である。
すぐに戦闘が始まった。空中モニターに表示されているカマキリ型の魔獣が、あっという間に『矯正済み』の色に変わっていく。実際には34体居た。ボブが感心しながら見つめる。
「相変わらず、凄いなあ」
フタンからの通信が届いた。激闘中のようで衝撃音が混じっている。
「牛舎へ向かって数体逃げ出した。熱線魔術で撃ち殺してくれ」
ボブが背筋を正して了解した。
「はい! ポルク、出番が来たぞ」
牛舎へ向かっているのはポルクの観測で3体と分かった。牧草地の中で待ち構えながら、空中モニターを見つめる。
「そろそろ森から出てくる。頼むぞ、ポルクよ」
「任せろ、ボブ」
同時に、森の中から巨大な3体のカマキリ型の魔獣が牧草地へ飛び出てきた。姿はカマキリなのだが、背丈が3メートル弱もある。両腕の鎌は金属光沢を放っていて、その刃渡りは1メートル弱もあった。
ボブが左人差し指を前に突き出した姿勢で、顔を青くする。
「げ! こんなに大きいのかよ!」
ポルクが淡々と答えた。
「雑作も無い」
次の瞬間。赤い熱線魔術が黒い爪から放たれ、3体のカマキリ型の魔獣の首を撃ち飛ばした。ボブの頭よりも大きなカマキリ型の魔獣の三角形をした緑色の頭が空中高く飛び、牧草地に落ちて転がった。地響きを上げて牛舎へ向けて疾走していた胴体も、前のめりになって倒れていく。
ボブの前100メートルほどの場所で、3体のカマキリ型の魔獣が倒された。
ボブが黒い爪を見つめて驚いている。
「おお……凄い威力じゃん。これじゃあ、人には使えないよなあ……ああそうだ。重力操作魔術を使っても良かったんじゃ? 発煙筒もあるし」
ポルクが否定した。
「このカマキリ型の魔獣は昆虫だ。飛行可能かも知れぬ。発煙筒はガスが牛舎に及ぶと厄介な事になる」
ボブがヘルメット越しに頭をかいた。
「あー……そうか」
ボブがフタンに駆除完了の報告をした。
「3体でした。無事に撃ち殺しましたよ」
しかし応答が無かった。小首をかしげるボブ。
「ん? 森の中だから通信不良になってるのか?」
ポルクが指摘した。
「いや、通信は正常だ。フタン君のバイタルに異常が生じているな。呼吸数がほとんど無い。間もなく窒息死するぞ」
ボブが驚愕した。
「え! ヤバイじゃん! 急いで助けに行くぞっ」
ボブが麻ミュレから飛び降りて森の中へ駆け込んでいく。途中で『矯正済み』ではないカマキリ型の魔獣が4体襲い掛かってきたが、ことごとくポルクの熱線魔術で首を撃ち飛ばされている。
ボブがヤブ漕ぎしながら森の中をがむしゃらに突き進んでいく。物理障壁がなければ傷だらけになっていただろう。
「ポルクよ。フタンさんみたいに森の中でも飛び回れる魔術ってないのかよ。これじゃあ、時間がかかり過ぎるぞ」
ポルクが否定した。
「共通魔術に使えそうな魔術は無いな。そろそろ到着する。攻撃準備をしておけ、ボブ」
ヤブ漕ぎして現場へ到着すると、フタンが大木の幹に体を仰向けに押しつけられて、2体のカマキリ型の魔獣の4本の鎌によって首を絞めつけられていた。彼女の両足が地面から浮いている。首つりの体勢である。
カマキリ型の魔獣はフタンの首を斬り落とそうとしているのだが、物理障壁のために斬れてはいない。しかし、刃が首に深く食い込んでいた。加えてフタンの全体重が彼女の首にかかっているため、窒息寸前だ。
フタンは必死で鎌を両手で持って首へかかる体重を減らそうとしているのだが、すでにフタンの顔色は蒼白に変わっている。
ボブがフタンの姿に驚きつつも左人差し指を2体のカマキリ型の魔獣に向けた。
「やれ! ポルク!」
「はいはい」
次の瞬間、2体のカマキリ型の魔獣の頭が撃ち飛ばされ、フタンの首を絞めつけていた4本の鎌も打ち砕かれた。地面に両足をついたフタンが、そのまま倒れ込み、荒い息を続ける。何とか間に合ったようだ。呼吸が落ち着き、顔に血色が戻ってきた。
「はあ、はあ……助かった。ありがとう、ボブさん、ポルクさん。不覚をとってしまった……」
自身に治療魔術をかけて回復を果たす。ボブが感心している。
(便利だよねえ)
「立てますか? 間に合って良かったです。魔獣群は全て矯正済みか、殺しました」
フタンが立ち上がって微笑んだ。もう足取りが回復している。
「そうか。完了だな。では、牧場で軽食をとってから残りの仕事を終えよう」
ポルクがフタンとボブに注意を与えた。
「我が使う物理障壁は共通魔術だ。高速で襲い来る物体を弾く魔術だな。故に、ゆっくりと押し切るような攻撃には対処できない。岩などによって押し潰される事も防げぬ。10秒以内に持続攻撃から逃れるようにな」
フタンとボブがツッコミを入れた。
「それを早く言え!」
牛舎へ行き、牧場主の男にカマキリ型の魔獣の矯正を知らせた。最初は矯正の意味が理解できなかった牧場主だったが、フタンが丁寧に説明すると理解してくれたようだ。ニコニコ笑顔になった。ちなみに彼も濃い褐色肌で黒いパーマ頭である。
「つまり、牧場の用心棒になってくれたんスね。感謝、感謝っす。法術師様っ」
フタンが少し照れながら答えた。
「仕事だから気にするな。あのカマキリ型の魔獣だが寿命は20年から30年だという。その間は安全だろう」
その後は牧場主の家で米粉煎餅とヤシの実ジュースをとったのだが、牧場主が気を利かせて牛乳とチーズを出してくれた。コンテチーズに風味が似ている。
「ささやかなお礼ですが、どうぞ」
ボブとフタンが喜んで受け取った。早速チーズを食べたボブが目を丸くしている。
「美味いですねっ」
フタンも上機嫌だ。
「チーズは涼しい場所ほど美味くなるというが、本当なのだな」
まあ、熱帯気候ではチーズづくりは難しい。
得意満面の笑みを浮かべた牧場主によると、ここから南方は一面の小麦と大麦畑になっているそうだ。
「山地が迫っていましてね。夏場でも時々冷えるんですよ。稲作にはちょっと不便なんで、小麦と大麦を推奨してるって訳でさ」
こうしてご馳走になった後で、テレポート魔術ゲートを通り目的地のガンヤラ港町へ到着した。ポルクがすぐに報告する。
「動作確認を調べ、術式間違いを修正した。それでは魔術研究所のロマイ君に送信する。これで今回の仕事は終了だな」
フタンがうなずき、町役場へ向かって歩き出した。この港町は建設してまだ新しいようで、建物がどれも新しい。行き交う人もそれほど多くない。移住がまだ進んでいないのだろう。
「では、町長に挨拶しておこう」
町役場も新しく、職員数も少なかった。しかし仕事量は多いらしく、皆大忙しで走り回っている。町長も仕事が忙しいようで、挨拶をするだけで終わってしまった。
「ようこそ、こんな開拓地へ。次回は5日後でしたな。それまでに情報をまとめておきますので、今日のところはこれにてお引き取りください」
仕方なく町役場を出るボブとフタンであった。
ボブが商店街を歩いて、パン屋に目を留めた。
「あ。パンが売ってますよ。お土産に買って帰ります」
フタンも興味を抱いたようだ。
「小麦の産地だからな。だが確か、魔術による品種改良をしているハズだ。ボブさんの世界へ持って帰ると、食べた人が体調を崩すぞ」
ガッカリするボブであった。
「あー……そうでしたね。残念。それじゃあ、今回も魚を買って帰ります」
しかし、ちゃっかりと焼き立てパンのサンドイッチはフタンと一緒に楽しんだのであった。気候が涼しくなってきているため、野菜の種類にレタスなどが加わっている。
二人とも先ほど軽食をとったばかりなので、小さなサンドイッチを1個ずつ注文していた。飲み物はオレンジジュースである。二人とも同じサンドイッチだ。焼き立ての小さなバゲットにレタスとタマネギ、トマト、コンテ風味のチーズと、牛の干し肉を炒めたものをドッサリと詰めて挟んだものである。
ボブが嬉しそうにバクバク食べていく。
「この小麦粉、凄く香りが良いですね。俺の世界では無いなあ。次回の召喚が楽しみです。お腹を空かせておきますね」
フタンもサンドイッチをパクパク食べながら微笑んだ。
「分かった。私は首都へ戻るには距離があり過ぎるので、ここに残って布教と治療活動をしておく。現地の情報も集めておこう」
ボブがオレンジジュースを飲んでからニッコリ笑った。
「そうですか。首都は移住で大忙しだと思いますので、ここでゆっくり羽を伸ばしてください」
フタンがジト目になってボブを小突いた。口元は穏やかなままだが。
「私を何だと思っているんだ」
今回は港でブリとクエ、それにタイをそれぞれ1尾ずつ買って帰ったボブであった。行きつけの食堂で料理してもらったのだったが、チャックとブレンダが大喜びしている。今回は分厚い切り身にコショウをまぶしてフライパンで焼いてから、バジルソースをかけている。
「おいおい。またもらったのかよ。どこの漁師だよ」
ボブが視線を逸らして頭をかいた。
「すまん。教えてもらえなかった」