表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サフールのポルクスダイヤ  作者: あかあかや
12/17

オーストラリア大陸へ

翌日はボブの母リンダが首都ポートモレスビーへやって来た。今はボブの行きつけの食堂へリンダを案内して、魚料理をご馳走している。ボブの故郷は森の中にあり、海からは少し離れているためリンダはご機嫌だ。

ボブと同じくマグロ切り身の蒸し焼きにトマトソースをかけた料理をパクパク食べながらニコニコ笑顔である。砂糖無しで牛乳をたっぷり加えたアイスコーヒーを飲みながらボブに話しかけた。

「その漁村から来た人にお礼をしなくちゃね。名前と連絡先は控えているの?」


ボブがリンダと同じ料理を食べながら視線を逸らした。

「うー……控えてない。ごめん、母さん」

リンダが細い眉をひそめて、大きなため息をついた。

「はあー……まったく、この子は。常識でしょ、こんなの。ジャンク屋のシモン店長に、アンタをちゃんと指導するように言っておくか」


その後は、リンダの買い物に付きあったボブであった。ショッピングモール内の衣料品店で特売の衣服を買い込み、さらに化粧品も多数買っている。両手にたくさんの荷物を持ったボブに、リンダが笑顔を向けた。

「ちょうど、菓子店が期間限定のスイーツを販売する時間ね。一人2箱までだから4箱買うからね!」

マンゴーとロンガン、マンゴスチンなどを使ったフルーツケーキだそうだ。冷却材を添えておく事で、1時間後に出発する故郷行きの飛行機に持ち込むつもりだろう。

ボブが困ったような笑顔を浮かべた。

「これ以上、荷物を俺に持たせるつもりですか。ただでさえ太ってるんですから、甘い物は控えてくださいよ」

当然のようにボブの文句を無視するリンダであった。



リンダが飛行機に乗って故郷へ帰ってしばらく経つと、召喚の日になった。今回もいつものように室内で工事現場用ヘルメットを被って、安全靴を履き、丈夫な長袖シャツとズボンを着ている。腰ベルトにはポーチを通した。最後に皮製の手袋をして、唯一穴が開いている左人差し指の黒い爪に告げた。

「ポルク。お待たせ。召喚に応じてくれ」

ポルクが気軽な口調で応じた。

「うむ。今はもう我が物理障壁と魔術障壁を使えるため、このような装備は不要なのだがな。では行こう」


召喚先はザイラプ新首都の仮役場前だった。フタンもボブと同じ装備をしているのだが、ポルクの意見に賛同している。

「そうだな。今後は軽装で充分だろう。ただ、各種障壁を常時展開するのは魔力の無駄遣いだから、安全靴と手袋だけは着けておくべきだろうな」


その後は屋台で鶏肉と豆のピラフを食べたのだったが、フタンはすでに都長に会ったと話した。

「都長と警察署長には、先日の海賊とバジリスクについての情報を提供してある。余力があれば対処するだろう。なので、ボブさんが都長に会う必要は今回無いぞ」

ボブも同じピラフを食べて、その初めての風味に驚きながらフタンの話を聞いた。この米は細長くて粘りが乏しいのだが、トマトのような旨味を感じる。

「そうなんですか。前回の仕事はテレポート魔術ゲートの確認でしたしね。俺には魔術適性が無いので、報告なんてできません。それで、今回は何をする予定なんですか?」


フタンが豆スープをレンゲですくって飲みながら答えた。

「南へ向かう。ボブさんの世界ではオーストラリア大陸の東岸沿いに南下する事になるな。仕事内容は前回と同じだ。テレポート魔術ゲートの動作確認と術式の間違い修正だな。ポルクさん、今回もよろしく頼む」

ポルクが気軽な口調で了解した。

「そうなのか。楽な仕事が続いて結構だ」

フタンが空中モニターを出して、地図を表示させた。オーストラリア大陸は北部以外では崖に囲まれているため、海抜が120メートル下がっても大して変化が無い。ただ、最南部のタスマニア島とは接続していて、広大な平原となっているが。


フタンが東海岸の北東部を指さした。

「ここザイラプ新首都から南へ700キロメートル先にあるヤラデン港町まで行く。この間にあるテレポート魔術ゲートの動作確認を調べて報告すれば、終了だな。次回はさらに南へ移動する予定だ」

ボブが食事を終えて地図を見つめた。

「オーストラリアですか。何度か行った事がありますが、とんでもなく広いですよね。サフール王国の領土って、広すぎませんか。人口100万人だけなんでしょ?」

フタンが肩を軽くすくめて肯定した。

「まあな。しかし、精霊や妖精などが支配する地域も多い。それにサフール王国南部では稲作ができない地域が多いんだ。小麦と綿花などを栽培しているが、小麦は王国民にまだ馴染んでいなくてな」


ボブが納得した。

「あー……そう言われてみれば、ここで小麦粉を使った料理を食べていませんね。麺料理は米粉でした」

稲の品種が膨大にあるため、小麦に似た品種があるらしい。まあ、同じイネ科だ。



その時、ボブとフタンのテーブルに夢魔アーサリがふらりとやってきた。暑いのか白いローブ姿である。ボブとフタンに気軽な口調で挨拶した。

「やあ。こんにちは」

フタンが一瞬警戒したが、すぐに緩めた。腰の柄から手を離す。

「なんだ、夢魔アーサリさんか。顔色が灰色だから驚いてしまったよ」

ボブは特に驚く様子もなく、普通の口調で挨拶している。

「こんにちは。ここへ来ていたんですね。夢の味はどうですか?」


夢魔アーサリが白いローブの中で黄土色の瞳を細めて微笑んだ。

「出身地が異なる人間が多いので、夢も多様ですね。ここへ来て良かったと思います。先ほどの話を聞いていたのですが、南方面へ行くのですか。2つほど気になる夢を食べましたので、お知らせしましょう」

南方面からここへ出稼ぎに来ている労働者の夢には、強力な盗賊団とジャイアントが暴れている内容が含まれていたそうだ。

「盗賊団にはカンガルー型の獣人が居て、これが大暴れしているという内容です。気をつけた方が良いでしょう」


ボブがフタンに聞いてみた。

「それって、もしかして取り逃した獣人ウィナスなのでは?」

フタンが軽く腕組みをする。

「これだけの情報では確定できないな。カンガルー型の獣人は他にも多く居る。だが、対策は講じておこう」

そう言って、フタンが腰ポーチから4本の発煙筒を取り出した。

「ロマイさんが開発した。これまで採集した花粉と毒液を加工したものだ。物理障壁をバジリスクの毒によって石化して破壊するので、魔術師にも効果が出るだろう」


トレントの花粉を加工した発煙筒は、毒と狂乱をもたらす効果。マンドラゴラの花粉を加工した発煙筒は、毒と狂乱、沈黙をもたらす効果。ダンデライオンの花粉を加工した発煙筒は、毒と狂乱、麻痺をもたらす効果。それぞれにはバジリスクの毒が配合されているので、物理障壁を破壊する。

そしてバジリスクの毒を加工した発煙筒は、石化をもたらす効果だ。


夢魔アーサリは面白がって眺めているが、彼女の横に座っているボブは顔を青くしている。

「ちょ、ちょっと危険過ぎませんか? 俺たちも被害を受けてしまうんじゃ……」

フタンが笑顔を浮かべて、杖をボブの左人差し指の黒い爪に当てた。

「専用の物理障壁をつくってもらったので大丈夫だ。今、ポルクさんに教えたので、ボブさんも保護されるよ」

ポルクが応じた。

「うむ。習得した。これで敵と共倒れになる事態は回避できるな。フタン君は法術師だから、石化を含めて治療できる。殺すことなく敵を無力化できるだろう」


フタンから4本の発煙筒を受け取ったボブが目を白黒させている。それらを腰ポーチに収めた。

「わ、分かりました。慎重に扱いますね。ポルクとフタンさんの指示に従います。しかし、発煙筒という事は花粉じゃなくてガスですよね。花粉防止マスクでは防ぐ事ができませんね」

フタンが肯定した。

「そうなるな。これら発煙筒は私も所持する。白色のガスなので、使用時は視界が制限される。その点は気をつけるようにな」


ニコニコ笑顔で見つめていた夢魔アーサリが話の続きを始めた。

「そうそう、あと1つの気になる夢ですが、どこかにアンデッドが潜んでいるという内容でした。ぼんやりとしていましたので、噂を聞いてそれが夢に出たのでしょう。

まあアンデッドに関しては、フタンさんが聖剣士ですから何とでもなるでしょうね」

フタンが少しドヤ顔になった。

「まあな。上位アンデッドでなければ浄化できる。夢魔アーサリさん、貴重な情報提供に感謝する」

ボブも礼を述べてから、少し困った表情を浮かべた。

「ありがとうございました。何かご馳走したいのですが、飲食は可能なんですか?」


夢魔アーサリが微笑んだ。

「可能ですよ。この体を維持するには食事が必要ですし。ですが、お食事会はまた次の機会にいたしましょう。では、わたくしはこれで失礼いたしますね。良いご旅行を」

そう言って、音も無く去っていった。ボブが見送る。

「人柄の良い魔族ですよね。食事を必要とするって事は、何か現金の収入源があるのかな?」

フタンがテーブルを立って会計で支払いを済ませた。

「夢占いをしている夢魔が多いそうだ。他には、さっきのように人の夢から重要な情報を得て、販売だな。さて、私たちも南へ出発しよう」



フタンが役場のテレポート魔術ゲートを操作していると、ポルクが何か気づいたのか指摘した。

「術式の不具合を確認中に緊急通信を傍受した。目的地のヤラデン港町の手前60キロメートルに設置されているテレポート魔術ゲートから送信されているな。暗号文なので我では解読できぬ」

ボブが興味津々の表情になり、フタンに提案してみた。

「魔術研究所のロマイさんに送って、解読してもらいましょう。もしかすると、夢魔アーサリさんが言っていたジャイアントかアンデッドと戦って苦戦しているのかも」


フタンが困った表情を浮かべながら思案している。

「私たちが援軍に向かったとしても、戦闘での連携が取れないぞ。軍か警察の足手まといになるのが関の山だが……敵の情報収集だけに専念するならば、魔術研究所と真教団にとって有益か」

フタンがポルクに命じた。

「分かった。では、その緊急暗号情報をそのまま魔術研究所のロマイさん宛てに送信してくれ。解読後の情報は真教団へも送るように頼む。ロマイさんの判断に任せよう」

ポルクが即答した。口調が軽い。

「うむ。送信を終えた。後はロマイ君からの指示待ちだな」



という訳で、いったんテレポート魔術ゲートの操作を中断した。順番待ちをしている役場の職員たちに操作を譲って、近くの屋台で寛ぐボブとフタンである。今はヤシの実ジュースを飲んでいる。

30分ほど経過して、ポルクが告げた。

「たった今、ロマイ君から応答が来た。空中モニターに表示する」


ボブとフタンは揃って果物盛り合わせに水牛の生チーズを加えて、それに蜂蜜をかけたデザートを食べていたのだが、慌ててスプーンを置く。果物はボブの世界で食べたマンゴーとロンガン、マンゴスチンだったが、魔力を帯びているのか風味が異なるようだ。

「あわわ……ちょっと待って、ポルク。屋台とは逆方向に空中モニターを出してくれ」

「そ、そうだな。座って聞くよりも立って聞いた方が良いだろう」


こうしてボブとフタンがテーブルから立ち、屋台とテーブルが映らないようにしてから空中モニターの前に出た。ポルクが少々呆れながらも告げる。

「やれやれ……では、接続するぞ」


すぐに空中モニターの画面に深刻な表情のロマイが映し出された。この双方向通信は、テレポート魔術ゲート網を中継して、ポルクと接続している。幻導術という分野のウィザード魔術らしい。

彼は相変わらずの中年太り体型だった。ただ、方々と会議を重ねたのか、肩まで延びている黒のパーマ髪が左右対称ではない。顔にも疲れの色が浮かんでいた。

「やあ。会うのは久しぶりだね、ボブ君。元気そうで何よりだ。さて、君たちからの提案なんだが、情報収集に徹するという条件付きで許可されたよ。戦闘には決して関わらないように」


フタンが短い細眉をひそめた。

「という事は、交戦中の敵は夢魔アーサリさんが言っていたジャイアントかアンデッドか? 魔獣ではなさそうだな」

ロマイが肯定した。

「偶然だとは思うけど、ストーンジャイアント群だ。ボブ君とポルク君はまだジャイアントとの戦闘経験が無いので、戦闘区域の外から観察する事は有益だろう」


ストーンジャイアントは名前の通り、全身が固い岩石で覆われている身長4メートルの巨体だ。先日、ワイバーン群が追い払ったトロルは普通の肉体で身長2メートル半なので、かなり大きい。

ストーンジャイアントには武器による攻撃が通用しにくい。基本的に岩を破壊するような攻撃を求められる。また、ポルクが使用しているものよりも弱いのだが魔術障壁を使う事も可能だ。


ボブが背筋を伸ばして緊張しているが、隣のフタンは余裕の表情である。腰の柄を「ポン」と叩いた。

「この真白剣には通用しないよ。普通にぶった斬って心をへし折ってあげよう」

ロマイがうなずき、命令をくだした。

「いざという時は頼むよ、フタン君。では以下の調査を命じる。敵ストーンジャイアントの数と武装、巣の場所を調べてくれ。その後は、今日の仕事であるザイラプ新首都からヤラデン港町までのテレポート魔術ゲートの動作確認をしてくれ。それらが完了したら、私に報告するようにな」


ボブがフタンと視線を交わしてから了解した。

「命令、承りました」



仮役場のテレポート魔術ゲートを通って、戦闘が行われている最寄りのゲートへ到着した。すぐにポルクがボブとフタンに物理障壁をかけて保護する。フタンがポルクに提案した。

「この他に、幻導術には透明化などの隠蔽魔術があると聞く。次回からはソレも使用してくれ。より私たちの安全性が高まる」

ポルクが了解した。

「ふむ、なるほどな。確かに幻導術の共通魔術にそれらしき魔術がいくつかある。次回から試してみよう」

ボブがニヤニヤしながら左人差し指の黒い爪にツッコミを入れた。

「おい、ポルクよ。全ての共通魔術を習得したんじゃなかったのかよ」


ポルクが「ゴニョゴニョ」と何やら言い訳を始めたが、それを無視してボブが周囲を見回した。テレポート魔術ゲートがポツンと1つ建っているだけで、周囲には人家が1軒も見当たらない。

ただ、東西南北の全方位に地平線まで水田が広がっているので、農業はしっかりと行っている。田植えを済ませて間もない様子だ。

ボブが目を凝らすと、遠くに十数体のゴーレムが雑草抜き作業と魔術具を使った病害虫駆除を行っているのが見えた。水田から埃みたいなものが吸いだされて、魔術具の中へ吸い込まれている。

「草でできたゴーレムですね。土製だと重くて水田では動きにくいからかな?」


フタンがテレポート魔術ゲート近くに置いてある、大きな樽のフタを開けて収容物を確認した。腰ポーチの巨大版らしい。

「水面に浮かぶように魔術で調整しているゴーレムだな。うん、液肥も充分な備蓄量だ」

液肥の原材料は町村で生じる生ゴミと畜産廃棄物だそうで、病原菌を滅菌してから液化していると話すフタンである。肥溜めの進化版といったところか。これに海藻を液化したものを糖類の補給という事で加えているそうだ。

「この地域はゴーレム任せなので、稲の品種が原種に近い。風味が少し悪いので、家畜用の餌として使っているんだ。その分、タンパク質の含有量は高いが。さて、ポルクさん。戦闘地域はどの方向か分かるか? 私では分からない」


ポルクが即答した。ボブの左人差し指から赤いレーザー光線が西の空へ向けて放たれる。

「うむ。この方向だな。直線距離で10キロメートルほどだが、水田の上を走らねばならぬな」

フタンが腰ポーチから麻ミュレを取り出した。

「問題無い。では行こうか」



戦闘区域は低い岩石質の丘だった。水田が終わって潅木交じりの荒野である。1キロメートルほど距離をとって麻ミュレから降り、潅木の陰に隠れて戦況を伺う。

フタンが短い細眉をひそめた。

「ほぼ戦闘終了だな。王国軍の全滅だ」


王国軍には人間が見当たらず、全て金属製の大型ゴーレムだった。半分自律稼働の遠隔操作型らしい。見た目はロボットそのものである。形状は8本脚の蜘蛛に人間の上半身が乗っている感じだ。

元々は盗賊団や魔獣駆除として設計されていたようで、武装は無く、捕獲用の道具しか持っていない。つまり、戦闘力はかなり低く、せいぜい体当たりか殴りつけるしか手段が無い。


当然ながら、そのような武装ではストーンジャイアントに対して無力である。固い岩石質の拳で殴りつけられ、同じく蹴られて、金属製ゴーレムが粉々に破壊されている。遠くに居た金属製ゴーレムは、大岩の遠投によってペシャンコにされていた。


最後まで残っていた金属製ゴーレムが粉々にされたのを見て、フタンがボブに注意を与えた。

「ジャイアントは大岩を投げて攻撃する特徴がある。知性が高くなると大岩を砕いて散弾に加工する。有効射程はジャイアントの身長に比例するが、1から3キロメートルだ」

ボブがうなずく。

「なるほど。俺たちが居る場所も安全ではないんですね。ジャイアントに気づかれないように、そっと観察します」


ポルクが報告した。

「もう観測は終えたぞ。ストーンジャイアントの戦闘員は23体。武装は無いな。巣はここから見える丘の洞窟だ。その中に非戦闘員が97体潜んでいる。魔術具の魔力は感知しなかったので、持っていないだろう」

ボブが目を凝らすと、地平線近くの丘に洞窟が見えた。門番のストーンジャイアントが3体立っているので、意外と目立っている。

「あー……アレか。予想していたよりも大所帯だな、ポルクよ。それじゃあ、フタンさん。俺たちはそろそろ撤退しましょうか」


フタンも自身の杖による観測を終えたようだ。静かにうなずいた。

「そうだな。では麻ミュレに乗ってテレポート魔術ゲートまで戻ろう」


こうしてボブとフタンが麻ミュレに乗って戦闘区域から離脱した。潅木交じりの荒野を走っていくと、やがて地平線に水田が見えてきた。それを眺めながらボブがふとフタンに聞いてみる。

「フタンさん。あのストーンジャイアント群ですが、食事はどうしているんですか? 米を食べるのかな?」

フタンが腰のホルダーから柄を取って右手で持った。

「土の精霊と関わっているので、土岩が主食だ。その精霊の魔術によって土石を肉体に変換していると聞く。しかし、雑食だな。米も食べるそ。それよりも……ストーンジャイアントの斥候に見つかったようだ。私が斬り伏せるから、ボブさんはまっすぐ駆け抜けてくれ」


ボブの目には前方の荒野には、ジャイアントの姿は見当たらなかったのだが、フタンが言い終わると同時に潅木の陰から1体のストーンジャイアントが飛び出した。同時に両手に持っていた土石を投げつけてくる。

距離がまだ数百メートルあるため、土は空中に散乱してしまったが、石は大量に飛んできた。しかし、ポルクが展開している物理障壁によって全て軌道を曲げられてしまい、当たっていない。


しかし石つぶての威力は凄まじく、ボブとフタンの周囲が地面ごとえぐられている。草と潅木も粉々だ。ボブが麻ミュレを真っすぐ走らせながら、顔を青くした。

「うへ……とんでもないな。こんなの浴びたら、金属製ゴーレムだって砕けるよ。しかし、身長4メートルもあるのに、どうやって潅木に潜んでいたんだ?」

理由はすぐに分かった。地面を食べて大穴を掘って潜んでいたのであった。


フタンが気楽な表情でストーンジャイアントへ突撃していく。今回も斬る直前まで刀身を出さないつもりのようだ。物理障壁のおかげで大量の石つぶてを浴びても無傷である。

「ポルクさんの魔術支援でかなり楽だな」

そう言った次の瞬間、フタンが騎乗している麻ミュレが時速40キロメートルの戦闘速度でストーンジャイアントの脇をすり抜けた。一瞬だけ白く光るビーム剣が見える。


ストーンジャイアントが吼えながら後方へ振り返り、追いかけようとしたが……数歩進んだ後で膝をついて前のめりに倒れた。虚脱状態になって表情が緩んでいるストーンジャイアントを距離10メートルで見て、そのまま真っすぐに駆け抜けたボブが、何となく同情した。

(心を折られた者が、また1体……強く生きてくれ)

斥候の仕事をしているので、勇者に属するのだろう。彼の今後が心配になるボブであった。



こうしてストーンジャイアント群の情報収集を終え、テレポート魔術ゲートの動作確認をしつつ目的地のヤラデン港町へ到着した。港町なのだが、交易船は少ない。テレポート魔術ゲートを使う方が便利なためだろう。

役場へ行って町長に挨拶し、調査内容を報告すると昔話をしてくれた。

「テレポート魔術ゲートが設置されたのは最近になってからなんですよ。なので、交易船が活躍していたんです。新首都の建設が始まって、急速に整備されました。米の一大産地にする計画です」

米の他には麻、サトウキビ、サトウヤシ、油ヤシなども大規模栽培するそうだ。


ボブが納得した。

「なるほど。食糧の生産拠点になるんですね。ストーンジャイアントは土石を食べるだけですが、排除したいというのは分かります」

町長が軽く肩をすくめた。

「実は、用水路の護岸と水田のあぜが好物みたいなんですよね。粘土が含まれているせいでしょうか。食べて破壊されると大いに困ります。できるだけ早急に討伐してもらいたいものです」


町役場から出て、ポルクが魔術研究所のロマイ宛てに報告を送信し始めた。フタンはボブの召喚が終わった後で首都へ戻り、上司に報告するそうだ。

「すでに1日の移動距離上限を超えているので、次回からは現地に残って医療活動を行う事になるだろうな。私としては、そちらの方が良い」

ボブが地図を思い起こして同意した。

「ですよね……オーストラリア大陸をそろそろ半周する距離になりますよね」


ちなみに米価格だが、今後は大産地での販売価格が標準になるそうだ。一気に米の価格が下がる事になる。困るのは町村での小規模な農家だが、王国政府が全量を買い上げ、補助金を出して農家に儲けが出るようにする計画だ。

ポルクによる報告の送信が終了したので、今は港町にある公園でサトウキビジュースを飲んでいるボブとフタンである。搾りたてなので白っぽい色だ。見た目はヤシの実ジュースに近い。

それを飲みながらフタンが話した。

「明らかにサフール王国での食糧需要を上回る食糧生産だ。小惑星落下による地球規模での寒冷化に備えていると聞いた。サフール王国は熱帯地方なので影響は比較的低いのだが、他の王国ではそうはいかないそうでな」


ポルクは無反応なので、ボブが答えた。

「なるほど。困った時はお互いに助け合わないといけませんよね」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ