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桜吹雪の家  作者: 京泉
1/8

【1】

 閑静な住宅街に売り出し中の家がある。


 土地は周りにと比べても大きめの二百坪。

 家の間取りは一階に十二畳の応接室と六畳の和室に、二十五畳のリビングダイニング。二階には八畳の部屋が三つと十畳の部屋が一つ。

 車が三台置ける駐車場を作っても余裕のある庭。


 そして、その庭には一本の桜が今を盛りと咲き誇っていた。



 八時の始業のチャイムが鳴った。

 普段と変わらない一日の始まりにやって来たのは如何にもな風体の男と洒落た風体の男。

 二人の男がすっと胸元から取り出した手帳に応対に出た事務員が「社長!」と慌てたように振り返った。


「お仕事中に申し訳ありません。おたくが管理されている清蘭町の住宅についてお聞きしたいのですが」


 応接室へ案内してすぐに如何にもな風体の男は山谷。洒落た風体の男は上林と名乗った。


「清蘭町の住宅との事ですが、どの物件でしょう」

「庭先に桜の木がある家です。あの辺りでは大きめの家ですね」

「ええっと⋯⋯ああ、これです。あの家がどうかしましたか?」

「ええまあ、その家で人が亡くなっておりましてね」

「そんなまさか! 誰ですか! いつ! どこでですか? 庭でですか?」

「発見は今朝。新聞配達が普段は扉が閉まっているその家の玄関が空いている事に気付き中を覗いて通報して来ました」

「そんな⋯⋯。管理している住宅は内覧時以外施錠してますし、内覧する際には記録を取っています」

「その内覧の記録を見せていただけますか?」


 社長は事務員へと指示を出し、差し出された帳簿を上林が開いて日付を追う。

 広い家への憧れからか豪邸とも言えるその家の出入りは少なくはなかったが、事件の発覚した日付から約一ヶ月は極端に内覧者の数が減っている。


「この一ヶ月、内覧者の数が減っていますね。しかも同じ方が何度もいらしている」

「ああ、ええ、実は⋯⋯」


 所長が口ごもりながら説明したのは、その家が売りに出された経緯。

 その家は資産家の老夫婦が暮らしていた家だった。二年前、夫が亡くなり妻は遺産として受け継いだ家を手放さずにいたが、高齢の為に足腰が弱り一人で暮らす事が辛くなってきた為に一年前売りに出した。しかし、その妻もつい半年ほど前に夫の元へと旅立った。

 

「当時、奥様はホームに入るのに入り用との事でしたのでその家は仲介ではなく弊社が買取をしました」


 土地の広さ、家の大きさによって一帯の相場よりも高くなってしまう物件はそれ故に買い手が現れるまで支払いがされない仲介よりも、売値は安くなってしまうが直ぐに現金が手に入る不動産会社の買取を選択する売主が少なくはない。


「売り出した直後はあれだけ立派なお宅ですから見るだけでもの気持ちで内覧に訪れる方は多かったですね。でも⋯⋯やはりと言いますか、結構な額の家ですので購入者は現れず内覧の方も減ってきた所、この名簿の方が購入すると。かなりお若いのに」


 なんでも近々大きなお金が入る。それを元手に購入し、残りは住宅ローンを組むのだと言った。

 会社としてもいつまでも売れない物件を抱えているより売れる見込みがあるのなら断る理由もなく、売却の準備を始めていた中で今回の事件が起きたのだ。


「事件、しかも刑事さんが動いているという事は殺人なのでしょう?」

「いや、殺人と決まった訳では──」

「それでも人が亡くなっていたのですよね? 瑕疵物件になってしまったなんてああっなんて事だ」


 やっと購入者が決まるかと思ったのにおまけに瑕疵が付いてしまったと頭を抱える社長に山谷がふっと眉間に皺を寄せた。


「ええ、ええ、ちゃんとお話をします。我が社の信用にも関わります。隠しません。お客様のケアもしっかりします。それで購入をやめないよう説得します」

「あの⋯⋯申し訳ありませんがこの方にお話をお聞きしたいのですが」

「あ⋯⋯はい」


 山谷が戸惑うような声を上げる。はたりとした社長が顔を上げれば、困ったように眉を下げた山谷と上林がいた。

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