客はボクサー!
海の家は大変……
ボクサー達の練習、端から見ていても実に厳しい物である。砂浜をダッシュするのだが、砂浜は踏ん張りが効かない。いつもの倍は脚力が必要になる。その上で更に緩急を付けて走っている。凄まじい物が有る。
「……見てるだけで暑いな……」
「げっそりだよ……」
「石谷も、こんな練習してんのかな?」
「だろうな」
「「…………………………………………」」
「おら、仕事だ仕事!…こっち来い!」
「「分かりました!」」
「……こっちはこっちで、げっそりしそうだな?」
「確かに……人使い、本当に荒いな……」
「何だって?…お前等は口より身体を動かせ!」
「あれだよ……」
「全く……」
謙二と伸介は、大輔と共に本日も夏本番の用意となった。
本日も7月の夏本番に向けて、色々と作業を1日行った。謙二は前日からやっている為にへとへとの様であり、伸介は初日ながらかなり疲れた様である。
「よし、とりあえずは準備OKだな……ご苦労さん!」
「……ご苦労さんだけかよ……」
「社長、特別手当てなんかは……」
「無い!……有る訳無いだろ!」
「「やっぱり……」」
「けちだよな……」
「通り越して、血も涙もねぇんじゃねぇのか?」
「お前等は~……とりあえずだ、明日は自由にしてやる!…しょうがないから休日だ!」
「「本当ですか?」」
「嫌なら無しにするが?」
「いやいやいや、しっかり休みます!」
「ありがとうございます!」
「……げんきんな奴等め……」
謙二と伸介は、明日は休日となるらしい。
仕事が終わると、謙二は伸介を連れて夕飯の買い出しに出た。
「凄いだろ~?…流石は海の近くだな?」
「本当に……東京なら、どんな金額になるのやら……」
「確かにな……物価の違いにびっくりだよな?」
「ああ、びっくりだ……謙二、所で何買うんだ?」
「そうだなぁ……ボクサー達の夕飯……何がいいだろ?」
「ボクサー達の夕飯かぁ……疲れが取れて栄養が有って……」
「消化にいい物だよなぁ……」
「謙二君いらっしゃい!…今日は何が欲しいの?」
「ああ、それなんですがね……消化が良くて疲れが取れて……栄養が有る都合のいい食べ物有りますか?」
「青み魚がいいんじゃないか?……安くしとくよ!」
「そう?…助かるよ!……じゃあさ、これとこれと……こっちも貰おうかな?……それもお願い!」
「謙二、買い過ぎじゃ……」
「大丈夫だよ、ねぇ大将!」
「おう、安くするよ!」
「じゃあ、全部で2000円でお願いね!…はい、2000円!」
「ちょっとちょっと、流石にそれはないでしょ?」
「安くするって言ったじゃん?」
「安くはするけどさぁ……ちょっと隣のお兄さん……」
「俺も聞きましたよ?……海の男が1度言った言葉を……」
「そうだよな、伸介!……海の男が言葉を飲み込まないの!……じゃあ、2000円でありがとね!」
「ありがとうございました」
「……しょうがないなぁ……今回だけだからね!」
謙二は夕飯の材料を、とても安く買う事に成功した。
「流石というか強引というか……」
「いいんだよ、安く買えたんだから!」
「……そうだな、良しとしよう」
「おう!」
2人はブルー·マリンに戻って行った。
ブルー·マリンでは、既に夏海が帰って来ていた。夏海は外で2人を待っていた。
「遅いよ2人共~……」
「お前の帰りが早いんだよ!」
「そうそう……それよりさ、夏海ちゃんは期末テストじゃないの?」
「来週から……自信ないなぁ……」
「伸介見てやれよ、頭いいんだから」
「そうなの?」
「大した事ないよ」
「慶応だろ?」
「よく知ってんな?」
「インターハイの時に言ってたろ?」
「そうだっけ?」
「凄~い、伸介さん勉強教えて!」
「……暇な時で良ければね……」
「ありがとう、お願いね!……謙二君は期待出来ないからさぁ」
「何言ってんだ?…俺だって大学出てるぞ?」
「嘘?」
「本当だよ。確か……三京大学だったよな?」
「よく知ってんな?」
「お前の活躍、色々耳に入って来てたんでな」
「三京大学って、西日本の運動で有名な大学じゃない?」
「そうだよ……確かに勉強は苦手だけどね!」
「……謙二君でも大学出たのか……しっかりやらないとな……」
「な·つ·み!……謙二君でもとはどういう意味ですか~?」
「謙二、大体分かるだろ?」
「そうだよ謙二君!」
「お前等は~……」
「お~い、早く夕飯作れよ!」
「分かりました、すぐやりま~す!」
「……人使い荒いんだから……本当に年寄りは……」
「謙二君、ぶつぶつ言わないの!…さぁ、行きましょう!」
3人はブルー·マリンに入って行った。
本日の夕飯は伸介の担当である。伸介は悪戦苦闘しながら、何とか夕飯を作っていた。勿論、夏海はサポートをしてくれていた。
夕飯が出来たタイミングで、ボクサー達が帰って来た。
「丁度良かった、夕飯にしましょうか?」
『お願いします!』
ボクサー達が席に着くと、謙二と夏海が料理を運ぶ。
「あれ、夏海ちゃん?……また1段と綺麗なったんじゃないの?」
「もう篠原さんたら……本当の事言うんたから~……」
「大丈夫ですか篠原さん?…打たれ過ぎて目が悪くなってませんか?」
「失礼な……お世辞くらいは言えるよ!」
「篠原さん、お世辞だったんですか~?」
「!?……お世辞じゃないよ!…謙二さん、変な事を言わないで下さいよ!」
「ごめんごめん、つい本当の事を言わせちゃったね……」
「本当ですよ!」
「やっぱりお世辞だったんだ~……」
「うっ……」
「はいはいはい、話はそこまで!……席に着いてご飯にしよう!」
「伸介の言う通りだ!…夏海、ちんちくりんだからって気にするな!」
「お爺ちゃんの馬鹿~!…この、デリカシー無し夫!」
夕飯も、なかなか賑やかである。
本日の夕飯、かなり評判が良かった。伸介は、とりあえずはほっとしていた。
片付けが終わり、謙二も伸介も風呂を済ませて2人でビールを飲んでいた。
「ちょっといいかな?」
「篠原さん、どうしたんですか?」
「休んだんじゃなかったの?」
「いや、石谷の事を聞きたくてさ……」
「石谷かぁ……」
「インターハイで面識有るくらいですよ?」
「それでもいいからさぁ……石谷は華が有るんだよなぁ……同じ世代として、鼻が高いよ!」
「変な自慢ですね?」
「そうかなぁ?……でも、あいつは本当に凄いんだよ!」
「確かに高校の時から凄かったですね……」
「本当に!…殆どRSCだったもんな!」
篠原を交えて石谷の話で盛り上がった3人、実に楽しそうである。
「久しぶりに楽しい話が出来たよ、ありがとうね!」
「いやいや、こっちこそ楽しかったです」
「篠原さん、日本タイトル絶対に取って下さいね!」
「頑張るよ……」
「絶対取るって言わないと!」
「そうですよ、気持ちが大切です!」
「……何だか、会長達と話してるみたいだな……とりあえず、出来る事は全てやるよ……僕はさ、高校の時は全国でベスト8が最高だったんだ……東日本新人王でも、準決勝で負けてるし……栄冠を取った事が無い……」
「……厳しい世界ですからね……」
「そうかもしれないけど……だから、今でもチャンピオンを目指せてると思ってる……いつか報われる……そう思って頑張れる」
「いい感じですね!…伸介と一緒に、応援してますからね!」
「ありがとう!…さて、最後の走りをして来るか」
「「走るの?」」
「あれだけトレーニングして?」
「まだやるの?」
「はっはっは、これくらいは当たり前だよ……6回戦の2人はダウンだけどね……では!」
篠原は謙二と伸介に軽く右手を上げ、ロードワークに出て行ってしまった。
「流石、日本タイトルに挑戦するだけあるな……」
「敵わねぇな……」
2人は屋根裏部屋に移動した。謙二と伸介は、布団に横になって話をしていたのだが、いつの間にか眠ってしまっていた。大分疲れた様である。2人にとって、特別な夏はすぐそこの様である。
篠原だが、こちらは1時間程しっかりと汗を流した。日本タイトルに向けて、気合い充分の様である。
大輔は、1人自分の部屋で頭を悩ませていた。
「……これだけ買って、2000円程度しか減ってないな……政さん、大丈夫かなぁ……」
大輔は心配そうに呟いていた。
魚政鮮魚店では…………
「ちょっと、あなた!…何でこんなに売れたのに、こんなに利益が少ないの?」
「大輔さん所にさぁ、新しい人が入って……」
「だから何?」
「まぁ……お祝いも兼ねてさぁ……」
政はメモを奥さんに見せた。
「それで、いくらで売ったんだい?」
「……2000円……」
「はぁ?…これなら、安くても10000円以上するでしょ?」
「……しかしだなぁ……」
「本当に馬鹿なんだから!…来月の小遣いから抜いておくからね!」
「ちょっと待て、只でさえ少ないのに……」
「文句有るの?」
「……無い……です……」
どうやら、政は謙二の最初の被害者となった様だ。
まだまだ、何か有りそうです。