熾烈、夏の海!
レースは?
スタートのピストルと共に、みんなが海に走り出した。最初のスイムである。一斉に海に走って行き、スイムスタートである。
今回の大会だが、少年男女·青年女子は殆ど参加人数が変わらない。青年男子のみ、毎年の参加選手の約倍となっていた。
最初のスイム、先頭集団は実業団の選手である。足に負担を掛けない泳法で、しっかりとレースを進めている。これに付いて行くのが、一般のトライアスロンを趣味として行っている、いわゆる[セミプロ]である。実業団選手に対抗するとしたら、本命はこちらの選手だろう。そこに、1人の選手が付いて行っていた。佐伯である。佐伯は元々プロボクサーであり、世界チャンピオンにまで登り詰めた男であり、意外に器用で色々と出来る男である。なかなか上手く泳いでおり、先頭集団も狙える位置をキープしていた。
ここで、他の参加者を見ておきたい。佐伯に続くのは徳井であり、こちらもなかなか上手く泳いでいる。後半勝負と考えている様だ。その後には甲斐がおり、その数十メートル後には謙二と大斗、そこから更に数十メートル離れて伸介と武人、石谷と篠原は伸介達とほぼ同じ位置におり、更に後ろに下がり最後尾の辺りに喜多と手塚が泳いでいる。これから、どうレースが展開されて行くのだろうか。
先頭集団がスイムを終えてバイクにやって来た。先頭から10秒程で佐伯がバイクに入って来る。
「佐伯さん、トップ狙えますね!」
「始めから狙ってるよ!邪魔邪魔!」
佐伯は慌ただしくロードバイクに股がる。すぐさま、物凄い勢いでバイクを漕いで行ってしまった。
続いて徳井がやって来た。
「徳井さん、いい所に居ますよ!」
「完走出来れば、それでいいよ」
「頑張って下さい!」
「ある程度ね」
徳井は右手を上げ、バイクを漕ぎ出した。
続々とスイムを終える選手達、リポーターは注目選手に声を掛ける。ここで、有る意味ハプニングが起こる。
元々、このレースと同時進行でラジオの生放送をやっていたのだが、ラジオの番組スタッフがリポーターをしており、ラジオと連動させていた。そこに、ラジオのゲストが世界チャンピオンの親と奥さんという事になり、美里とエリーがラジオ出演していた。
「甲斐さん、まだまだですね?」
「うるせぇな、ここから巻き返すんだよ!」
[馬鹿息子!偉そうに威張るな!]
「……何でラジオに出てんだよ……」
「奥様も応援してますよ?……2人の応援に……」
「はいはいはい、邪魔邪魔!」
甲斐は忙しそうにバイクに股がり、行ってしまった。
[すいません、うちの馬鹿が……]
「いえいえ、大丈夫です!」
このやり取りがリスナーに受け、ここからラジオが人気となっていく。更に、
「武人さん伸介さん、頑張って下さい!」
「どうも……」
「はい、ありがとうございます」
[にやけて何してる?…気持ち悪いぞ、おっさん!]
「え?美里?」
[別れた妻の事を忘れたのか?]
「忘れてない忘れてない、変な事言うなよ」
[言われる様な事をするんじゃない!]
「はい、すいません……」
武人は先に行った伸介を追い掛ける形でバイクを漕いで行った。
武人と美里のやり取りで、本日の放送は更に人気となった。なかなか楽しいラジオ番組となっている。
一応、その他の人達も伝えておく事にする。石谷·篠原は、中盤辺りの順位となっており、伸介と武人より少し前の順位である。謙二と大斗は70位くらいの所に位置しており、かなり頑張っている。喜多と手塚だが、
「ほぼ最後尾ですが?」
「泳ぐのが、こんなにきついとは……」
「何言ってやがる!ここから、炎の追い上げだ!……目指すは表彰台の1番高い所!」
「お前に負けるか!」
「そのまま返すぜ!」
リポーターを無視する様に、かなり力を入れてバイクを漕いで行った。この一連のやり取りだが、岡崎は目の前で見ており腹を抱えて笑っていた。レースは中盤である。
一方のラジオだが、
「それでは~、生放送スタート~!」
MCの鬼○の掛け声で、ラジオ番組がスタートした。
「さぁ、まずはゲストの紹介……ボクシング世界チャンピオンのお母さんと奥さんに来て貰いました~、皆さん拍手~!」
生放送を見学している方やスタッフの拍手の中、美里とエリーが入って来る。
「今日はよろしくお願いします!質問の有る方は、ファックスか番組にメールを送ってね!…更に、本日はトライアスロンの中継もしちゃうからね!」
「ヨロシクデス」
「お願いしますね」
「さて、本日はチャンピオンも参加という事ですけど?」
「酷インダヨ、私ヲ置イテ……」
「全く、自分の奥さんを置いて来るんだから……馬鹿の世界チャンピオンですね!」
「馬鹿といえば、西田会長はやらかしてますね?」
「拳人のジムの会長ですからね!…拳人が馬鹿になったって言って、損害賠償貰おうかしら!」
「取れそうですよね!」
「拳人、ソレ程馬鹿ジャナイ」
「それ程馬鹿じゃなくても、馬鹿な事は確かです!…エリー、あなたも気を付けなさい。知らないうちに、西田菌に感染してるかもしれないわよ!」
「ソレハ困ル……西田会長ハ酷イ……」
「西田会長、評判悪いですね~!……え?…西田会長が落ち込んでる?……今更今更、飴玉でも渡しておいて!……それでは~、今日も頑張っていきましょう~!」
こんな感じでラジオは始まった。最初から、パワー全開の様である。トライアスロンと共にラジオもまだまだ続く、どんな番組となっていくのだろうか。大会もラジオ番組も、熱くなりそうである。
ラジオも盛り上がって来ました!