夏の終わり?
夏の終わりが近付く……
篠原の日本タイトル獲得もあり、盛り上がりを見せる夏だが、暦は9月を迎えた。そろそろ夏の終わりといった所だろうか。
「まだまだ暑いんだけどね~!……」
「学校も始まったし、そろそろ夏も終わりかな~……」
謙二と伸介は、最近そんな事を話す事が多くなった。
とはいえ、まだまだ客は来ている。暑い日も続いている為、当たり前かもしれない。
「謙二さん、伸介さん!」
「どうしたんだ?」
「俺達……ちょっと考えが有って……」
「何を考えてんの?」
「俺達、ここの人達に色々世話になったから……」
「ここでなんでも屋をやって、ここに住もうと思うんです……イベントなんかも手伝って……」
「いいんじゃないの?」
「街の人も喜ぶんじゃないか?……頑張れよ!」
「「はい、ありがとうございます!」」
大原兄弟は自分達の仕事に戻って行った。
「大原兄弟も先の事を考えてんだな?」
「俺達も、先の事を考えないとな?」
謙二と伸介は何となくだが、この先の事を考え始めていた。そうしながら、日々の仕事をしていた。
そんなある日の夕食、
「謙二に伸介!」
「何ですか?」
「静かにご飯を食べたいんですけどねぇ?」
「私も謙二君の意見に賛成!」
「あのなぁ……それより、お前達はこれからどうするんだ?」
「どうすると言われましても……」
「今はまだ、考え中ですね」
「……お前達が決める事だから、特に何も言わないつもりなんだがな……自分達の未来の事だ、誰かに遠慮なんかするなよ!」
「分かりました」
「そうします」
夏海は黙っている。2人がいつか出て行くと感じているのかもしれない。
「すいませ~ん!」
「あれ?…どうしたの、冬美ちゃん?」
「今日、東京に帰るんです」
「そうか、大学頑張ってね!」
「はい、ありがとうございます」
「来年も、またよろしくな!」
「はい、来年もお願いします……夏海ちゃん?」
「……みんな居なくなっちゃうんだね……」
「来年も来るから!」
「……うん……」
冬美はみんなに挨拶し、東京に帰って行った。
少しだけ先の話だが、冬美は篠原との関係を深めていく。東京での生活も、冬美にとっては楽しくなりそうである。
冬美が帰って数日経ったある日、
「おい、謙二に伸介!」
「「はい!」」
「ここはいい所だろ?」
「そうですね!」
「確かにいい所です!」
「そうだろう……ここはな、俺の奥さんの好きな場所なんだ!……俺は、このブルー·マリンをずっと守っていく。2人で苦労して、頑張ってこのブルー·マリンを守って来た……俺と奥さんの全てが詰まってるんだ!」
「いつまでも守って下さい」
「潰れるとしたら、馬鹿社長の我が儘経営のせいですね?」
「この野郎!……しかし、ここは俺の場所だ……お前達もよく考えろよ」
「「はい……」」
「よし……さて、仕事に…あれ…………」
[ドサッ]
「「社長!」」
……………………サイレンの音が鳴り、救急車が走って来る………………
夏海が病院の控え室に入って来た。謙二と伸介に春香も居る。
「お爺ちゃんは?」
『…………………………』
「ねぇ、お爺ちゃんは?……ねぇ謙二君、伸介さん!」
「夏海……」
「春香さん、お爺ちゃんは?」
「……夏海ちゃん……心臓麻痺だって……」
「どういう事?」
「社長は…………もう戻って来ない……」
「どういう事よ、謙二君!」
「もう戻って来ないんだ!……社長はもう……」
謙二は自分の両目を右手で押さえた。
「夏海、こっち……」
春香は夏海を大輔の所に案内した。
「お爺ちゃ~ん!」
夏海の叫び声と泣き声が聞こえて来た。
「謙二……」
「…………………………」
「あんたがそれでどうするんだよ?……しっかりしないと!」
「……あ、ありがとうな、伸介……でもな……」
謙二の目からは涙が溢れている。勿論、伸介の目からも涙が溢れている。
「でもじゃねぇだろ?…お前がしっかりしろよ!……俺達には、まだやる事が有るだろ!」
「……おう…そうだな……」
大輔と共に、3人はブルー·マリンに戻って行った。終始無言であった。
ブルー·マリンに大輔が戻り、少しするとたくさんの人がブルー·マリンを訪れた。この夏に謙二や伸介達と関わった人、古くから大輔達との知り合いの人と色々な人が駆け付けてくれた。大輔の人柄が分かる様に、本当にたくさんの人が大輔との別れをしていた。
葬式というのは、意外に呆気ない物である。あっという間に時間が進み、いつの間にか終わっているという感じである。謙二達は終始無言であり、見ているこっちが痛々しい感じである。
葬式が終わり、片付けをする謙二と伸介。大輔の荷物の整理もしていた。色々と片付け、夏海に要る物か要らない物か聞くのだが、
「知らない……全然分かんない……」
しょうがないとしか言い様のない返事である。それでも片付けをする2人、何とも言えない気分である。
そんな日の夜、謙二は浜辺に座っていた。
「おう、これ」
「悪いな……」
伸介は2本の缶ビールを持って謙二に1本渡し、隣に座った。
「どうだ?……少しは落ち着いたか?」
「少しな……お前はどうだ?」
「俺は大丈夫……あんたが居るしな……」
「俺も伸介が居て助かったよ……ありがとな……」
「辞めろよ、気持ち悪い……それより、これからどうすんだ?」
「これからか~……どうしようかな~……お前はどうすんだ?」
「俺か?……実はな…………ブルー·マリンを経営しようと思ってな」
「ここを?」
「おう!……ここは、いつの間にか俺にとっても掛け替えのない物になってた……ここを守る事が俺の未来……それもいいなと思ってさ」
「なら……」
「お前はダメだ!……まだ自分が見えてない……ちゃんと答えを出さないとな……」
「厳しいな~……しかし、社長もそう言いそうだよな?」
「おう!」
「そういえばさ……はっはっは、面白いんだぜ!」
「何か有ったのか?」
「社長さ、72歳だって言ってただろ?」
「言ってたな、50代に見える72歳だろ?」
「75歳だよ」
「は?」
「警察がさ、色々聞いて来たろ?」
「ああ……」
「それで分かった……社長、75歳だ!」
「75歳……70越えて、年齢詐称か?」
「しかも、たった3歳!」
「……しょうがねぇ人だな?」
「本当に……」
「「あっはっはっはっは!」」
2人は心の底から笑った。全ての事を吹き飛ばす様に、大声で笑った。
どうなるブルー·マリン?