休みの終わり……
夏は、まだ先……
砂浜清掃をした翌日、朝食後に謙二は夏海を学校まで車で送って行った。
「ありがとうね、謙二君!」
「そろそろ君は辞めなさい!」
「だってぇ……頼り甲斐無いんだもん!」
「だもん!じゃない!!……全く……」
「帰りもよろしくね、謙二君!」
夏海は車から降りて、急ぐ様に走って行った。
謙二は車を学校から少し離れた所に置き、車から降りて自販機で煙草を買うとすぐに煙草を吸い始めた。大きく吸って、空を見上げて煙を吐き出した。
「さぁ~てと……戻って仕事するか~……」
謙二が目線を車に向けると、夏海の通っている高校のグラウンドが見えた。かなり大きいグラウンド、遥か先にテニスコートが有り手前の方にプールが見えた。
「はぁ~、でかい校庭……」
謙二は煙草を携帯灰皿で消した。
夏海は授業を受けていた。1時間目である。朝のホームルームはギリギリで入っている為、すぐに1時間目という形である。夏海はあくびをしながら、何となくグラウンドを眺めた。ゆっくり見ていると、プールに人影が見えた。
「ちょっと、あれ誰?」
クラスの女子が突然立ち上がる。
「本当だ、誰だろ?」
「あんな所で何やってんのかな?」
クラス中が騒ぎだした。誰もが窓の近くに行き、その人影に注目する。
「あれ?…謙二君かな?」
夏海は誰にも聞こえない様に呟いた。
その人影は、いきなり飛び込んだ。プールは25mであり、その飛び込んだ男は物凄い速さでクロールで泳いでいる。25mでターンし、そのまま一気に50mを泳ぎ切った。
泳ぎ切った男はそのままプールから出ると、グラウンドの方へ歩いて行く。不意に校舎の方を向いた。
「……夏海~、寝るなよ!」
「寝るか、バ~カ!」
「じゃあ、放課後な!」
「分かった、よろしくね!」
職員室から体育の先生が謙二の方へ走って行く。謙二は慌てて走り出し、自分の車に乗って帰って行った。
「ちょっと夏海、あれ誰?」
「……新しいバイト……」
「凄く速くなかった?」
「実は凄い人なの?」
「よく見えなかったけど、格好いいの?」
「……チャラ男……」
クラスのみんなが夏海に質問する。
「はいはい、授業に戻りますよ……夏海さん、後で職員室!」
「……はい……」
夏海は1時間目が終わった後、職員室で謙二について色々と聞かれた。
ブルー·マリンに帰って来た謙二、そのまま中に入って行く。
「おいおい、びしょ濡れじゃねぇか!」
「社長、夏だから大目に見て下さいよ~!」
「どういう関係が有るんだ?」
「いいからいいから……今日は伸介を案内しますね!」
「お前……来たばかりだろ?」
「夏だから、大目に見ましょう!」
「お前は……」
謙二は屋根裏部屋に行き、着替えると濡れてる服はそのまま干していた。すぐに伸介の部屋に行く。
「伸介~!」
「いきなり何だよ」
「街を案内するよ!」
「お前、来たばっかりだろ?」
「大丈夫だよ、多分だけどさ……ほら、行くぞ!」
伸介は無理矢理、謙二の案内に付き合わされる事になった。
2人は、謙二の運転で街を周り始めた。
色々な所を回った2人、謙二は通った事の無い道を選んで車を走らせていた。
「あれ?…ここは……」
「剣道場みたいだな……見て行こうぜ」
伸介に言われ、謙二は伸介と車を降りた。
周りを見た後、入り口に行くと道場のドアは開いていた。
「すいません……」
「はい……何かご用ですか?」
「少し気になったので、寄らせて貰いました」
「こいつ、昔に剣道やってたんですよ」
「それで……まぁ、中にどうぞ」
2人は中に案内された。
道場独特の匂いが有る。伸介は深呼吸をし、周りを見渡した。
「すいません、お待たせ致しました。責任者の青木と言います」
「黒崎謙二です」
「大槻伸介です」
「大槻さん?……5年前に全日本選手権に出ていませんでした?」
「大分懐かしい話ですね……よく覚えてましたね?」
「いや~、それよりどうしたんですか?」
「今、ブルー·マリンに泊まってまして……」
「そうですか……よかったら、今度練習に来て下さいよ!」
「……暇が有りましたら……」
「こいつ、防具を持って来てないですよ!」
「大丈夫、貸し出し用が有りますから」
伸介は少しの間、青木と話をしていた。謙二は手を持て余したらしく、竹刀を持って素振りの真似事をしていた。
「謙二、行こうか」
「おう、そうするか」
「よかったら是非……土曜日と日曜日もやってますので」
「はい、ありがとうございます」
「失礼します!」
2人は道場を後にした。
少し走って、2人はコンビニに寄りアイスを買って食べていた。
「暑いな~……アイスが上手い、このままここに居たらまずいよなぁ……」
「謙二、いきなりサボりたい発言か?」
「……なかなか大変なんだよ……」
「俺は羨ましいよ……夏を感じながらの仕事……」
「お前もやればいいんじゃないか?」
「……なかなかそうもいかないんだよ……」
このタイミングで伸介の携帯が鳴る。
「はい、大槻です……はい、はい……分かりました……はい、はい……では、それでお願いします……はい、失礼します……」
「どうしたんだ?」
「……仕事……夏休みは終わりらしい……」
「……そうか……」
謙二の車に乗って、2人はブルー·マリンに帰って行った。
ブルー·マリンに着いた2人、伸介は大輔に話をし、明日の午前中に東京に戻る旨を話した。3泊4日という形になった。
翌日、伸介は朝食を食べた後に荷物の片付けをする。10時を少し過ぎた頃、伸介は会計を済ませた。
「送ってやるよ」
「おう、悪いな」
伸介は謙二の車に乗り込む。
伸介の見送りに春香が来ている。夏海は本日も学校であり、敢えて伸介が帰る事を誰もが伝えなかった。
「……1人居なくなっちゃったね、大輔さん……」
「しょうがないだろ、みんな予定が有るんだから」
謙二の車が駅に着いた。
「……元気でな……」
「お前もな……暑い所での仕事……身体に気を付けろよ」
「お前も身体に気を付けろよな……縁が有ったら、また会えるかな……」
「そうだな……縁が有ればな」
伸介は右手を出した。謙二も右手を出し、2人は握手をした。
「「またな……」」
伸介は駅に消えて行き、謙二はブルー·マリンに戻って行った。
思わぬ流れ……