熱血篠原!
篠原の試合、どうなるのか?
ホテルに泊まった翌日、試合までは時間が有る為に、みんなで近くのデパートに行った。お土産も兼ねて、色々と買い物をしてお昼を食べた。篠原の試合はメインイベント、18時にゴングが鳴る。それまでの時間、そわそわしながらも時間を潰した。
16時になり、みんなで後楽園ホールに行く。試合は4回戦から始まり、篠原のメインイベントまで色々な試合が組まれている。既に試合は始まっており、篠原の試合まで他の試合を見る事にした。
チケットの席に座り、既に始まっている試合を見る。なかなか白熱しており、見ている謙二達も熱くなって来ていた。
試合も終盤に差し掛かった頃、謙二の横に男が座った。結構な勢いで座った男を謙二は見た。
「すいません、間違いでしたら申し訳ありませんが……石谷彰さんでしょうか?」
「はい?……もしかして黒崎?」
「やっぱり、石谷だよな?」
「何だよ、久しぶりだな?…あれ?…大槻も居るのか?」
「おう、久しぶり!」
「どうしたんだ?」
「篠原さんのタイトルマッチでな」
「お前は?」
「セミファイナル、俺のジムの後輩だ」
「うん?…大瀧正樹、川上ジム所属、日本バンダム級10位……これか?」
「それだ」
「後輩も頑張ってんな?」
「まぁな……それより、そっちのお嬢さん方がこっち見てるぞ?」
「ああ、こっちは石谷って言って……何だ、高校時代の知り合いというか……」
「インターハイで仲良くなってね」
「あ~!…確か、高松って人と仲がいいって言う?」
「お?…春香ちゃん正解!」
「とりあえずは、怖い人じゃないよ……夏海ちゃんも冬美ちゃんも、そんな顔しないで……」
「俺の誤解は解いとけよ!……それより、高松は元気かな?」
「活躍はインターネットで知ってるけど……」
「お前の方が分かってるんじゃねぇの?」
「そうかもな!」
謙二と伸介にとっては、懐かしい出会いの様である。この石谷こそ、篠原が憧れた同じ年代のボクサーである。
セミファイナルが終わり、遂に篠原の試合となった。残念ながら、石谷の後輩は負けてしまった。石谷は1度、控え室に行って後輩の様子を見に行った。その後で、石谷は立ち見席に移動した。どうやら、縁起が悪いと考えた様だ。
少しの休憩を挟み、本日のメインイベントが始まる。アナウンスが入り、挑戦者の篠原からの入場となった。篠原は引き締まった表情をしており、軽くパンチを数発打ってから入場した。
続いて日本チャンピオンの河田が入場して来た。不適な笑みを浮かべ、その表情からは自信が漲っている。
戦績は篠原が17戦13勝3敗1分に対し河田は19戦18勝1分、ここからも分かる様に、チャンピオンの河田はこの試合を踏み台としか考えていないのかもしれない。
両者がリングインし、選手紹介の後にリング中央に歩み寄る。レフェリーから注意事項を受けて各コーナーに戻った。
この一連の流れが、謙二達の緊張感を高めた。独特の雰囲気に呑まれた一同、誰も言葉が出なかった。謙二でさえ、唾を飲む事にすら緊張していた。こんな雰囲気の中、遂に試合開始のゴングが鳴らされた。
篠原の試合は、1ラウンドから激しく動いた。
元々距離を取って戦う篠原だが、この試合も距離を取って左ジャブを出した。篠原は緊張が解れるまで、しっかりと距離を取る作戦の様だ。
この篠原の戦い方を河田サイドは予想していた。初めてのタイトルマッチ、河田はこれを上手く使うつもりでいた。
篠原の左ジャブを強引に弾き一気に距離を詰めた河田、そのまま篠原に強烈な1発を当て、インファイトを展開する。
一方の篠原だが、このまま河田にペースを握られる訳にはいかない。河田のインファイトに対抗する様に、呑み込まれない様にパンチを出していく。本来なら、距離を取る事が最善なのかもしれない。しかし篠原は、この試合に掛ける強い気持ちをこの場でしっかりと見せるつもりの様だ。
1ラウンドはこのまま、打撃戦で終了となった。ここから、試合は更に加速していく。
2ラウンドからは、篠原は緊張も取れたらしく、距離を取って試合に望む。しっかりと左ジャブを放ち、しっかりと試合を組み立ていく。
対する河田だが、こちらは距離を詰めてインファイトに持ち込みたい所である。篠原のパンチを掻い潜り、何度も篠原の懐に飛び込んで行く。
お互いが自分の距離で戦おうと、激しくぶつかり合う。
なかなか決め手がないまま、8ラウンドになっていた。
確かに互角な展開に見えるが、緊張が有った篠原は大分疲れている様だ。それでも勝利に向けて、篠原は必死に戦う。
8ラウンドも中盤に差し掛かる頃、アクシデントが篠原を襲う。リングに落ちている汗に足が取られ、バランスを崩した所に河田の右ストレートがヒットした。篠原は何とか首を捻ったが、右手をリングに着けてしまいダウンとなった。
立ち上がり河田に向かって行く篠原、挽回する為にインファイトをする決断をした様だ。
これに対し、河田は真っ向から打ち合う。自分の距離である。引くつもりはない様だ。激しい打撃戦となった。
8ラウンド終盤、思いも寄らない事が起こる。
河田の右アッパーを喰らい意識が半分飛んだ篠原、2·3歩後退していく。河田は一気に距離を詰め、試合を終わらそうとした。その為に、河田のパンチは少し大きくなった。
ここに篠原が殆ど意識なく左アッパーを放った。何万回と練習したパンチだったのだろう、殆ど無駄が無く一直線で河田の顎目掛けて篠原の左アッパーは飛んで行った。このパンチがカウンターでヒットし、河田はダウンした。そのままカウントが入り、河田が立つ前にカウントは終了した。
篠原は、謙二達の前で見事に日本ライト級のチャンピオンベルトを獲得した。
おめでとう、篠原!