面倒な来客?
そろそろ、トライアスロンが有るのでは?
伸介が出場した試合から、少し日にちが経った。街にはポスターがたくさん貼られていた。
[トライアスロン夏!]
この夏、トライアスロンに挑戦はいかが?
スイム1km バイク10km ラン5km
目指せこの夏No1!
至る所にポスターが有り、街起こしという感じである。
「面倒だなぁ……当日、病欠しようかなぁ……」
「謙二、今回はお前が頑張る番じゃないのか?」
「頑張るったって……それなりにしかトレーニングしてねぇし……」
「トレーニングしてるなら、何とかなるんじゃねぇの?」
「……何とかなるなら、引退してねぇよ!」
「しかしなぁ……お前が出ないと、盛り上がらないんじゃないのか?」
「何で?」
「あれ……」
伸介はとある方向を指刺す。その方向に、インターネットで謙二を調べた洋平と尚子が色々と街の人達と話をしている。
「凄いんだって!…ブルー·マリンの黒崎謙二、トライアスロン日本記録保持者なんだから!」
「今度の大会、謙二さんがきっと優勝よ!」
謙二は洋平と尚子の元に走って行く。
「黙れ、この馬鹿共!」
謙二がこんなに怒るのは、滅多にない事である。珍しい光景を見たと伸介は感じた様だ。
ブルー·マリンに戻る2人。
「おう、何処行ってたんだ?」
「買い出しですよ、サボりじゃないですよ!」
「サボろうとしてたな?」
「謙二は兎も角、俺は純粋に買い物です」
「裏切るなよ、伸介!」
「一緒にするな!」
「……まぁ、それはいいとして……明日から予約で一杯だ……頼むぞ?」
「そんなに予約が入ったんですか?」
「何か有るんですか?」
「これだよ、これ!」
大輔はトライアスロンのポスターを2人に見せた。
「これ、なかなか人気らしい」
「トライアスロンねぇ……」
「物好きだな……頑張れ謙二」
「お前もだろ?」
「所でだ、2人は自転車はどうするんだ?」
「この分だと……ロードバイクは売り切れでしょうから、ここのママチャリでも借りようかな」
「謙二君!…洋平にロードバイク借りたら?」
「あのガキにか?……素直に貸すとは思えんがな?」
「大丈夫、ちょっと待ってて!」
夏海は洋平に電話を掛けた。
「洋平?…謙二君にロードバイク貸してよ?」
[はぁ?…俺もトライアスロンに出る予定なんだけど?]
「どうせ勝てないでしょ?」
[だけどさぁ……]
「あっそう、尚子に無い事無い事言ってやろ!」
[待て待て待て、普通は有る事無い事だろ?]
「有る事言ってもつまんないもん……夏休み明けたら、片思いの尚子は……ウシシシシ」
[……分かったよ、ロードバイクを貸すよ……]
「ありがとう洋平!…優しいんだ!」
夏海は電話を切った。
「大丈夫だって!」
「……殆ど恐喝だな……」
「夏海ちゃん、程々にね……」
「何よ、折角借りたのに……」
「夏海、手段は選べよ」
「……しかし、ロードバイクが借りられたなら……ちゃんと出場するしかねぇか……」
「所でなんだが……俺の自転車は?」
「ママチャリが有るだろ?」
「私のでも貸そうか?」
「良かったな、伸介!…目立つぞ~!」
「……俺は最初から論外なのね……」
出場の準備は整った様である。
翌日、朝9時には客が来た。なかなかの人数である。その中に、少し他の客とは違う男が1人居た。
「いらっしゃいませ~、女の子は俺が案内します!…男はよろしくな!」
「あんたは~……とりあえず、荷物はお運び致します!」
「いらっしゃいませ~、ようこそブルー·マリンへ!」
「最初に受付を済ませて下さいね!」
4人は大忙しである。
「こんなとこに居やがったな、黒崎謙二~!」
客間から先程の少し違う男が出て来て、謙二の胸倉を掴んだ。
「見付けたぞ、この野郎~…お前のせいでなぁ!」
「ちょ、ちょっと待て、突然どうしたんだ?…そもそも、お前は誰だ?」
「俺の事が分からないのか?……本当にお前は、俺を苛つかせるのが上手いな!」
男の手に、更に力が入る。
「待て待て、とりあえず名前を教えてくれないか?…謙二も困ってるみたいだし……」
男は謙二の胸倉から手を離した。
「俺の名前はな……[黒崎謙二が辞退したからオリンピックに出た山崎大斗]だ!」
「……山崎……ああ、大斗か?…久しぶりだな、変わってねぇな!」
「ちょっと待てぇい!…分からなかったじゃねぇか?」
「細かい事は気にすんなよ!」
「細かくねぇ!」
「……謙二、こちらは?」
「オリンピックで7位入賞した、トライアスロンの山崎大斗…凄い選手だったんだ!」
「凄くねぇ!……お前のせいで俺は……」
「??……俺が何した?」
「お前がな、オリンピックを辞退したせいでなぁ……」
「お前がその分、活躍しただろ?」
「俺が入賞したから、お前が出てればメダルが取れたんだと!」
「何言ってんだよ…それはないわ……」
「世間はそう思ってるんだ!…黒崎謙二様なら、日本で最初のメダルが取れた筈だってな!」
「……馬鹿な事を……」
「馬鹿かどうか知らねぇが、世間の評価はこの通りだ!……俺のプライドもずたずただ……」
「俺が出たって、入賞も難しかったぞ?」
「そんな事知るか!……俺はこんなに苦しい思いをしてるのに……何でお前は楽しく暮らしてんだよ?」
「……実際、ここは楽しいからな……」
「くそ、お前も少しは苦しめ!」
街起こしのトライアスロン大会、思わぬ参加者が現れた。オリンピックを経験し、謙二の事を知っている大斗。謙二には懐かしい人物なのだが、大斗はそれ所ではない。波乱の予感がするトライアスロン大会、大会は5日後の日曜日である。
面倒な事に……