海の見える場所!
夏海と秋江、それぞれに思う所有り!
夏海は謙二と伸介と一緒にブルー·マリンに帰って来た。大輔は何となく察していた様で、特に心配はしていなかった様だ。秋江は、相変わらず部屋に閉じ込もっている様である。
「明日、もう1度話すといい……」
「分かった……」
大輔の言葉に、素直に答える夏海であった。夏海はそのまま、自分の部屋に戻って行った。
謙二と伸介は、夏海が居る為に流石に遅くなる訳にもいかず、20時前にはブルー·マリンに戻っていた。謙二が砂浜で座っている。
「おう、これ」
「用意がいいな」
伸介が缶ビールを謙二に渡し、謙二の横に座った。
「飲み足りなかったからな……色々有るよなぁ……」
「確かに色々有るなぁ……別に否定する訳じゃねぇけど、ここで満足しない奴も居るんだろうからなぁ……」
「本当だよ……俺は羨ましいけどなぁ……」
「同感だな……」
2人はビールを飲み、背伸びをした。
「悪かったわね、満足しなくて!」
謙二と伸介は後ろを振り向く。秋江が缶ビールを持って立っていた。
「一緒にいい?」
「構いませんけど……」
「まぁ、ダメと言われても座るんだけどね!」
「……流石夏海の母親」
「断る理由も有りませんし、どうぞ」
秋江も2人と一緒に座り、ビールを飲み出した。
「ねぇ、何で夏海はここが好きなのかしら?」
「……ここが嫌いなんですか?」
「嫌い……ずっと前から大嫌い……」
「……ずっと前からって……好きだった事は有るんですか?」
「多分有った筈……少なくとも、小さい頃は嫌いじゃなかった……お父さんが居てお母さんが居て……周りもみんないい人で……」
「だったら、何で嫌いになったんですか?」
「……何にも無かったから……大きなデパートも、お洒落な洋服屋さんも……な~んにも無かったから……」
「……でも、社長と奥さんは居たでしょう?」
「それが1番問題だった……お父さんもお母さんも、何にも無いここで納得していて……もっと広くて大きな所に行けば、こんな不便な生活しなくても……ずっとそんな事を考えてた……」
「……何にも無いか……果たして、そうなんですかね……東京は、確かに色々な店が有る。欲しい物は、すぐに揃うかもしれない……だけど、東京に無い物がここにはたくさん有ります……そうだろ、謙二?」
「う~ん……有るかどうかは自分で決めるんじゃないかな?……少し話は変わるけど、写真の様な絵ってどう思う?」
「「写真の様な絵?」」
「……凄いとは思うけど……俺は絵が苦手だからなぁ……」
「写真の様な絵ねぇ……技術は凄いんじゃないの?」
「……俺はさ、写真の様な絵ならば、写真でいいんじゃねぇかって思うんだよ……だって、写真の方が早いし確実だろ?」
「一理有るな……」
「確かにね……」
「だからさ、絵にする意味が有るならば……ピカソはやっぱり評価されて当然なんだよね……最も、俺も絵は分からないから、ピカソの良さも分からないんだけどね」
「それが何なんだ?」
「謙二君、どういう事?」
「つまりはさぁ……誰かに押し付けられた価値観なんて、役には立たないって事だよ……俺には、この海もこの街も何でも有ると思ってる……寧ろ、海が有るだけで理由になる……でもそれは、あくまで俺の事なんだ。俺の理由で有って、他の誰の理由でもない……ただ俺は、その理由を誰にも強制しない代わりに、誰からも否定される筋合いはないと思ってる……だから……俺はこの場所が大切だと思ってるし、大好きなんだ……」
「珍しくまともな事を言ってるな?」
「何だよ伸介、失礼だぞ?」
「悪い悪い……でも、確かに謙二の言った通りですね……自分の大切な物や感性なんて、他人にどうこう言われる事じゃない……増して、自分の人生ならば尚更かな?」
「……2人は色々考えてるのね……夏海は、考えてるのかしら?」
「考えてるんじゃないですか?…秋江さんの子供でしょ?」
「秋江さんが今やる事は……夏海ちゃんの気持ちと向き合う事じゃないんですか?」
「……ウフフ……何だか、2人の方が夏海を分かってるみたい……明日、もう1度夏海と話をしないとね……」
「それはお願いします」
「大変でしょうけど……」
「……所で、夏海のお気に入りはどっちかしらね?……それはそれで楽しみだなぁ……」
「「!?」」
「……伸介に譲るよ……」
「あんたに懐いてるよな!」
「いや、伸介だ!」
「謙二には敵わねぇよ!」
「あらあら……大変……」
なかなかいい話で終わるかと思いきや、そんな事はなかった様だ。
翌日の朝6時、秋江は夏海の部屋に行った。夏海もすでに起きていた。
「夏海……ここが好きなんでしょ?」
「うん……お母さんと同じくらい……」
「お母さんは好きじゃないわよ!」
「絶対、そんな事ない!」
「……ずっと嫌いだと思ってたけど……本当はどうなんだろうね……」
「お母さん……」
「さて、朝食作るから手伝って!…謙二君と伸介君に、お礼しないとね!」
「私は……」
「いいわよ、ここに居なさい!…大学進学を考えたら、私を頼ればいいわ!」
「ありがとう、お母さん!」
「所で、夏海は謙二君と伸介君……どっちが狙い?」
「!?…ばっ馬鹿じゃないの、何であんな2人……」
「……今はそういう事にしておく!…さぁ、手伝って!」
「分かった!」
本日の朝食は、親子で作る様だ。大輔は、2人が朝食を作る所を眺めて、自分の部屋に戻って行った。
朝食が終わり、片付けをしていると9時になった。タクシーがブルー·マリンにやって来る。それとほぼ同時に、春香もやって来た。
「さて、私は帰るね……お父さん、年末には顔を出します」
「おう、よろしくな」
「夏海、頑張んなさいよ、色々とね!」
「何よそれ……でも、ありがとう!」
「謙二君に伸介君……夏海をお願いします」
「まっかせて下さ~い!」
「謙二の事も気に掛けながらになりますが、確かに……」
「何だよ伸介?」
「あんたが相変わらずだからね!」
秋江は荷物をタクシーに運ぶ。春香も手伝っている。
「大分、いい2人が流れ着いたわね?」
「少し頼りないけどね!」
秋江と春香は笑顔である。
何となくでは有るのだが、秋江の喉のつかえは取れた様である。本日も空は青く、かなりの暑さである。
何となく、秋江の中の蟠りは消えたみたいです!