ボクサー篠原?
ボクサー達、特に篠原はなかなかのキャラクター!
ボクサー達の合宿3日目、かなり厳しい物となっている様だ。近くのボクシングジムに間借りし午後はジムワークとなっているのだが、相当絞られているらしい。篠原の顔にも、明らかに疲れの色が見える。
「大丈夫ですか、篠原さん?」
「大丈夫だよ……生きてるからね」
「……大丈夫に聞こえない……」
こんなやり取りが有る程である。
そんなやり取りをした朝、夏海を謙二が高校に送って行く途中に見た事のない女性を見掛ける。丁度信号で止まる。
「あれ?」
「どうしたの、謙二君?」
「いや……見た事ない人だなぁってさ……」
「ああ、あの人は丘の上の別荘の人!」
「あの大きい別荘?」
「そう、あそこの人」
謙二は窓を開ける。
「ど~も~、謙二って言います!よろしくね~!」
女性はチラッと謙二を見て、すぐに歩き出してしまった。
「何だよ~、折角挨拶したのに……」
「いつもあんな感じ……しょうがないよ」
[プップ~]
クラクションを鳴らされ、謙二は慌てて車を発信させた。
夏海を送った後、謙二はブルー·マリンに戻り伸介と色々と夏の準備をする。来週より7月、何を売り出すかやメニュー、何よりどんなイベントを行うか等を話し合ったりしていた。イベントについては、地域の人達も集めて話をしている。地域の売上に貢献するイベントをみんな望んでいる様である。
この話し合いだが、毎年無難な事をやる事で決まる。花火大会や盆踊り等、何処にでも有るイベントが常である。
「……もっと面白い事をしましょうよ!」
「面白い事と言っても……」
「日中は親子で参加出来る宝探しとか……」
「トライアスロン開いて、謙二が出ればいいじゃないか?」
『トライアスロン?』
「馬鹿伸介、誰も知らねぇんだから」
「知らないのか?」
「当たり前だろ?…トライアスロンはマイナーだ」
「謙二、どういう事だ?」
「社長、伸介の悪ふざけですよ」
「トライアスロン……面白そうだな……中学生の部なんかも作って……」
「優勝は地域の商品券3万円とメダルにして……」
「大輔さん、盛り上がるんじゃないですか?」
「……よし、トライアスロンで決定だ!…謙二と伸介も参加決定!」
「「はい?」」
今年のイベント、メインはトライアスロンになったらしい。
夕方になり、ボクサー達は練習から帰って来る。タイミング良く、夕食が出来た所であり、そのまま食事となった。
食事が終わり、片付け等が終わると謙二と伸介は春香の所に繰り出す事にした。2人がブルー·マリンを出て少し歩いていると、
「お~い、待ってよ」
篠原が走って来た。
「どうしたんですか?」
「一緒に飲みます?」
「僕はボクサーだからね、飲むのはご法度!…試合、応援に来て貰えないかな?」
「別にいいですけど……」
「どうしてですか?」
「特に理由はないけど……2人が居ると、調子が良さそうなんでね」
「……気のせいでしょう」
「変わらないと思いますよ?」
「いいのいいの!…僕が納得なんだから……よろしくね!」
「「はい!」」
篠原が2人から目線を外した。次の瞬間には、篠原はダッシュをしていた。謙二も伸介もびっくりしていたが、篠原の後を追い掛ける。少し走ると篠原は突然ジャンプをし、そのまま蹴りを放った。蹴りは男にぶつかり、男は吹っ飛ばされていた。
「死にたいなら、僕が導いてあげるけど?」
謙二と伸介が見ると、1人の男は女性の口を抑え、後の2人は女性に覆い被さっている。もう1人は、篠原に蹴り飛ばされていた。
「残念だけど、手加減は出来ないよ?」
「俺達も、参加しますからね!…伸介、棒!」
「お!…悪いな謙二!……俺は準備万端!」
3人の男達が謙二達を見た瞬間、篠原は1人の男の顔を蹴り挙げていた。蹴られた男は顔を抑えて蹲っていると、両脇の男はその男に目線を逸らした。次の瞬間には、残りの男を篠原が次々に蹴り挙げていた。
「このまま、海にでも捨てるとするかな」
篠原の冷酷な言葉で、4人の男は逃げて行った。
「篠原さん、俺達にも残しておいて下さいよ~!」
「そうそう……それに、やり過ぎです!」
「ごめんごめん、ああいう奴は嫌いなんだよね」
篠原は謙二と伸介に話ながら、女性に手を差し伸べ起こした。
「大丈夫だった?」
「……………………………………」
「ちょっと、助けて貰ったんだからお礼くらい……」
「あれ?…丘の上の別荘の人だよね?」
「……そうですけど……」
「こんな時間に、危ないよ!」
「本当だよ、俺達がたまたま通ったからいいけど……」
「別に、助けてなんて言ってないし……」
「おいおい、篠原さんに失礼だろ?」
「日本タイトルが控えてるのに、助けてくれたんだぞ?」
「僕は別に……」
「助けたから何?…有難がらないといけない訳?……いい事の押し売りなんて迷惑だよ!」
[パァン]
篠原の平手打ちが女性を捉えた。
「別にさ、押し売りなんて気持ちはないよ……ああいう男が嫌いなだけ……そして、世界で1番の不幸を背負って捻くれてる女性も大嫌い……何が有ったか知らないけど、人の好意を素直に受け止められないなんて…………可哀想だね……まぁ、僕には関係ないけどね。悪いけどさ、この人送って行ってくれるかな?…何か有ったら寝起き悪いし、だからといって僕は送りたくないしね」
「「引き受けました」」
「悪いね」
篠原は右手を軽く上げて、走って行ってしまった。
「さて、送るとしようか」
「そうだな、篠原さんにも頼まれたし……素直じゃねぇけど、送ってやるよ」
「別に頼んでないわよ!」
「「篠原さんに頼まれてるの!」」
謙二と伸介は、この女性を別荘まで送り届けた。終始無言の女性、結局は名前も聞く事は出来なかった。2人は送って行くと、そのまま春香の店で遅くまで酒を飲んだ。2人の中では、篠原は怒らせない方がいい人物として理解する事となったらしい。
なかなか熱い所も持ってる様で……