夏といえば海!
夏といえば海!…海に魅了された男が2人……になるのかな?
少し年期の入った車が、ガソリンスタンドに入って行く。余り大きくない車から1人の男が降りて来る。髪は茶髪で耳にはピアス、ノースリーブの黒のシャツの上に半袖の青と赤をあしらった派手目のワイシャツを着ており、ボタンは胸の下まで空いている。少しくたびれたジーンズと使い込まれたスニーカーという出で立ちである。
男がガソリンを入れていると、ガソリンスタンドのスタッフが声を掛ける。
「いらっしゃいませ、今なら無料でタイヤの空気圧を見てますが……」
「でしたらお願いします」
スタッフはタイヤの空気圧をチェックする。
「店員さん、この時期と言えば何ですか?」
「この時期ですか?……暑くなって来たし、やっぱり海ですかね?」
「海かぁ……6月半ばなのに、暑いもんねぇ」
「この辺は、毎年こんな感じですよ……この辺に住んでると、夏を誰よりも早く感じる気がします」
「羨ましいですねぇ……よし、海に行くか!…店員さん、ありがとうね!」
男はスタッフにお礼を言い、車に乗って海の方へ走って行った。
同じ頃、男が1人で電車に乗っていた。
黒髪で短めの髪、しっかりと整えられており先程の男とは全く違う感じである。男は白のポロシャツに茶色のチノパン、荷物を入れたバッグを持ち少し考え事をしている様である。
難しい顔をしていた男だが、海の近くの駅に着くと男は降りて行った。改札を抜けて、男はタクシーを拾う。タクシーは駅前に1台止まっており、男はタクシーの運転手に話掛けた。
「すいません、海の見える宿泊施設までお願いします」
「何処でもいいの?」
「構いません」
「海の家なら、すぐに案内出来るけど?」
「では、そこでお願いします」
「はいよ、じゃあ乗って!」
男はタクシーに乗り込んだ。
年期の入った車が浜辺近くの道路を走っている。少し走ると、宿泊施設もいくつか見えて来る。男は宿泊施設を見付けては、車を止めて施設に入って行く。
「すいませ~ん!」
「は~い」
「あの、バイトの募集とかしてないですか?」
「バイトですか……うちは間に合ってますね」
「そう言わずに…なかなかいい男がここに居ますよ!」
「……邪魔になるから、泊まらないなら出て行って下さい!」
男は強引に追い出されてしまった。
男はこんな感じで、何件も断られている。どうやら、ガソリンスタンドで海と言われた為、1ジーンズをここで過ごそうと考えた様だ。何件も断られた男だったが、諦めずに車を走らせると[アルバイト募集]の立て看板を発見する。
海の家ブルー·マリン
アルバイト募集、住み込みOK!
この夏、海で働いてみませんか?
男は車を止める。
「これだ~!…よ~し、ブルー·マリンだな~!」
男は看板に書いてある場所に向かった。
書いてあった場所に着くと、男は車から降りる。目の前には、少し年期の入った建物が立っている。男は建物に近付いて行く。
「ここ、やってんのかなぁ……こんな所、誰も来ねぇんじゃねぇの……」
「悪かったな、こんな所で……それで、お前は何の用なんだ?」
「すいません、社長さんですか?…私は黒崎謙二と言いまして、看板を見て来たんですよ!」
「看板を見てねぇ……それで、謙二君の履歴書は?」
「履歴書は、実際に会ってみて採用の話が出たら書こうと思って……」
「普通は逆だろ?……履歴書を見てから面接だ!」
「しかし、この暑い時期にもっと暑い場所で働こうって考えてるんですよ?……少しくらい常識が外れてないと……」
「口だけは達者だな!……よし、雇うとするか……荷物は屋根裏部屋に運んどけ、そこがお前の部屋だ」
「ありがとうございます、よろしくお願いします!」
謙二は車に戻ると荷物を抱え、屋根裏部屋に向かった。
タクシーが高校生3人で歩いている所の横に止まる。
「あれ、着いたんですか?」
「違うよ…料金はここで切っとくから……」
運転手は窓を開ける。
「3人共、元気だねぇ!」
「浜名さん、しっかり仕事して下さいよ!」
「お?…そんな事言うの?……折角お客を連れて来たのに~」
「え?…お客?」
「こちら、お任せだったんでブルー·マリンにご案内!」
「ありがとうございます」
「こっちは夏海ちゃん、ブルー·マリンの社長のお孫さん!」
「ああ、よろしくお願いします。大槻伸介って言います」
「川本夏海です。こっちは洋平と尚子、同級生です」
「「よろしくお願いします」」
「こちらこそ、お願いします」
「じゃあさ、先に行ってるからね」
『は~い』
タクシーの運転手は、窓を閉めて走り出した。
タクシーは[海の家ブルー·マリン]に到着する。運転手にお金を払う伸介、運転手は伸介を連れて海の家の中に入って行く。
「どうしたんだ?」
「ああ、居た居た……お客さん!」
「うん?…うちに泊まるのか?」
「そのつもりですけど……」
「何日くらいだ?」
「日にちは決めてません……とりあえず、1週間くらいかな……」
「分かった、お~い!」
「は~い、お呼びですか?」
「客だ、部屋に案内して」
「はい、分かりました。荷物をお持ちします!」
「ああ、ありがとう……」
「では、ご案内します!」
謙二に案内され、伸介は部屋に入って行く。
「夕食は19時、朝は7時ですからね!」
「ありがとうございます」
謙二が出て行くと、伸介はすぐに横になった。
謙二が海の家の玄関を掃いていると、夏海が帰って来る。
「あの~……」
「ダメダメ、ここは高校生が遊びに来る所じゃないんだから!」
「いや、私は……」
「だからダメだって~……社長は怖いんだから!」
「誰が怖いって?」
「社長!」
「お爺ちゃん、ただいま!」
「お帰り……孫の夏海だ」
「孫?……社長、お孫さん居たんですか?」
「居ちゃ悪いか?」
「いや……独り身かと……」
「何だと?」
「あっはっはっは!…素直な人だね!」
「俺は素直な男、黒崎謙二……よろしくね!」
「川本夏海です。よろしくお願いします」
夏海は頭を下げる。
「社長、可愛いお孫さんじゃないですかぁ!」
「生意気だけどな」
「お爺ちゃん?」
「所でお爺ちゃん?」
「何でお前がお爺ちゃんて言うんだよ?」
「社長の名前、知らないですもん!」
「はぁ……俺は川本大輔だ……お前は社長と呼べ」
「はい、畏まわりました社長!」
「よし、夕飯の買い出し行って来い」
「ラジャー!」
謙二は買い出しに出掛けた。
6月の半ば、夏真っ盛りにはまだ早いこの時期に2人の男が[ブルー·マリン]にやって来た。どうやら、物語はここから始まる様である。この先、どんな事が待っているのだろうか。
この夏、何かが……