ルナ③
タッ、タッ、タッ………
「はぁ…はぁ…一体何なんだよ……はぁ…あの……二人は……折角、初めてウサギを捕まえられたのに…っ!」
時折、後ろを確認しつつ、両手を大きく振り、カイルは走った。
森の中をカイルは背の高い一本杉のふもと目指し一直線に走った。
そこはお気に入りの場所で、遊んだり、宝物を隠しに来たりできる秘密の基地を作っていたからだ。
「……っ…ここまでっ…来ればもう大丈夫…」
ふうっと、一息つくとカイルは木のうろに近づいた。
中は子供が入れるほどの広さで、たくさんのおもちゃも入っていた。
「ここで少し休憩してから帰ろう。」
うろの中に入ると、ほっと息を吐き、幹に背中を預けた。薄暗く、少しひんやりとしたその空間はここちよく、全力で走り疲れたことと、いつもの空間に安心してしまい、数分後にはすやすやと眠ってしまった。
カイルにとってこの秘密基地は絶対安全な場所だったのだ。
だが、所詮は子供である。茂みの荒れ具合を見てウェッジとベンはまっすぐカイルの居る方向に進んでいた。
「おい。あの木のうろの中を見てみろよ。」
先に見つけたのはベンだった。
「よし!ゆっくり近づいて捕まえるぞ。」
ゆっくりと二人は木のうろに近づいた。
「あーあ。よく寝た。」
「おはよう。坊や。」
「えっ?」
再びカイルは捕らえられた…と言うより、うろの中に閉じ込められた。
「よく寝てたなぁ。さてっと。名前はなんて言うんだい?」
「…………」
ウェッジの少しだけ呆れたような、どこか馬鹿にしたような口調にカチンときたカイルは横を向いたまま答えなかった。
「ちっ!なんて生意気なガキなんだ……ん?額にバンダナなんか巻いているぞ。」
「本当だ。取ってみようか?」
ベンが手を伸ばしてバンダナを取ろうとした。
「触るな!」
カイルが声をあげた。このバンダナはいつも取るなとじいちゃんに言われているからだ。
カイルの慌て振りを見たウェッジはニヤッと笑った。
「ほう。このガキはバンダナを取られるのがいやらしいぞ。どうする?ベン。」」
「俺さー、人が嫌がることが大好きなんだ。」
「やめろ!やめろってば!」
二人の大人は嫌がる様子を見ると、ニヤニヤと笑い、カイルへと手を伸ばした。
カイルの抵抗もむなしく、バンダナは取り上げられた。
「ん?なんだ?ウェッジ、こいつ額に豹柄のあざがあるぞ。」
「本当だ。なんだこれは?」
「いてっ!」
ウェッジが額に軽く触れるとカイルがまた叫んだ。
「触れるだけでこれか……まさか、何かの魔法か?…ベン。このガキを抑えてろ。」
「えっ?」
「早くしろ!」
「…あっ、ああ。」
先ほどまでのふざけた様子からいきなり真顔になったウェッジにベンは少し戸惑いながらも、ウロの中へと手を伸ばし、カイルと引きずり出した。そしてそのまま、両手を背中へと纏めて、カイルを地面に伏せさせる。その間にウェッジはナイフを取り出した。
いきなりおさえつけられ更にナイフまであるのを見てカイルは青ざめた。
「なっ、何をするつもりなんだよ!」
「なに、すこしそのあざに傷をつけるだけさ。」
そう言ってウェッジはあざの上をスッと切った。
切ったと言っても擦り傷程度だったが、
「うわぁーーーっ!」
「一体何をしたんだよ!ウェッジ!」
「まー、黙って見てなって。」
額にはしる激しい痛みと、熱にカイルはのた打ち回った。
その間に、茶色だった髪は金に、青い目がエメラルドグリーンに変わっていた。
「ふっ。やっぱりな。ん?…あれは。」
カイルの胸元で、何かがキラッと光った。ウェッジはそれをさっと取りあげた。
「こっ、こいつはドラゴンの紋章…間違いない!こいつこそ、エポス国の王子だ!こいつの首を持っていけば、俺達はトランス王に褒美が貰えるぞ!」
「やったー!」
剣先がカイルに向けられた。カイルは痛さのあまり気を失っていた。
その姿ににひりと笑みを浮かべてウェッジは言った。
「小僧、悪く思うなよ。」
「待てっ!」
寸前の所で剣が止まった。
聞きなれた声にカイルの意識がわずかに浮上した。
「……じい…ちゃ…ん?…」
「カイルからわしの孫から離れんかー!」
斧を構えボブが立っていた。
その言葉にゲラゲラとウェッジは笑った
「孫だと?こいつはエポス国の王子様だぜ。お・う・じ・さ・ま。」
「俺が王子様?」
正気に戻ったカイルがきょとんとした顔で呟いた。
ありがとうございます。




