カイル②
―16年前―
突然降ってきた雨に濡れ、冷えた体を温めようとボブは暖炉に火をくべた。しばらく火にあたっていたが、部屋も温もり、明日も朝が早いということで床に就いた。
疲れがたまっていたのか布団に入るとボブはすぐに眠りに落ちた。
トントン。
真夜中。何かの音がして、ボブは目が覚めた。
「何の音じゃ?」
だが、耳を澄ましても何も聞こえなかった。
「気のせいか。こんな時刻に外に出る者もいないし、こんな村外れまで来る者なんかおらんからのう。」
最近この村の付近ではモンスターが出ており、大変大きな被害を受け、昼間でもビクビクして暮らしている。夜に外を出歩く者も、村外れの山奥に住むボブの所を訪ねて来る者などいなかった。
トントン。トントン。
再び布団に入ろうとしたボブの耳に今度ははっきりと扉を叩く音が聞こえた。
真夜中に人の家の扉を叩く者は、この村にはまずいない。前にも述べたように、こんな時刻に外に出るということは自殺行為と同じだからだ。
ということは、村の者ではない。それにボブには身内も親戚の者もいない。
では、誰が扉を叩いているんだ?
ドンドン。ドンドン。
開けようか開けないか迷っている内にも扉を叩く音は激しくなった。
「今開けてやるから、待ってくれ。」
すぐ手の届く所に斧を置き、ボブは慎重に扉を開けた。
扉を開けるとそこには金髪の髪の赤ん坊を抱き、金髪の髪の少女を連れた男が、血まみれになって立っていた。
その赤ん坊と少女は美しいエメラルドグリーンの目で、じっとボブを見つめていた。
そして、男は静かに倒れ込んだ。
寝る前、シトシトと降っていた雨がいつに間にか嵐になっていた。
* * *
ボブは男を治療し、ベッドに寝かせた。少女もスープをやると落ち着いたのか寝てしまった。赤ん坊だけは、ずっと起きていた。泣きもせず、笑いもせずに…
日が山の峰から顔を出そうとした頃、赤ん坊もようやく眠りに就いた。
ボブがバスケットに毛布を敷き、そこに寝かそうとした時、赤ん坊の首から何かキラリと光るものが見えた。
「なんじゃ?」
手にとって見ると、それはドラゴンが翼を広げたネックレスだった。裏には、
“我が息子、カイルへ”
と言う文字が刻まれていた。
そのネックレスを静かに戻すと、ボブも自分の布団に入った。
数時間後、起きてくると男と少女の姿はなく、すやすやと眠る赤ん坊の横に手紙が置いてあった。
いきなり押しかけ、カイル様をお残しして去ることをお許し下さい。私は、エポス国の兵士です。同盟していたトランス国に裏切られ、王と王妃の命によりカイル様とサンディー様をお連れして城から逃げてきたのですが、お二人をお連れして逃げるには限界があります。
幸いこの辺は山奥の方ですのでトランス兵も気づかないでしょう。失礼ではあると思いますが、なにとぞカイル様をよろしくお願い致します。
オリバー
「オンギャー!オンギャー!」
ボブが手紙を読み終えた時、赤子が泣き出した。
「なんと憐れな。しかし、もしここに追っ手の者達が着たら……」
しばらくの間ボブは考え込んだ。
そして思い立ったように泣いている赤子を抱き上げ外へ出た。
抱かれると、赤子は泣き止み、涙で潤んだ目で、じっとボブを見つめていた。
* * *
数日後、カイルの髪は茶色になり、目も美しい青色になっていた。
そして、額には豹柄のようなあざが出来ていた。
ありがとうございます。




