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デビルズゲート  作者: Rozeo
第1章 ソルジャー期
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第五話「光と闇の境界」

リディアの町を跡にした俺たちは再び迷いの森へ。

待ち構えていたのは身体中包帯でグルグル巻きの悪魔だった。


「俺の名は大蛇坊(だいじゃぼう)。阿修羅の兄だ」


俺と直美が身構える。


「ドラゴンロッドをみすみす返した俺の弟はこのままだと波紋に処刑される……だから尻拭いに来た」


直美の姉妹愛は本物だと俺は睨んでいた。その直美の心を読み取ったかに見える大蛇坊は話を続ける。


「福原直美……君がこのパーティーで一番厄介だ。此処は参戦を控えて頂けるか?」


恐らく阿修羅と同じで人の考えている事を読み取る事が可能なのだろう。だが直美は……。


「頼む……」


大蛇坊は土下座していた。

この兄弟にしろ黒竜にしろどこかしら話が通じるものがあった。波紋にそれは無い。


「では魔悪殿……私の太刀の真髄をご覧に差し上げよう」


蛇の絵柄の太刀。

抜いたかと思えば斬られていた。


速すぎる。

特にこの兄弟はスピードがずば抜けている。


「魔悪さん!」


桔梗が慌てて治療を試みる。

直美はまだ立ち止まったままだ。


「魔悪さんと直美さん、二人掛かりじゃないと勝てませんわ」


傷が癒えてくる……。

だがそれよりもお前は何をしようとしてるんだ夏南……。


「火炎弾!」


ドラゴンロッドから突如発生した火の玉は大蛇坊に直撃した。


「アタシも戦うって言ったでしょ」


夏南は得意げである。


「流石ドラゴンロッド……とんでもない威力だ……」


火だるまになった相手が「おのれぇぇ!」と光りだす。

次の瞬間、大蛇坊は体長十メートル越えの八岐大蛇(やまたのおろち)に変身していた。

押しつぶされそうになった幽霊桔梗がスルリと下から掻い潜る。

俺もその迫力に唖然としていた。


「逃げろ皆んなー!」


俺たちは四方に散っていく。

その時、夏南が喰われていくのが目に止まった。


野郎、ドラゴンロッドが目当てじゃねえのかよ!


反転して剣を浴びせるが皮膚は分厚い。


「何ボーっとしてんだ!死んじまうぞ」


と直美に覆い被さるように攻撃を避ける。


その時だった。内側から火の手。

夏南だろう。ドラゴンロッドを使いこなせている。魔導師としてはまだまだ半人前だが、彼女無しでは俺も何回死んだか分からない。


八本ある首のうちの一本が燃え尽きた。

そして黒焦げのセーラー服姿の夏南が出てくる。


「夏南まで必死に戦ってるんだぞ。兵士(ソルジャー)としての誇りはどうした!?」


直美が遂に剣を抜く。

だがもう遅い。森を埋め尽くす怪物と化した相手に剣で勝てるとは到底思えない。


「逃げるぞ」


俺と直美は敵の攻撃を掻い潜り、洞穴まで避難した。夏南と桔梗とは逸れてしまっている。


「ちくしょう!」


俺は己の不甲斐なさを責めた。

同じ悪魔族でありながらこうも実力が違うのか。

恐らくあの兄弟はディメンションを駆使しても勝てないだろう。


「夏南が俺を兵士(ソルジャー)候補として紹介する際、言ってたんだ。俺が兄貴だって。勿論生まれも育ちも全然違うけど、嬉しかったんだよなあ……。直美も俺の気持ち分かってくれるだろ?」


直美がコクリと頷く。


「俺たちの敵は波紋。それを見失っちゃ駄目だ」


「フフッ……」


直美は冷めた目で笑っていた。


「頼もしくなったな。最初見た時とは印象が変わった。このパーティーのリーダーは君だ」


リーダーか……。だとしたら責任を持ってまた四人集まらねーと。


「魔悪さーん!直美さーん!」


「桔梗!」


「探しましたよ、それより大変です!夏南さんが大蛇坊に捕まりました。そのまま波紋のところへ戻るつもりのようです!」


「なにっ!」


波紋は本当に何しでかすか分からない、俺とは比にならない様な凶悪な心の持ち主だ。


「阿修羅といった強敵も波紋のところに戻るだろう……夏南を取り戻せる可能性は無いに等しいのでは無いか?」


言った直美を睨みつけた。殆どお前のせいで夏南は捕まったんじゃねーか。

だが今は……怒ってる場合じゃねえ。


「兵藤の力を借りよう。そのまま王の城に攻め込む」


勝てば世界は兵藤のものになるか。いずれにせよ波紋への仇討ちは達成したい。


「リディアに戻るぞ」


ドラゴンロッド……。全部あれのせいで……!

舌打ちする俺を見つめる直美。何か言いたそうだ。


「悪かった……。夏南が捕まったのは私のせいだ。どうしても、姉の事を思い出して……」


彼女は泣いていた。直美にしては珍しい事だった。


「直美……」


俺は直美の肩にそっと手を置いた。


「俺たちは皆兄妹だ。俺が長男で直美が長女。桔梗が次女で夏南が末っ子だ」


「馬鹿なんじゃないの……」


直美はまだ泣いていたが、俺は冗談ではなかった。天涯孤独だった俺に出来た大切な人達。


「直美さんも彼女にしてあげたらどうですか?」


「いやいいよ私は……」


「そうだなどうやら直美には俺が必要みたいだからな」


笑っていた。直美も薄らつられている。


「まあ全員がいきなり家族っつーのは無理だとしても三人とも大切にすることは出来るぜ。じゃあ助けに行くか欠けた大切なピースを」


「うん」


涙を拭う直美。結構女の子っぽいところもあるんだなー。

俺は鼻の下を掻きながらも、丘から町を見つめていた。


ーー


兵藤が住みついている家。中には左近のクローンと見知らぬ女がいた。


「アタイの名は相川京子。京子さんって呼びな」


相川。恐らく兵藤の娘だろう。


「今パパはクローンの製造に忙しい。防具も新しく発注しなくちゃならないしな」


「今クローンは何体いる?」


「五百。ちょうど町のデーモンを狩り終えたところだ」


相川京子。父の兵藤とは違い良識ある印象である。


いや油断してはならない。人間も悪魔も紙一重だ。いつ本性を表すか分からないと考えていた方がいい。

少なくとも俺はパーティーの四人以外には気を許さないようにしていた。


「……実は頼みがあるんだが」


俺は事の経緯を説明した。

兵士(ソルジャー)である事を打ち明けたら案外京子は素直に話を聞いてくれた。


「夏南は俺の彼女だ。放っとけねえ」


「ふーん」


京子はニヤリとし、腕を組んで暫く考えていたが「アタイからパパに頼んでみるよ」と言ってくれた。


「恩に着る京子」


「馬鹿。京子さんだろ?敬語敬語」


それから俺と京子、いや京子さんは町を徘徊する事になった。直美達は家で待機してもらっている。

町は彼方此方で左近のクローンが警備にあたっており、治安は確保されつつあった。


「鎧の娘と幽霊の娘とはどうなの?」


「そ、それは……」


町の壊れかけのベンチに腰を下ろす。

俺は本当の事を言った。


「マジかよ。これだから今時の若者の考えることは分からんねえ」


男勝りな京子さんは三十歳前後だろう。腰には銃が刺してあり、強そうっちゃ強そうだった。


「人間関係ギクシャクしねーか?一番の娘に他の二人が嫉妬しねえか?」


「うん……まあ……」


上手く言葉が出てこねえ。


「遊びの気持ちで三人と接するなよ?女は怒らすと怖えーぞ〜」


「俺がもっとちゃんとしないと……」


「まあそういう事だな」


京子は笑った。


「尊敬されるくらい強くなって、三人と釣り合う男になる」


「アタイは部外者だからこれ以上は言わねーが……茨の道だろうよ」


そうか……。そんなに非常識なんだ……。

俺は魔界で幼少期を過ごしたが、人間界でもやはり珍しい事らしい。だけどよ……。


俺が返す言葉を探してると杖をついた兵藤が通りかかった。


「パパ、夏南って娘が悪魔大王に捕まったって。兵を出してくれない?」


「フフ……ちょうど阿修羅の籠絡に動いていたところだ。城の門を開ける事は容易い」


「じゃあ……」


「娘の頼みとなれば仕方ない。京子お前がクローンを率いなさい」


京子さんが?率いる?


「京子は人造人間じゃ」


自らの娘を改造するとは……これだからな兵藤は。

俺は立ち上がった。


「ありがとう!直ぐに直美と桔梗に知らせてくる!」


十二時を知らせる鐘がなった。

京子さんがクローン軍を編成するまでの間、直美と修行だ。

俺は再び家に押し入った。


「直美、俺に剣術を教えてくれ。今度の敵はマジで一筋縄じゃいかねぇ」


「……分かった」


直美は真っ直ぐな瞳で言った。


「剣技は七種類ある。

炎の剣技『炎帝』風の剣技『迅竜』

氷の剣技『氷結』地の剣技『桜花』

雷の剣技『雷鳴』光の剣技『閃光』

そして闇の剣技『邪鬼』ーー。


それぞれを組み合わせて作る究極剣技というものも存在するが、今はその話は置いとこう。


敵の弱点やその場の状況に合わせて剣技を使い分け、残りの体力と相談しながら戦うのが基本だ」


直美は剣を抜いた。


「これが私の剣『凱鬼(がいき)』。森が誕生する前ーー丘の上で手に入れた。

私は一応全ての剣技が使える。闇の剣技『邪鬼』を除いては」


ブンブンッと剣を振り回す直美。

俺の剣より軽い分、使い勝手はいいだろう。


「直美は究極剣技が使えるのか?」


「今はまだだ……。だがいずれ会得してみせる。君か私……どちらが先にモノにするか競争だな」


流石は伝説の兵士(ソルジャー)既に六つの剣技を習得してるのか……俺はやっと一個だってのに。

だがその直美に少しは認めてもらていたようで嬉しかった。


城に行くまでに他の剣技を習得出来るかは難しいところだった。

だがいつか究極剣技までたどり着いてみせる。

俺はデモンズソードをギュッと握りしめた。


「では実戦練習といくかーー」


「ああ……」


待ってろ…………夏南。


ーー


三日後ーー。

俺たちは百五十名のクローンと共に大王の城に攻め入った。阿修羅の籠絡は成功しており、どうやら彼によると夏南は地下牢にいるらしい。


「あれは……ゴーレムか!?」


城の大広間に居た体長六メートルのゴーレム。皮膚は煉瓦で覆われており、中々手強そうだ。


「此処はアタイらに任しときな!」


「波紋が人間界に魂を吸い取りに行ってる以上、地下牢の夏南ちゃんの命は保証される……。こっちだよ着いておいで」


四本腕の刺青悪魔、阿修羅が先頭を行く。


「ありがとう京子さん!」


京子さんには大きな借りができたな……。

俺と直美と幽霊桔梗は阿修羅に続く。


地下牢の前。

立っていたのはーー大蛇坊。


「門を開けたのはお前か阿修羅」


「兄さん、無駄な争いはよそう。そこを通してくれ」


「波紋様への忠誠を忘れたのか?身分の低かった我々兄弟の力を波紋様は買ってくれたのだぞ?」


包帯で覆われた大蛇坊の目が光った。


「夏南!」


俺は奥で鎖に繋がれているの夏南を見つけた。ロクに食べ物も与えられていないようで、グッタリしている。


「この少女は波紋様への供物だ。渡す事は出来ん」


「黙れ!」


俺は背中のデモンズソードに手を掛けた。

修行の成果ーー今こそ見せる時。


「貴様らはドラゴンロッドの真の力を理解していない。……見せてやろう。『竜睨み』!」


ドラゴンロッドを構えた大蛇坊から放たれる気迫。それを受けた俺たちは金縛りに掛かったように動けなくなった。


「このまま一人ずつ手足を斬ってやろう。阿修羅お前は人間の弱さを改めて実感し、再び波紋様に仕えさせてもらうのだ」


「くっ……」


「そうだ夏南という娘の腕から斬ってやろう。人間とは如何に脆く、悪魔が彼らを喰らう存在だという事を目に焼き付けるがいい」


「やめろ!」


本当に動けない……!

どうしたらいいんだ……。


大蛇坊は牢に入り、今にも太刀で斬ろうとしている。


「ヤメロオォオ!」


俺は『竜睨み』の恐怖に打ち勝ち、大剣で相手に斬りかかった。当然大蛇坊も太刀で迎え撃つが金縛りが解けた事に唖然としている。


俺は悪魔だ。大王と同じ血統のーーバケモンだ。

俺は鍔迫り合いで押し勝っていた。

何処からそんな力が湧いてきたのか分からない。不思議な感覚だった。


俺は闇魔悪(やみまあく)。世界を震撼させる者。性格はーー凶悪。


俺は大蛇坊の手首を斬り落とした。

この時発生していたのは闇属性剣技「邪鬼」ーー。禍々しいオーラが剣先から放たれている。


阿修羅の方を見た。

この世界はーー弱肉強食。

大蛇坊の首を刎ねた。

夏南がボーッとした瞳で見つめてくる。


牢の鎖を切った。

そのまま夏南を抱きかかえ、直美達の元へ。俺は床に転がり落ちてるドラゴンロッドを拾い上げた。


「ーー全部コイツのせいで」


俺は剣でロッドを叩き斬った。すると直美たちは金縛りから解放され、夏南もロッドの所有の呪縛から解放された。


俺は大蛇坊ーーいやドラゴンに勝った。


そこへ顔から血を流した京子さんが到着した。どうやらゴーレムに倒したらしい。


「波紋が帰ってくる前に退散するよ!」


俺たちは山に逃れ、そこで一泊する事になった。

だが兄を失った阿修羅が何処へ消えたかは誰も知らないーー。


「魔悪……もう二度と敵に捕まったりしない。約束する」


携帯食料を口にした夏南がやっと喋った。


「ああ……」


今の俺は例えるなら黒と白の中間。不思議な気分だった。

だが今の俺なら三人を飼い慣らせる。

どんな困難からも守ってやれる。


「私を越えたかな」


直美が言っていた。

京子さんの視線も明らかに変わっている。


立ち上がった。

今頃波紋は魂を貪り喰ってるのか。

上等だ。

俺も人間の悪人から貪り喰ってやる。

お前を殺すのはその後だーー。

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