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デビルズゲート  作者: Rozeo
第1章 ソルジャー期
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第三話「四人の勇者」

俺は紅い血の滴るデモンズソードを構え直した。レッサーデーモンたちの出方が分かるまで、一瞬の気の緩みも許されない。


「……来る。あっち!」


セーラー服を着た夏南(かなん)の声が常闇の聖堂に響き渡る。ガラスの割れる音。そして敵の叫び声。瞬く間に暗く物静かな聖堂は血の飛び交う戦場と化した。


「伏せてろ!」


俺は神殿の柱を能力で浮かび上がらせ、それを相手にぶつけた。重たければ重いほど疲労が蓄積するそれは悪魔だから為せる遠距離技だ。


二匹、柱と壁の間に埋もれ、身動きを失った。あと一匹。真っ赤な翼をはためかせ、鬼の表情で迫り来る。


此処は魔界ーー。食う物もロクに手に入らない闇の世界へと夏南は足を踏み入れている。そして俺は魔悪(まあく)。反逆者だ。


「ハアアア!」


無我夢中でデモンズソードを振るった。返り血で真っ赤になった鎧。俺の手は震えている。

あの悪魔大王を倒すまで、俺はこの手を血に染め続けるんだーー。


『魔悪カ……』


何処からともなく太く低い声がした。此処は常闇の聖堂。人型悪魔の気配はない。

もしかしたら吸われた魂の霊が語りかけているのか。その予想は聖堂に忍び寄る翼をばたつかせる大きな影が打ち消した。


「あれが声の主か……」


「え?」


まだ頭を抱え伏せていた夏南が頭を上げる。


『何故ソノ人間ノ女ト行動ヲ共ニスル……?レッサーデーモンヲ狩ルノハ反逆罪ダゾ』


声の主は恐らく……アイツだ!

俺と夏南は聖堂を出た。


黒竜。体長八メートルに達する大人の竜は風圧と共に煉瓦造りの地面に降り立った。

この寂れた雨降る暗い町の名はリディア。竜の巣はもっと北の方にある。


「俺は悪魔大王に散々な目に遭わされてきた。それを忘れたとは言わさんぞ」


俺は勇気を振り絞り強気に出た。黒竜の危険度はSランク。パワードスーツを得たとはいえ、今の俺たちでは到底敵わない。


「ダガ反逆ハ魔界ノ混乱ニ直結スル……。イツ人間ガ政権ヲ奪イニ来ルカ分カラン状況デ、オマエノ存在ハ見過ゴセン」


と黒竜は鼻息を荒げた。

魔界に朝はない。永遠と月が町を照らす。月光に照らされる竜は幻想的だったが、今はそんな流暢な事言ってられない。


「オマエガ何故ワタシモヲ動カシタカ分カルカ?」


竜の巣からは約二キロ。わざわざ俺と夏南の為に空の覇者が出向いた理由は……?


「オマエハ悪魔大王『波紋』ノ従兄弟ダカラダ」


「何?」


俺は思わず声を荒げた。実の従兄弟なら何故あれ程にまで迫害されなければならなかったのか。

黒竜は続ける。


「ナニヨリ権力ガ欲シカッタ波紋はオマエ血ノ繋ガル事ヲ隠シ洗脳シヨウト企ンダ……。「ディメンションマジック」ガ使エルノガソノ証拠。


シカシ意外ダッタゾ、オマエガワタシニ臆スル事ナク話シカケルトハ……」


俺は黒竜を睨みつけた。従兄弟波紋に対する怒りがそれを可能にしている。


「イイ眼ダ……気ニ入ッタ。オマエヲ試シテミヨウ……。方法ハ悪魔ラシク……強引ニ!」


黒竜は翼をはためかせ、俺は風を避ける為、腕で目を覆った。


「魔悪!」


気づいた時黒竜は夏南を摘み上げ、遥か上空に居た。竜の巣に帰るつもりだ。


他の誰かだったらそのまま無視したかもしんねぇ……だけど夏南は特別だ。


俺はデモンズソードを背中に町を駆け出した。


天涯孤独だった俺に夏南は着いてきてくれた……ほっとけねえ。


走るペースを上げる俺の前に二匹のレッサーデーモンが立ちはだかった。


「邪魔だぁぁ!」


デモンズソードを薙ぎ払う。一撃だった。

怖くない。大切な人を守ろうとする時、俺は勇敢でいられる。


ギャアアァ!


四足歩行の赤い悪魔、レッサーデーモンは危険度Dランクに位置付けされる。群れになって真価を発揮する彼らがたった二匹ではデモンズソードの前に余りに無力だった。


だがそれよりも。


俺は恐怖を克服した。この状態の俺は誰にも止められねえ。待ってろ夏南。


カーンカーン。


十二時を告げる鐘が鳴り出す。一日中陽が顔を出さない魔界では野生のデーモンの目覚まし時計に過ぎないと言ったところか。


まただ。四匹のレッサーデーモン。体長は一メートル程だがこう戦っていてはキリがない。


それにしても悪魔大王が自分の従兄弟だったとは……。本来なら俺が大王の座に居座ってたかもしれねーところを。


「小癪なぁぁ!」


縦に大剣を振るい両断。生まれた隙に乗じ、他の三匹が噛み付いてくるが、パワードスーツは固い。


超能力。三匹を宙に浮かばせ、家の柱に叩きつけた。


「お前らに構ってる暇なんかねーんだよ!」


返り血の付着したデモンズソードを担ぎ上げ、再び走り出す。息が切れかかった頃、竜の巣が見えた。


「フハハハハ!待ッテイタゾ魔悪ヨ……。ソレニシテモ人間族ノ鎧……サマニナッテオルナァ……」


黒竜が山の頂上で言った。夏南もまだ生きてるはずだ。


「オマエハ人カ魔カ……ドッチカハッキリシタラドウダ?中途半端ナ信念デ大王ノ座ヲ奪エルト思ウナ」


俺は崖を攀じ登りながら言った。


「俺は人側に付く。もう決めた事だ」


到着した。竜の巣。既に恐怖は無かった。

だが黒竜の口から放つ火炎弾。かろうじて左に前転してかわしたが、当たっていては致命傷は避けられなかっただろう。


「くっ……夏南がいるからディメンションは使えない。万事休すか……」


俺が決死の覚悟で大剣に手を掛けたその時だった。落雷。白い稲光は、黒竜の身体を貫いた。そう言えば竜は雷属性の攻撃に弱い。



黒竜の咆哮。


苦しみから来る雄叫びは魔界に全土に響き渡った。



戦いは終結した。夏南は救い出され、黒竜は黒とオレンジのドラゴンロッドへと様変わりし、姿を消した。


「魔悪……」


俺は夏南と初めて抱擁を交わした。

これが俺たちの長くて短い旅の幕開けになる事も知らずに。


ーー


ドラゴンロッドを携えリディアの街に戻った俺たちは、錆びれた宿屋でフードを被った先客に出逢った。

彼女の名は直美。悪魔である俺は、彼女の名を読み取れる。


「貴様か。ドラゴンを一人で倒し、生きて帰ったのは」


直美は何処か蔑んだ目で此方を見つめた。背は高くすらっとしている。

腰には剣、背中には盾が装備してあり、歴戦の猛者の風格を漂わせていた。


「そ、そうだ。俺は正真正銘悪魔だが、兵士(ソルジャー)の入隊に成功した。是非共に戦って……」


俺が言い終わらない内に、直美はブーツで椅子を蹴り飛ばした。


これには夏南も唖然としている。


「私は悪魔とは手を組まん。だが貴様の持っているドラゴンロッドには興味がある。黒竜の力を帯びた杖。それさえあれば『波紋』を殺すのも夢ではない」


波紋を殺すのが目標。俺は確かにそれを耳にした。


「彼女多分だけど伝説の兵士(ソルジャー)福原直美だよ、剣と盾で戦うって噂だし……」


夏南が俺に耳打ちした。

しかも伝説の兵士(ソルジャー)。強さもお墨付きというわけだ。

俺の胸は踊った。


「ドラゴンロッドをやるから仲間になってくれないか?」


俺は黒と橙の混じった杖を直美の前に差し出そうとした。

が、直美の返答は予想と違った。


「貴様このドラゴンロッドがどれだけ危険で尚且つ貴重か理解していないのか?豚に真珠だな」


この女は俺が悪魔族であるという一点の理由だけでこれだけ横暴な態度に出るのか。俺は眉を歪めた。


「てゆーか貴様本当にあのドラゴンを倒したのか?見た限りではヒョロヒョロしておるではないか?」


「あ、ああ……。黒竜を倒したってのは嘘だ。本当は運良く落雷が当たって……」


本当の事を言った。どうせこれ以上嘘をついてもバレる。

夏南がギュッと俺の手を握ってくる。


フードを外した直美の目が俺を射抜いてきた。

澄んだ蒼い目。少なくとも俺にはそう映った。


「正直者だな。貴様を殺すのはヨシとしよう。ドラゴンロッドを寄越せ」


「仲間になってくれないのか?」


「足手纏いが増えるだけだ」


「そんな事ない!」


夏南が口を挟んだ。


「それに……直美さんも波紋って悪魔を探してるんでしょ?手を組もうよ」


「無理だ。弱者に興味はない」


その時、夏南が俺からドラゴンロッドを引ったくった。


「やってみる?」


「辞めとけ夏南。相手は伝説の兵士(ソルジャー)なんだろ?」


言ったが無駄だった。暴風が、夏南の持つドラゴンロッドから発生。

不意をつかれた直美は宿屋の壁に叩きつけられた。


「私を……怒らせるな!!」


直ぐさま立ち上がり、反撃に出る直美。

俺は二人の間に躍り出た。目眩と激痛。憶えているのはそこまでだった。


ーー


気が付いた時、俺は宿屋の二階のベッドの上にいた。

此処は吸い取られた魂の霊が経営する錆びれた宿屋。

夏南が心配そうな目で見つめてくる。


「直美は?」


「行っちゃったよ。ドラゴンロッドを奪うのは今度にするって。でも脈アリだと思うんだけどなー」


何処がだ。あの女は悪魔を忌み嫌ってるじゃねーか。

起き上がり、窓の外を見た。雨は上がったが、やはり夜が続いている。


「昔から魔界には言い伝えがある。四人の勇者が集いし時、地上からの光が差す」


「それって……」


「俺や直美の事だと思う。そして……日の光はデーモン達の行動を大きく妨げる。魔界に新たな王朝を築く事すら可能に」


痛む胸の傷を抑え、夏南が慌てて看護する。

俺は自身が大王になる事に少しずつ関心を持ち始めていた。権力に興味はない。でも……。


「一度きりの人生だもんね。直美さんの跡を追ってみよっか」


頷き、デモンズソードに手を伸ばした。

傷はまだ痛むが、あの直美を仲間に加える為なら動ける気がした。


外。曇り空が広がる中、直美はレッサーデーモンに囲まれていた。

その数、約五十。

幾ら直美と言えど、冗談にはならない。


「直美!手貸すぜ」


「フン……貴様の助けなど不要!」


「まあそう言わずに」


俺と直美は背中合わせになった。

さあ殺戮ショーの始まりだ。


直美の剣が踊る所で血が飛び、俺の大剣が唸る所でまた血が飛ぶ。

俺たちは今の所初めてとは思えない連携を見せている。


「大剣の攻撃力……中々のものだな。だがこれは出来まい!」


直美の剣先から氷が迸る。後に知る彼女の技の名は「氷結」ーー。

デーモン達を氷漬けにしていく。


俺は考えていた。どうやったら直美に認めて貰える?どうやったら彼女を仲間に出来る?

考えている間に戦闘は終わった。


ドラゴンロッドを手にした夏南が「流石だね!」と走ってくる。


お前もちょっとは手伝えよ……。

俺が夏南の頭をポンッと叩いたその時だった。


「覚悟は……出来てるのか?」


直美だった。少し言葉を躊躇っている。


「人間の魂という餌を無視して過ごす覚悟が、お前には出来ているのか?」


言われてみれば確かにそうだ。俺は魂を喰らう事で生き長らえる。だがーー。


「お前の魂は死んでも奪わねえよ」


言っていた。

印象最悪なはずなのに。直美の目は余りに澄んでいて、憎めない何かがあった。


直美が微笑む。

初めて見せる笑みだった。


「分かった。私もお前たちと行動を共にしよう。だが足手纏いだと判断した時、私は遠慮なく去る。いいな?」


俺と夏南が同時に頷いた。


「胸の傷はまだ痛むか……?」


常闇の聖堂の入った俺たち。直美が俺に包帯を巻いてくれている。

それにしても直美があれ程にまで悪魔を忌み嫌う理由とは。時期が来たら聞き出してもいいだろう。それまで彼女をパーティーに所属させられればの話だが。


「ん?夏南何か言ったか?」


「なーんにも。気のせいじゃない?」


いや確かに女の声がした。

此処常闇の聖堂で遂に霊が出没したか。


「きゃああ!」


夏南がふんぞり返った。


「お、おい!」


振り返ったが誰もいない。やはり霊が。


「此処は悪魔たちの聖堂だ。幽霊如きで騒ぐな」


とかぶりを振る直美。

割れたガラスの方、見つけた。


青白い女の子の霊はショートカットだった。夏南がツインテール、直美がストレートである。


しかし魔界でこれだけ女子に遭遇するとは……。


「さっきは驚いてごめんね。こっちおいで?」


と夏南が誘導するので霊はおそるおそる近づいてきた。


名前は桔梗(ききょう)。着物を着ていた。


「可愛い〜」


と夏南。

桔梗はまだモジモジしている。


「あ……あの私ならその傷……治せるかもしれませんわ」


なに。

霊力を帯びた人間が魔術で傷を癒すのか。

俺は桔梗を試してみる事にした。

彼女の指先から発せられる青白い光が、俺の胸に溶け込む。傷はみるみるうちに癒えていった。


「すげーぞ桔梗!ありがとう」


目を伏せる桔梗。人見知りなのだろうか。


わざわざ包帯を巻いてくれていた直美がフンッと鼻を鳴らした頃、聖堂で地響きが起こった。


(こ、これは……!?)


「地震?」


「いや……」


「四人が揃ったのですわ!」


外に出てみると天が裂けていく。

太陽が顔を出し、徐々に明るくなっていく。


「アタシ達が四人の勇者だって事?」


一人は霊。一人は女子高生である。


見れば陽の光により焼け死んでいくレッサーデーモンの姿があった。

これで大王「波紋」の力は大幅に削られたはずだ。


デビルズゲート。


魔界と人間界を繋ぐ門は今もじっと時を待っている。いや……もしや既にーー。



四人が揃い、夜明けを導いた俺たちはリディアの町を跡にする事にした。

十二時。聖堂の鐘が鳴り出す。

此処から始まるのだ。


波紋をーー殺す。

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