メンヘラマニフェストー1
「千歳……? これのどこがいい事だって……?」
「……ごめんなさい。これは流石に予想外過ぎたわ……」
千歳は震えた声でそう言いテーブルの上で頭を抱えた。
予想とは違ったみたいだけど、誰がこんな事を予想出来る?
まさかニュース番組を占拠するなんて……。
映像の中の麗紗は、カメラにガチ恋距離まで近付き、挨拶をした。
『国民のみなさぁ~ん! こーんーにーちーはぁー!
今日から、いえ、今からこの国は私、桜月麗紗のものになりまーす! 以後、お見知りおきを!』
そして、しっかりとカメラに張り付いてそう高らかに宣言した。止めるスタッフは居なかった。
皆、恐ろしさのあまり動けないのだ。
「なんでこんな事を……お嬢様は一体何を考えて……」
「琥珀ちゃん、何か言った?」
「いやいや何も言ってないよ!」
「本当かぁ~お前?」
「ホントだってば!」
千歳と耕一郎が、疑いの目で私を見てくる。
でも本当に心当たりがなかった。
何でいきなり日本征服なんか始めたんだよ……。
『うふふっ、皆さんのびっくりしている顔が目に浮かびますっ! でも安心して下さい! 私が皆さんを導いてみせます! バラ色の人生にっ!』
「安心できるかボケ! こちとら不安しかねえよ!」
「確かに……」
即座に渾身のツッコミを入れる耕一郎。
メンヘラが日本征服とか破滅の未来しか見えない。
私達どうなっちゃうんだろ……。
そんな国民の不安というか恐怖に気付かない麗紗はどんどん独裁者の道を突き進んでいく。
『それではまず、私がこの国を治めようと思った理由をお話しようと思いま~す。それは――この度私のだぁい好きな先輩がお誕生日だからです!』
「「「「はぁ!?」」」」
私達は一斉にすっとんきょうな声を上げた。
わ……私の誕生日だから……?
意味が分からない。訳が分からない。理解が出来ない。
「おいまさか琥珀……お前麗紗に誕プレ日本がいいとか言ったんじゃねえだろうな!?」
「んなわけないでしょ! 日本征服なんて考えた事もないよ!」
私に人差し指を突き付ける耕一郎。
確かに自分で言うのも恥ずかしいけど今の麗紗の行動原理は全部私からきている。
ほぼ確実に麗紗は私の言った事を勘違いしたんだろう。
私達は麗紗の演説に深く耳を傾ける。
『そこで、私は愛しい先輩に誕生日プレゼントを、最高の誕生日プレゼントを渡す事にしたんです……しかし、私はすごくすごく迷いました。どうすれば、失敗しないのかと……どうすれば、先輩が一番喜んでくれるのかと……』
麗紗は、悩みを抱えたような表情を一転させて言い放った。
『そこで気付いたんです! もういっそ全てを差し上げればいいんだって! それなら絶対に外れはありません! だってすべてが手に入るんですから! だからまず最初に一番近い国である日本を手に入れる事にしたんです! 日本を手始めに、世界各国すべての国を先輩にプレゼントするんです! そして何にも代え難い先輩の喜ぶ顔を見るんです! これが私が日本を治めようと考えた理由です! 皆さん納得出来ましたか? 出来ましたよね!?』
「出来る訳ねーだろ!!! 国民なめてんのか!!!」
耕一郎がスクリーンに向かって、届かないツッコミを入れる。
どうしようこの子。
全部私が悪いのかな……。
全部私のせいなのかな……。
私の誕生日プレゼントの為に、日本を統治するだなんて……。
もうメンヘラとか愛が重いとかそういう次元じゃない。
……あまりの状況に頭が猛烈に痛くなってきた。
『ではお次は政策を発表致します! 先輩に差し上げるからには、きちんと整えてから渡さないとプレゼントになりませんからね!』
「政策まであるとは……お嬢様の琥珀さんへの愛はどこまで凄いんですか……」
意外な計画性に、凍牙が呆れてそう言う。
もう嫌な予感しかしない。
麗紗はどこからかスクリーンを持ってきてそこに政策を映し出した。
『期待溢れる政策はぁ……こちらっ!』
政策その1:国民全員に運命の恋人を!
政策その2:ジェンダーレス婚の推進を!
政策その3:幼児虐待やネグレクトの対策を!
政策その4:浮気の死刑化
『どうでしょうか!? 素晴らしいと思いませんか?
この政策ならばみんなが幸せになれると思うんです!
この国がみんなのユートピアになると思うんです!』
……狂気に塗れた政策の間違いなんじゃないかと思ったけど、割とまともな気がする。
思想強いけど間違ってはないような気がする。
政策その4は置いといて。
まあ政策とか以前の問題なんだけどね!
『それぞれ順を追って解説していきますね! まずは政策その1からです! これを施行する目的は全ての国民に運命の恋人を巡り合わせる事によって幸せになってもらうためです! この国には、運命の恋人に出会う事が出来ずに、哀しく死んでいった人達が大勢います。そんな哀しい事を起こさせないのがこの政策です! 国民全員が愛され愛し合う国にするのがこの政策です! 私と先輩のように、最高の幸せを皆さんに手に入れて欲しいんです! そうすれば私の先輩が他の――いやあああああああああああああああああっ!!!』
言葉を続けようとした麗紗は、突然発狂してテレビ局の四方の壁を跡形も無く消し去った。
なんで急に発狂して能力を……。
他の――の後何を言おうとしたんだ。
『無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い絶対に無いッ! 宇宙が滅びようが世界が滅びようが絶対に無いッ! 無いんですよ……ある前に消せばいいんですよ……だから今こうして――』
まだ狂ってた。
麗紗は腕の皮膚と肉を糸で削ってそこに『無い』の文字を無数に刻みつける。
腕から血が雨のようにポタポタを床に落ち、模様を描き出す。
病んでるなあ……。
麗紗の性格を知ってる私達だからいつも通りだって思えるけど、普通の人から見たら恐怖だな。
ていうか何が無いんだよ!
本当に何を言おうとしたんだよ!




