初でーとその2
「先輩は“ホワイトリリィ”見た事あるんでしたっけ」
麗紗ちゃんが私をじっと見ながらそう聞いてきた。
私の方が背が高いので麗紗ちゃんは必然的に私を見上げる形になる。
「無いよ。なんか名作らしいから一回観てみたかったんだよね。麗紗ちゃんは?」
「私も今日初めてなんですよ~。先輩みたいに前から観てみたかったけど観に行くタイミングが無かったというか……」
「ああ~めっちゃ分かるそれ。なんか一人だと行きづらいなあって……恋愛モノだし」
「そうそうそうそう! ですよね~! ……うふふっ、あははっ、あははははははははははははははははははははははははっ!!!」
急に笑い出す麗紗ちゃん。
え……? 今私ただ共感しただけだよね? な、何か笑う所あったかな……怖い怖い怖い……。
そんな風に狂気に満ちた……じゃなくて楽しく話していると。
「あ、先輩、映画に行く前にクレープ屋さんに行きませんか? 私すっごく美味しいお店知ってるんですよぉ〜」
麗紗ちゃんがそうクレープ屋に誘ってくる。
く、クレープ……だと……!
「本当? クレープかあ~。太らないかな……」
「大丈夫ですよ。そのお店低糖質のクレープが売りですから」
「えっそんな店あるの!? 行きたい!」
「やったあ! それじゃあクレープ屋さんに行きましょう!」
麗紗ちゃんが弾けるように笑って私の手を引いた。
クレープ……食べるの久しぶりだなあ……。低糖質だから太る心配はいらないんだ……!
食べたい……はやくあのモチモチ感を味わいたいよ……!
私はさっきまでの恐怖も忘れてクレープの事で頭がいっぱいになった。
(先輩うれしそう……もうほんとかわいいなあ私の先輩……)
なんか麗紗ちゃんにじーっと見られている気がするけど気にしないでおこう。
そうしてしばらく歩いていると。
「先輩、あのお店です」
「おお……!」
クレープ『ヨモツヘグイ』と書かれたカラフルな看板が見えた。店の前まで来てみると名前に反して美味しそうな甘い匂いが漂ってくる。
「なんかもう既にいい匂いが……」
「そうでしょう? さあ、早く入りましょうよ!」
店の中に入るとポップな雰囲気の店内が私達を出迎えた。客も結構多くて席は大分埋まっている。
「いらっしゃいませー! 二名様ですね! こちらの席にどうぞ!」
笑顔のウェイトレスさんが私達を席に案内する。かなりいい店みたいだ。これはクレープが楽しみだ……!
「メニューをどうぞ! お決まりでしたら、こちらでお呼びください!」
ウェイトレスさんが持ち場へと戻っていくのを後目に、私達はメニュー表を開く。
「どれがいいかな……麗紗ちゃん、なんかオススメとかある?」
「えっと……そうですね……この『鈍産いちごクレープ』が一番ですね」
「なるほど……じゃあそれにしようかな」
「分かりました! 私は……うーん、たまにはいちごじゃなくて別のにします」
「よし、早く頼もう!」
「はい!」
麗紗ちゃんが呼び鈴でウェイトレスさんを呼び、それぞれクレープを注文する。そしてしばらくワクワクしながら待っていると……。
「お待たせしました~。こちら鈍産いちごクレープとヨモツバナナクレープでございます!」
「わあ……ありがとうございます!」
「どうも~」
鮮やかな赤色をしたいちごのクレープと立派なバナナがはみ出ているクレープが目の前に運ばれてきた。
ウェイトレスさんからいちごのクレープを受け取って早速一口食べる。
こ……これはっ……!
いちごと生クリームの自然な甘さとクレープのいいモチモチ感が口の中を満たす!
こんな美味しいクレープは初めてかもしれない……。
「うふふ、どうですか先輩!」
「めっちゃ美味しい……」
「おお~! 先輩のお口に合ってよかったです!」
このクレープに巡り合わせてくれた麗紗ちゃんに深く感謝しながらも夢中でクレープを頬張る。
半分くらい食べた頃、麗紗ちゃんがふと私にこう言った。
「あっ、先輩、私のバナナクレープもちょっと食べてみませんか? 美味しいですよ」
「いいの……? ありがとう」
クレープのあまりの美味しさに遠慮というものを忘れて私は麗紗ちゃんのバナナクレープにぱくっと齧りついた。これも凄く美味しい。バナナが最高の仕事をしてくれている。
「バナナもめちゃくちゃ美味しいね」
「そうでしょう! ヨモツへグイのクレープに外れはありませんから! もぐもぐ……」
「それにしても麗紗ちゃんって間接大丈夫なんだね。意外~」
「えっ」
「ん?」
私の何気ない一言にピタリと固まる麗紗ちゃん。麗紗ちゃんの顔と耳が赤くなって頭から蒸気? らしきものが出る。
「あの~麗紗ちゃん……? 大丈夫……?」
「えっ……あっ……わ、私……」
麗紗ちゃんは俯いて顔を手で覆った。私達の間に微妙な空気が流れる。
今気付いたのか……! しかも気にするタイプだったんかい!
そしてごにょごにょと何かを唱える麗紗ちゃん。
(こ……子供が出来ちゃう……名前考えておかないと……)
私は麗紗ちゃんの声が小さくて何を言っているのかよく分からなかった。
後にその内容を知って驚愕するのだけれど、それはまた別のお話。