Addiction-3
「ぐああああああああああああ!!!」
「死ねオラッ!!」
「ゲェェっ!?」
凍牙が、軋むような悲鳴を上げ、峠が半笑いで巨大な氷塊を出す。
化物は両腕で氷塊を受け止めるも押し負け、木々に叩きつけられた。
凍牙から峠が出てきてる……?
「やめろ……っ! 貴様は出るな!」
「てめえバカヤロォ! 意地張ってる場合か! さっさと俺に代われ! 死にてえのか!?」
「貴様はただ暴れたいだけだろう……! 貴様が出れば琥珀さんまで危ない……っ!」
「ざけんな! オレにだって敵味方の区別ぐらいあるわボケ!」
「そういう問題じゃない! 貴様では能力の調整を間違えて巻き込むだろうが!」
「う、うるせーよ! じゃあオマエあの気持ち悪い奴に勝てんのかよ!?」
「そ、それは……」
「ええ……」
激しく言い争う凍牙と峠。
一体何がどうなってるんだ……。
一人芝居にも見えるから変な絵面だ。
でも峠なら、あの化物にも対抗できそうだ。
凍牙はだいぶ苦しそうだけど。
「もういい! オマエは寝てろ!」
「そんな――」
峠が凍牙にそう言い放ち、無理矢理引っ込ませると峠は眼帯を外し、絶対零度の冷気を解き放つ。
全身が氷を押し付けられているかのように寒い。
温かかったはずの海が冷気で凍り付いている。
水色の髪を逆立て、峠はニヤリと笑って化物に言う。
「ヒヒ……待たせたなキモ野郎……このオレ様に出遭っちまったお前は……今夜が峠だろうなぁ! ヒャハハハハハ! 行くぜぇ!」
「ギゲェェェェェェェェェェっ!!!」
決め台詞を完璧に決めた峠は、巨大な氷の槍を出現させ化物に放った。
化物はさっきの攻撃が効いていたのか少し巨体をふらつかせながら氷の槍に爪を食い付かせる。
「ヒヒヒ……」
「ギァァァァァァァァァァァ……!」
二つの絶大な力がぶつかり合い、拮抗する。
しかし、化物が腕を芋虫のようにうねらせると氷の槍はガラスのように砕け散ってしまった。
あの化物は峠でやっと互角なのか……。
「何ィ!?」
「ヴァァァァァァァァァァァァ!!!」
峠は化物の力に驚きつつも化物の周囲を氷の山で包み込んだ。
化物は氷漬けになり動きを封じられる。
「これでどう――」
「イァァァァァァァァァァ!!」
化物は氷山の中でも暴れ、力業で氷にヒビを入れて破壊した。
峠はそれを見て呆れた表情を浮かべてぼやく。
「だと思ったぜぇ……一回しか言ってやんねーけどお前強いなぁ……ここは必殺技を使ってさっさとカタをつけるしかねーな」
峠は迫り来る化物の攻撃を避けながら、化物の何倍も大きい氷の竜を呼び出した。
「必殺……ドラゴンバレットォ!!!」
氷の竜がその鋭い牙を剥き化物を貫こうとする。
絶大な冷気と力が化物に襲い掛かった。
大地震のような轟音が響き渡り、化物の居た場所にダイヤモンドダストが舞い踊った。
とんでもない力だ。
私が入れる余地がない。
「まさかクソオヤジ以外にこの技を使う事になるとはなぁ……でもお前の峠はここで終わ……」
「オァァァァァァァァァァ……」
「嘘だろ……」
「しぶといな……」
化物が、低く唸り声を上げる。
かなりのダメージは負っているようで、あちこちから血を流していたがまだ倒れるまでには至っていない。
でも、これを何回か当てれば倒せる!
それか天衣戦の時みたいに八重染琥珀を上乗せすればいい。
やっと勝算が見えてきた……!
この時の私は、そんな盛大な勘違いをしていた。
絶望的な状況だというのに。
私は忘れていた。凍牙が病み上がりだという事を。
その原因は、峠である事を。
「ぐっ……! もう限界だ……!」
「えっ……?」
峠は、苦々しい表情を浮かべながら、私を連れて瞬時に後ろに引いた。
化物の攻撃を紙一重で避けて。
「な、何で……」
「……コイツの体は本来コイツが出せる最大出力までしか耐えられない。オレ様の力には体が付いてこれねーんだ……」
「そんな……! じゃあ……!」
「オレ様はもう動けねえ……コイツもオレ様もふがい、ねえ、ぜ……」
「峠……あんた……」
「は、やく、逃げ、ろよ……クソ、アマ……」
峠はそう言い残して気絶した。
……峠ですら、奴には勝てないのか。
化物の方を見ると、相変わらず全身から血を垂れ流しながら破壊を続けている。
いつこっちに来ても不思議じゃない。
……あんな姿に、あんな風になるまで私達を倒そうとするなんて。
そんなの、人間じゃない。
悪意の塊だ……。
恐怖を一切感じないのが、唯一の救いだった。
凍牙を抱えて逃げる事くらいは出来るかもしれない。
でも、見つかればその時は……。
奴は動くものから優先的に壊している節がある。
だから迂闊に動く訳にもいかなかった。
「何か……出来る事は無いのかな……」
追い詰められた私は必死に思考を巡らせる。
何か……何か方法はある筈だ。
奴に勝てないと思ったら駄目だ……!
人に頼ってばっかじゃ駄目だ……!
自分の身は、自分で守らなきゃ。
そう強く思った私の脳裏に、ある言葉が蘇る。
『で、早速本題に入るわよ。八重染琥珀なんだけど、これは地球上のどこにも存在しない特殊なエネルギーって事が分かったわ』
『八重染琥珀は液体でも個体でも気体でもない物質の第4の状態……プラズマよ。火とか雷みたいな感じね』
それは、千歳が言った八重染琥珀の実験の結果だった。
何で今これを思い出したんだ……?
……プラズマのようなもの。
確かプラズマの一種は、個体みたいな感じになるんだっけか。
あんまり覚えてないけど。
……もしかして、八重染琥珀は個体的なものに出来るんじゃないか?
やろうと思えば、とてつもなく固くする事も出来るんじゃないか?
たぶんこの考えは、理系の人が聞いたら即座にツッコミを入れてくる考えなんだろう。
でもやってみないと分からない。
それに、私が個体にしようとしてるのはプラズマじゃなく八重染琥珀だ。
いける!
そう考えた私は、黄玉を固くさせるイメージで、盾を作るイメージで放った。
盾をイメージしたのは直観で、固くて自分を守れそうだったからだ。
すると、丸い光の玉の形がだんだんと広がり変わっていく。
こ、これは……!
私は光が弾けないように集中力を全開させ、さらにエネルギーを込めていく。
どんどん研ぎ澄ましていく。
「ぐうう……っ! はあっ!!!」
私は限界までそれに八重染琥珀を注いだ。
そして、ついに完成した。
三角形で、朝日のような眩い輝きを持つ盾が。




