究極の必殺技
「二人共遅いなあ……」
「電話が長引いてるんですかねぇ……」
私達は千歳と耕一郎の帰りが遅い事にだんだん不安になっていた。
込み入ってそうな千歳はともかく、耕一郎は一体何をやってるんだ。
釣り竿無くて困ってるのかな……。
「ですがあの二人の強さは折り紙付きです。心配する事はありませんよ」
「そういうのをフラグって言――」
「ガァアアアアアアアアアアアッ!!!」
「え……」
「何ですか……今のは……」
「きゃーっ! 怖いです琥珀先輩!」
凍牙がそんなフラグみたいな事を言ったせいなのか猛獣のような恐ろしい咆哮が轟いた。
私と凍牙は驚いて立ち竦んでしまう。
麗紗は涙目で私に抱き着いてくる。あざとっ!
この子絶対怖がってないでしょ!
私はあの感触が蘇る前に体から麗紗を引っぺがした。
「うぅ……琥珀先輩……なんで怖がる私を受け止めてくれないんですかぁ……」
「麗紗あなた私に抱き着く余裕があるくらいなんだから全然大丈夫でしょ」
「そっ……そんな事無いですよ! 私怖いです!」
「いや暑いから離れて……」
「イチャついてる場合じゃないですよ!? 外に謎の猛獣が居るんですよ!?」
また私にくっつこうとする麗紗に凍牙がツッコミを入れる。
イチャつくって何だよイチャつくって。
「グァアアアアアアアアアアッ!」
「うわっ。また来たよ」
「何か近付いてきていませんか? 不味いですよ……」
「きゃーっ! 怖いーっ!」
すると再び猛獣の雄叫びが聞こえてくる。
この声……さっきからどこかで聞いたような気がするんだよな……。
どこで聞いたんだろう。
しつこく抱き着いてくる麗紗を剥がしながら私はそこを疑問に思っていた。
「とりあえずここを動くべきでは――」
「ガァアアアッ!」
「うおっ」
「きゃあっ!?」
「なっ!?」
凍牙がそう言おうとしたその瞬間、とても近い所で凄まじい破壊音が響いた。
多分別荘のどこかが壊されたのだろう。
「これは……一旦外に出ましょう! 中に居てもやられるだけです!」
「そうね……行きましょう琥珀先輩!」
「うん……」
凍牙の判断に私達は頷き、もうすっかり暗くなっている外に出た。
「やっと出てきてくれましたか。声が枯れるかと思いましたよ」
「なっ……お前は……!」
外に出た私達を待ち受けていたのは、なんとあの熊野郎だった。
さっきまでの猛獣の声はコイツだった訳だ。
それなら声に聞き覚えがあった事にも納得が行く。
でも……。
「何でアンタが……ここに……」
「おや、奇遇ですね。こんな所で会うとは縁がありますね~」
笑顔を浮かべながらそう言う熊。
でもなぜかその笑みがとても不気味に見えた。
「琥珀先輩……何なんですかコイツ……」
「コイツは……知り合いっていうか顔見知りっていうか……」
麗紗が目を剥きながらそんな事を聞いてくる。
熊にまで嫉妬するのか……。
この子が相変わらずなおかげでなんか安心した。
それはさておき、熊が得体の知れない存在である事は確かだ。
私は熊にこう聞いた。
「アンタ……ここに何の用があるの?」
「少々……ある実験をしに来ました。ところで、桜月麗紗さんはあなたですか?」
「私だけど……何? 琥珀先輩に何かしたら最上級の苦痛を与え続けてあげるわよ」
熊が逆にそう聞いてくる。
麗紗の答えに、熊はニッコリと笑みを浮かべて頷き言った。
「そうですか……それは良かった」
「さっきから何だ貴様は! ふざけた真似は大概にして貰おう!」
凍牙が熊に激昂する。
だが熊は全く意に介する事なく、ただ薄く笑うだけだった。
熊の不気味な態度に私達が動けずにいると、急に熊が私達から距離を取って指をパチンと鳴らした。
「出番ですよ……晴衣さん!」
「遂に俺の力を使う時が来たかッ! ハッハッハッー!」
熊がそう呟くと、黒いマントを羽織り、包帯を両腕に巻いた男がその辺の茂みから現れた。背中に蕁麻疹ができる台詞と共に。
黄緑色のメッシュの入った前髪に隠れた左目を抑えながら、男は私達を見据える。
そしてかっこつけたポーズを取りながらこう言った。
「我が名は晴衣核……して……お前達の中で、俺の相手に相応しい者は誰だ?」
「この女ですよ、晴衣さん」
「成程……確かに強者の気を感じるな……」
熊が麗紗を指差す。
男……晴衣はまじまじと麗紗を観察する。
麗紗は汚物を見るような目で晴衣を見る。
なんだこれ……。
そんな事を思っていると晴衣がまたよく分からない構えを取る。
何かの拳法のような構えを変にしたような感じだ。
あまりのダサさに背中を掻き毟っていると、突然晴衣の右足がエメラルド色に光り輝き始めた。
「な、何よそれ……」
「俺のすべてを受けてみろ、女ァ!!! 行くぞ! 必殺、ドラゴニックエメラルドシュートッ!!!」
晴衣はそう叫ぶと、空中に高く跳びあがり、翠色のまばゆい光を纏いながら麗紗に飛び蹴りを放った。
「ぐうっ……!?」
「フハハハハハハッ!!! ここまで抗って見せるとはな! 面白い! 面白いぞッ!」
その閃くような蹴りを麗紗が慌てて恋色紗織で抑える。
だが何と、驚いた事にあの麗紗がじわじわと押されている。
何……だと……。
この厨二病……強すぎないか……?
「ううううううううううっ……!」
「ハアアアアアアアアアッ……!」
絶大な力がせめぎ合い、私と凍牙がまともに立っていられない程の途轍もない衝撃波を生み出す。
なんて力だ……!
「とおッ!!!」
「きゃあああああああああああ!!!」
そして、そのせめぎ合いを制したのは――。
何と晴衣の方だった。
麗紗は叫び声を上げながら空の彼方に吹き飛ばされてしまった。
「嘘でしょ……」
「そんな……」
麗紗が、負けた。
私達は、そのあまりの事実にただただ愕然とする他なかった。
だが晴衣は、さらに追い打ちを掛けるように衝撃的な事実を口にした。
「冥途の土産に教えてやろう! 私の能力は“究極の必殺技”ッ! 能力レベルは……1だッ! フハハハハハハ!!! 驚いたろう!!!」
「はぁ!?」
「え……」
レベル1……!?
私達の思考はそこで完全にフリーズしてしまった。




