海でーとその2
「はやく泳ぎましょうよ琥珀先輩!」
「うん! 行こっか!」
「いやあああああああ! 私をこの格好のまま置いていかないでぇー!」
私と麗紗は引きずっていた千歳を置いて海に飛び込んだ。
潮の香りと一緒に、ひんやりとした海の冷たさが体に伝わってきた。
「意外と水冷たいな……まだ午前中だからか」
「たぶんこれから温かくなってきますよ。ところで琥珀先輩……ど、どうですか私の水着……似合ってますか……?」
麗紗がもじもじと顔を赤くしながら私にそう聞いてくる。
白のフリル水着が、麗紗の白くきめ細やかな肌を引き立てていて、まるで妖精のような幻想的な尊さを醸し出していた。
私はそれに素直な感想を返した。
「うん、すごく似合ってるよ。かわいい」
「えっ……本当ですか!? きゃ~っ! 琥珀先輩大好きっ!」
「うん麗紗これくらいで鼻血出さないでくれる? しかもその状態で私に抱き着こうとしないで?」
純白のフリルが、透明だった海が麗紗の血に染まっていく。
昔のRPGにあったなこんなの。軽くホラーだよ。
私がまた一歩麗紗に引いていると、凍牙と耕一郎が水着を着て別荘から出てきた。
あれ……? 女の私達より男の二人の方が着替える手間は少ないはずなのになんで私達より遅かったんだ?
「二人とも用意は終わったのね。お疲れ様」
「はい。完了致しました」
「もう終わったよん」
麗紗の労いを受け取る二人。
色々準備とかしてたのか……そりゃじゃれてた私達よりも遅くなるわけだ。
一応耕一郎も真面目に仕事してるんだな。
それにしても千歳は大丈夫なのかな……置いてきちゃったけど。
私が千歳の方を振り向くと、千歳はおずおずと恥ずかしそうにこちらに近付いてくる。
やっと海に入る決心が付いたみたいだ。
「おーい千歳~。この子また鼻血出しちゃったから何とかして~」
「ちょ、ちょっと! あんまり大声で名前を呼ばないで恥ずかしいから……」
千歳は凍牙たちの方をチラチラと見ながら私に小声でそう言ってくる。
この子本当に付いてるの?
私がそう疑問に思っている間に、千歳は恥ずかしそうにしつつもてきぱきと麗紗の治療を終わらせた。
「ほら、もう大丈夫よ」
「ありがとう千歳」
「どういたしまして~。それよりも私は恥ずかしいから隅っこの方で泳ぐわ。それじゃ……」
「おーいちょっと待っ……」
「あれ? 千歳さんが見当たらないと思ったらそこに居たんですね。溺れたのかと心配になりましたよ」
「ひぇっ!?」
そそくさと逃げようとする千歳を私が引き留めようとしたその時、凍牙が絶妙なタイミングで千歳に声を掛けた。
声を掛けられた千歳は飛び跳ねて驚き、生まれたてのひよこみたいな声を出して一瞬で私の背後に回った。
いやどんだけ恥ずかしいんだよ!
しかも相手は凍牙じゃん! こんなのを異性として見る女の子居ないよ!
「へっくしょい! あれ……カゼですかね僕……まあそれはそれとしてどうして千歳さんはそこまで私を避けるんですか……その反応はさすがの僕も傷付きますよ……?」
「うぅ……」
「千歳! 凍牙が傷付いてるじゃない!」
「麗紗の言う通りだよ! 私の後ろで隠れてないで、可愛い姿を見せなよ!」
「だ、だって……変って思われたら……」
「……相手は凍牙よ千歳。何言ってるの?」
「そうだよ! あんなの男じゃないって!」
「えっなんか皆さん私に対して辛辣すぎませんか? 男じゃないとか……これでも幼稚園ではかなり告白される方だったんですよ……?」
「た、確かにそうね……私、出るわ!」
「頑張って千歳!」
「頑張れ! 私という巣穴から旅立つんだ!」
「……なんで私が罵られる事で千歳さんが奮起するんですか!? 一体何の因果関係があるんです!?」
凍牙がなんか言ってるけど、千歳が心を奮い立たせて私の背中から出た。
よし……あとは凍牙が余計な事を言わなければ大丈夫……!
そもそも千歳本人に自信が無いだけで、魅力は麗紗にも負けず劣らず強いのだ。
私に至っては完敗だし……。
「と、凍牙……私の水着……へ、変じゃない……?」
千歳が、顔を真っ赤にしながら凍牙にそう聞く。
完全に乙女の表情を浮かべている。
……相手は凍牙なんだよ、千歳……。
変態だけど根はピュアなんだなあこの子……。
「別におかしな所はありませんが……」
「そ、そう?」
「それより皆さん泳がないんですか? あっちの方では魚とか……あ、あとナマコが居ましたよナマコが! 今からそっちに行きませんか!?」
「……ナマコに負けた」
「あああああ! お前このクソ野郎がぁーっ! もっと褒めろよ!」
「ぐわあっ!? いきなり何をするんです琥珀さん! さっきから僕が何をしたって言うんですか!?」
凍牙のあんまりなコメントに膝から崩れ落ちる千歳。
私はそんなクソ野郎に黄玉を撃ち込んだ。
何だよナマコって! せっかく女の子が勇気出して水着来たのにその態度は何だ!
コイツ私の想像を遥かに超える馬鹿だった……。
ていうか凍牙に期待した私達が悪かった。
「もういいよお前……あっち行って」
「なぜ!? 理由がさっぱり分からないんですが!?」
「分からないから駄目なのよ凍牙」
「お嬢様まで……そんな理不尽な……」
「……黙ってれば随分惚けた事を言うじゃない……いいわ、骨の髄まで分からせてあげる……」
「なっ!? 千歳さん!? そ、それは……」
凍牙の舐めた態度に完全にキレた千歳が、謎のドス黒いオーラを纏いながら手に収まる大きさの赤い宝石のような物を出した。
なんだかよく分からないけど威圧感はひしひしと伝わってくる。
女心って怖いな……私も女だけど……。
凍牙はその宝石みたいな物を見た瞬間、顔を真っ青にして叫んだ。
「うわああああああああああ! 千歳さん! それは駄目ですよ! 私を殺す気ですか!」
「そうよ」
「即答!? 本当に私が何を……! “フリーズバレット”ッ!」
凍牙が大慌てで氷を放ち、赤い宝石を氷で包む。
いきなり能力をぶっ放した……? どんだけ焦ってんだコイツ……。
しかし千歳は氷を素手でかち割り、赤い宝石をあっさりと氷から開放した。
「この私に攻撃するなんて……これはたっぷりとお仕置きが必要みたいね」
「ひいい……そ、そんなつもりじゃ……すみませんでした……」
「今更懺悔した所でもう遅いわ……麗紗ちゃん、私向こうで凍牙に女心を弄んだ事への罪の重さを思い知らせてくるわね」
「はーい♪」
「ありがとう……それじゃあ行くわよ」
「うわあああああああああああ――」
千歳は一瞬で凍牙を持ってどこかに行った。
これから凍牙が何をされるのかは、あまり考えないようにしよう。
同情はしないけどね!
そんな事を考えていると、麗紗が私の腕をつんつんとつつき、恍惚の表情を浮かべてこう言った。
「……ふふっ、これで二人っきりですね、琥珀先輩♪」




