修行
改稿などをちまちまと行っております。
物語の大筋が変わる事はありませんのでご了承ください。
「耕一郎~! お願い私を鍛えて!」
「何だいきなり! 俺はレイザップじゃねえぞ!」
私は決意のままに温室に向かい、木々の中の畳ベッドで寝転がっていた耕一郎の手を取ってそう頼み込んだ。
耕一郎は私の手を振り払ってめんどくさそうに言い放つ。
見るからにやりたくなさそうだ。
でも、凍牙と千歳は耕一郎に鍛えられたって言ってたし……。
これ以上の適任はいないだろう。
「ちょっと私今特色者に狙われててさ……鍛えないとまずいんだよ……だから、お願い!」
「ああ~? それなら麗紗とかの方がいいんじゃねえか? あいつの方が強いだろ」
「でも耕一郎は経験あるし……麗紗は教えられるかどうか分かんないし……」
「いや~俺はやめとけよ~。ていうかめんどくせえ……」
「はっきり言いやがったなこの野郎……」
本音が出たな。
温室に畳ベッド持ち込むし……何なんだコイツ。
「あなたは頷くだけでいいのよ耕一郎。あなたに拒否権は無いわ」
耕一郎の説得に難航していると、不意に背後から声を掛けられる。
声の主はなんと麗紗だった。
さながら猫のように木々の間から私達の前に出てくる。
なんで私の居場所が分かったんだろう……怖っ。
まあそんなのはいつもの事か。
「れ、麗紗!? お前何でここに!?」
「琥珀先輩のにおいを辿ってきたの。で、耕一郎? 琥珀先輩の頼みを断るなんてどういう事かしら? 懲戒免職にされたいの?」
「め、めっそうもない! 喜んでコイツを鍛えるぜ!」
「さんを付けなさい。社会から追放するわよ」
「喜んで琥珀様を鍛えさせて頂きます!」
「うわあ……」
麗紗の言う事が色々ヒドくて一々ツッコんでられない。
耕一郎が可哀想に見えてきた。
でも、これで能力を鍛えられそうだ。
「じゃ、じゃあ早速お願い……」
「おう……ちくしょう……ダンガム見ようと思ったのに……」
「私も一緒に行きますよ琥珀先輩!」
「ありがと……」
そうして私達は庭に移動した。
なぜか麗紗も付いてきた。別にいいけど。
「しょうがねえ……んじゃやるぞ。俺の教育スタイルは……」
「とにかく場数を踏む、とにかく戦う事が耕一郎の方針なんですよ琥珀先輩」
「おい麗紗てめえ俺のセリフ取んじゃねえ! 稽古付けてやるんだからせめて言わせてくれよぉ!」
「別にいいでしょ。主人の私を引き立てるのもあなたの仕事なんだから」
「……ひどい」
いい所をかっさらっていく麗紗。
耕一郎はただでさえ凍牙以上に活躍してないのに、台詞を取るなんて……。
私は飼っていたカブトムシが虫かごからいなくなってしまった小学生のような顔をしている耕一郎に慌てて呼び掛ける。
「と、とりあえず耕一郎、はやく戦おう!? 今も特色者が狙ってるかもしれないんだよ!?」
「お、おう。そうだな! んじゃ結界張るぞ」
そう言って耕一郎はどこからか結界の器具を取り出し庭の四方に張った。
結界は千歳以外も使えるんだな。便利。
しばらくして結界を張り終え、私と耕一郎は庭の真ん中で見合った。
麗紗は少し離れて私達を見守っている。
「よし……心の準備はいいか?」
「うん……麗紗、なんか合図よろしく」
「はーい。それじゃ……よーいドン!」
麗紗が運動会みたいな合図をして、私の修行が始まった。
まず私は体中に八重染琥珀を行き渡らせ、空中に浮いて距離を取った。
耕一郎はそんな私に土袋を投げてくる。
ただの園芸用の土袋なのに凄い勢いだ。
私はそれに向けて黄玉を放った。
黄玉が土袋に当たって爆発し、私から離れた所で中身の土が撒き散らされた。
これで耕一郎は目に土が入ったはず。
攻撃を利用させてもらった。
このままたたみ掛ける!
私は黄玉を土埃の中に乱射した。
「とりゃーっ! ふう……こんだけやればさすがに効い……」
「フラグを立てるな! これは戦いの基本だぜ!」
「うわあっ!?」
攻撃を入れて油断していた私に突然背後から鈍い衝撃が襲い掛かった。
その衝撃の正体は、耕一郎が投げた土袋だった。
くそう……痛いなあ……。
フラグ立てたのは本当に迂闊だったな……。
私は負けじと耕一郎に黄玉を撃つ。
でも耕一郎は農耕用トラクターを出し、それを振り回して黄玉をかき消してしまう。
「いや滅茶苦茶じゃん! 私にこれ以上どうしろと!?」
「迷ってる場合か! 行くつってんだよ! オラァ!」
「きゃあああああ!!!」
あの野郎トラクターぶん投げてきやがった!
さすがにヤバいって! 素手で止める訳にはいかないし!
黄玉じゃ威力が……いや、待てよ。
この黄玉も、力を溜める事は出来るんじゃないかな?
よし、行ける!
私は空気に八重染琥珀を注ぎ、人間大の巨大な黄玉を作り出す。
まるで太陽のような輝きのそれをトラクターに向けて発射した。
巨大な黄玉が、トラクターに着弾して大爆発を引き起こす。
眩しい光と爆風が同時にやって来る。
「わああっ! もうちょっと余波とかも考えとくんだった!」
「そうだよ! メチャクチャしやがって! バカモンがぁー!」
吹き飛ぶ私に、耕一郎がまた土袋を投げつけてきた。
いや容赦なしかよ! 手加減をしてくれ手加減を!
レベルの差いくつあると思ってんだ!
「こんにゃろ……! 黄玉ッ!」
迫り来る土袋をなんとか黄玉で防ぎ、体勢を立て直す。
にしてもあの光と爆風を食らっても反撃が出来るなんて……耕一郎の能力強いな。
さすがはレベル10ってところか。
でも、これなら強くなれそうだ。
「まだ行けるみたいだな。ド根性のアイツみてーな奴だ」
「うん……ていうか名前覚えてあげなよ可哀想に……」
耕一郎は何の気もなさそうに言う。
よくそれで今まで戦ってあげてたな。断るのが面倒臭かったのもあるだろうけど。
まあそんな事はどうだっていい。
もっと、強くなるんだ……!
私がそう決意を強くしながら黄玉を撃とうとしたその時。
麗紗が、耕一郎の前に瞬間移動して耕一郎の頭を掴んだ。
え……? あれ……?
ど、どうしたんだろう……?
「耕一郎……? あなたちょっとやりすぎじゃない……? いくら修行って言っても限度があるわよ……琥珀先輩が怪我でもしたらどう責任取るの? 今勝負服は無いのよ? 馬鹿なの?」
「え……いや……そういう……修行とかに怪我はつきものじゃ……」
「ふざけるんじゃないわよ……! あなた今までそんな甘い考えでやってたのね。もういいわ私がやるわ。というか最初から私がやれば良かったのよ。“恋色紗織”」
「ぐふっ!」
耕一郎は麗紗の出した糸で気絶させられてしまった。
速すぎて見えなかったけど。
……ん? 今私がやるって言った?
って事はまさか……。
「それでは琥珀先輩、今から私が修行をしますね♪」
麗紗は、満面の笑みでそう言った。




