お見舞いという名の何か
「はあ~疲れた~」
「それはどういう意味ですか先輩? もしかして私に疲れたんですか? そんな訳ないですよね先輩!? ただ学校に疲労を感じただけですよね!?」
「うんそうだよー」
「ほっ……良かったぁ……」
私の何気ない呟きに敏感に反応する麗紗。
こんな事でいちいち病むのはやめてほしい。
私は棒読みで麗紗にそう返す。
麗紗はそれに安心して膨らみの小さい胸を撫で下ろした。
学校が終わった後、また私は麗紗の屋敷に来ていた。
いや、来させられていた。
朝不法侵入されたばっかりなのに。
それでも学校に遅刻しなかった私って本当に偉いと思うんだ。
あの後は何とか麗紗に帰ってもらえたんだけど、昼休みに麗紗が購買に行きながら喋る私と優紀の前に出てきて――。
『それでその時さ……』
『あっ! いた! 琥珀せんぱーい!!』
『えっちょ麗紗!?』
いきなり私の体に抱き着いたのだ。
突然の出来事にも関わらず優紀は私と違って大して驚きもせずに言う。
『あ、この子は……琥珀の後輩ちゃんだっけ』
『違います! 必然の赤い糸で結ばれた恋人です!』
『ああそうなの? ごめんね勘違いしちゃって』
『いや違うって優紀! 後輩で合ってるから!』
麗紗がそう断言すると、優紀はその言葉を疑いもせずに信じた。
何でだよ!!!
もちろん私は全力で否定した。
でも優紀はきょとんとした顔をして私にこう聞き返す。
『え? 恋人じゃないの?』
『ちょっと先輩? 冗談も程々にして下さい』
『え……いや……その……』
『……なるほどね』
『優紀さぁん!? 何納得してるの!?』
突然圧を掛けてくる麗紗に口ごもっていると、なせか優紀が納得したような顔をしてうんうんと頷いた。
な、何を納得したんだ……。
まさか麗紗、こうやって私の周りにどんどん既成事実を作っていくつもりじゃ……。
絶対そうだ……まずいまずいまずい……。
そう私が焦っていると。
『あのね後輩ちゃん……琥珀すんごく鈍いから……』
『……それもそうですね……私頑張ります!』
『ふふ、頑張りなよ~! 琥珀、私用事思い出したから行くね! じゃ!』
『ええ!? ちょっと優紀!?』
優紀は私が止める間もなく走ってどこかに行ってしまった。
気を使ったのかそれとも自己防衛のために逃げたのか……。
優紀の事だから気を使ったんだと信じたい。
『おや? 琥珀先輩のお友達は用事ですか~! これで二人っきりですね! それはそれとして一緒にご飯食べましょうよ琥珀先輩!』
『そうだねー』
神様のイタズラかのように麗紗と一緒に行動する事になる私。
学校でも逃げ場はないのか……。
私の心の平和はどこにあるんだろう……。
『あと琥珀先輩、凍牙の容態がまだ良くならないので今日お見舞いに来てくださると嬉しいです! 多分凍牙も喜びますから! ね? ね?』
『あーうん分かった』
凍牙をダシにして私を呼ぼうとする麗紗。
もう何を言っても麗紗の屋敷に行く事になりそうだったので私は諦めて素直に首を縦に振った。
そうして私は麗紗の屋敷に来させられた。
本当に誰か助けてほしい。
あ~推しが装甲着て颯爽と私の目の前に出てきてくれたらいいのにな~! 麗紗に秒で倒されそうだけど。
ただ一応凍牙のお見舞いという口じ……目的だから
麗紗と二人きりじゃなく実験室で皆が集まっている所に居られるのが唯一の救いだ。
「で、凍牙、大丈夫?」
「一ミリも動けません。情けない限りです……!」
「本当に情けないわね~。力ちゃんなんかもう外で耕一郎ちゃんと決闘してるのに」
「いや強すぎでしょ! ていうかアイツ馴染み過ぎ!」
漢野の奴どんだけ元気なんだよ……。
そういう能力なんだろうけどさ……。
あといつの間にここに出入りするようになったんだアイツ。
別にいいけどさ。
「この調子だと一週間は動けないわね。あ~あ。ほんっとあなたってヘタレね凍牙。仮にも力ちゃんと同じ漢として恥ずかしくないの?」
「ううっ……ヘタレですみません……」
「もうやめなさいよ千歳……凍牙のライフはもうゼロよ」
「はーい」
「詳しくなったなあ……」
凍牙をさんざん罵倒する千歳を麗紗がそう言って止める。
本当にどんだけ見たんだよこの子……。
「でも凍牙が一週間も動けないのは残念ね……今度皆でこはく島に泳ぎに行こうと思ったのに……」
「大変申し訳ございませんお嬢様……」
「いやいやいや! 何こはく島って!? そんな所あるの!?」
「麗紗ちゃん、それって桜月島の事? 名前変えたのね」
「そうよ。役所の人達に頼んだの」
「いや勝手に私の名前使わないで恥ずかしいから! ていうか島の名前って変えられるものなの!?」
「あっ……迂闊でした……申し訳ありません琥珀先輩……変えておきます」
「うん……そうしてね」
駄目だ、ツッコミが辛くなってきた。
私は麗紗の意味不明な愛情の方向性にため息をついた。
「まあ泳ぎに行くのはあなたが治ってからでいいから。今は治す事に専念しなさい」
「はい……!」
「そういう事なので凍牙が治るまでは海デートではなく近場のデートをしましょうね琥珀先輩」
「うんそうだねー」
「では今週末鈍遊園地に行きましょう先輩!」
「分かったー」
「ですって凍牙。あなたもっと休んでていいわよ」
「なんか最近僕の扱いが酷くないですか……」
一体何がそういう事なので遊園地に行こうという発想になるのか分からないけど週末に麗紗と遊園地に行く事になった。
でもこの時の私は疲れていて本当に大事な事を見落としていた。




