決着
さて……。
かっこよく登場したはいいけど状況がまるで分からない!
漢野は血塗れで倒れてるし、凍牙は髪の毛立ってヤンキーみたいになってるし、やたら寒いし……。寒さは八重染琥珀で耐えられるけど。
とりあえず凍牙に事情を聞こう。
「ねえ凍牙……今これどうなってんの? ていうか大分雰囲気変わったね」
「あ~? 何勘違いしてやがる。オレは凍牙じゃねえ峠だ。間違えてんじゃねえぞクソアマぁ!」
「……え? どういう事?」
「まあ何だっていい! とりあえずオマエオレに加勢しろ! もうちょいでアイツ倒せそうなんだよ!」
「わ、分かった……」
「よし行くぞ! 氷河期を再来させてやろうぜぇ!」
……本当に彼の身に何があったんだ。
眼帯外したら別人格が出てきて真の力にでも目覚めたのかな?
なんて厨二病。
特色者ってロクな奴が居ないなホント……。
まあ今はこの峠に協力しよう。
八重染琥珀はそういうのも得意だし。
でもその前に。
「峠、天衣の能力は知ってる?」
「知らね~。身体強化型のなんかだろ」
「じゃあ教えるね。アイツの能力は――」
「させるか!」
「無駄だっつの」
「ちっ!」
私が能力を暴露しようとするのを、天衣が阻もうとした。
だがそれは峠の氷によって防がれた。
峠の耳に天衣の能力の情報が入る。
「なるほど……じゃあ避けられないようなスゲー必殺技をかましてやれば関係ないって事だな~! 教えてくれてありがとよ!」
「うん。それじゃあ最大出力で氷を出して。私がそれを全力で加速させるから!」
「りょ~かい~。イチバンすげえヤツ見せてやるよぉ……これが最後だ! 一回しかやらねえからよく見とけぇ! フルドラゴンバレットォ!!!」
峠がそう叫ぶと、右手に鋭い冷気が集まっていく。
そしてその冷気は峠の何十倍もの大きさの氷の竜を象った。
味方である筈の私でも立ち竦む程の威圧感をそれは持っていた。
必殺技ってレベルじゃないぞこれは……。
「ほら、早くやるんだよ!」
「あっ、うん!」
峠の凄すぎる奥の手に茫然としていた私はそう声を掛けられてようやく我に返り、氷の竜に八重染琥珀を注いだ。
「何だこれは……先程までの技とは規模がまるで違うじゃないか……どうなっている……」
「そりゃ全力でやったからな~。ま、精々避けんのがんばれよぉ~」
「クソッ……! どこで間違えた……! “コンフォートウィン――なっ!? 瞼が動かない!?」
天衣の目は冷気で氷に覆われていた。
とんでもない威力の攻撃なら、タイムリープでも逃げられない。
峠と私なら、それが出来た。
これで、終わる。
私は全身全霊で、限界まで八重染琥珀を込め続けた。
もっと、もっとだ……。
ヤツに見せてやろうよ、峠。
麗紗から逃げずに、向き合った私達の力を!
「「これが……」」
「オレの……」
「私の……」
「「力だっ!!!」」
私達は息をぴったりと合わせて私達の必殺技を放った。
氷の竜が、琥珀色に、稲妻のように閃いて顎を開き――天衣を喰らう。
その凄まじい威力に、雲が割れ疾風が舞い乱れた。
「ぐわあっ―――!?」
「一生引き籠ってろ弱虫がぁ! へっ!」
氷の竜に空の彼方へと連れ去られた天衣に、峠はそう吐き捨てて中指を突き立てた。
……本当に別人みたいだ。
問題はキレイに解決したけどその代わりに凍牙の謎が増えたな。
などとぼんやり考えていると、中指を立てまくっていた峠がふらっと倒れてしまった。
「うおっ!? 大丈夫!?」
「……ツカれたぁ~。寝る!」
「えっ……」
慌てて私が峠の体を支えると、峠は私の腕の中ですやすやと寝息を立て始めた。
あれだけの技を放ったから消耗したんだろう。
息はしてるから大丈夫かな……。
あと漢野が危ないかもしれない。
さっき見た時血吐いてたし……。
あ、よかったちゃんと生きてる。しぶといなこの人。
体がだいぶ冷えてしまっているから八重染琥珀で温めてやる。
そんな風に仲間に応急処置をして救急車を呼ぼうとしたその時。
私の目の前に、ふわりと誰かが降り立った。
それは……なんと麗紗だった。
麗紗はボロボロの私を一目見て、泣きそうな顔で私に聞いた。
「大丈夫ですか琥珀先輩!? どうしてそんな怪我を……!」
「ん? これ? 別に大丈夫だって~。それより凍牙達を助けてくれないかな……」
「そういう台詞はまず自分が元気になってから言って下さい!」
麗紗は私にそう言って千歳の薬を二つ手渡してきた。
薬を飲むと身体の痛みが綺麗さっぱりと消える。
「あ、千歳の薬ってまだある? この倒れてる人は私の仲間なんだよ。瀕死だしお願い!」
「いいですよっ!」
むっとした顔で薬を渡してくれる麗紗。
私は慌てて凍牙と漢野に薬を飲ませた。
すると漢野はパチリと目を開けた。
でも凍牙は寝たままだ。呼吸はしてるけど本当に大丈夫かな……。
「ありゃ……ここは……ってお前はぁっ!?」
「……? どなたですか?」
漢野が麗紗を見るなり飛び上がった。
……何かされたのかな……。
当の麗紗は覚えてすらいないのか、頭にクエスチョンマークを浮かべている。
そんな麗紗は突然表情を変え、感情の消えた笑みを浮かべて私に聞いた。
「それよりも琥珀先輩……あなたをここまで酷い目に合わせた大罪人は誰ですか?」
「えっと……その……」
「それは今どこに居るんですか何をしているんですか何をしでかしているんですか地球上の貴重な貴重な酸素を今も浪費しているんですか少しでも減る事の無い罪を軽くしようと悪足掻きをしているんですか無様に逃げようとしているんですか――」
「わ、私達であっちの方向にぶっ飛ばした!」
私は呪詛を撒き散らす麗紗に慌てて天衣が飛んでいった方向を指差した。
麗紗はその方向を見て私にぽつりと言った。
「分かりました。ではちょっと……行ってきます」
怒りを通り越した何かと恨みを突き抜けた何かが抑えきれていない声で。
次の瞬間、麗紗はもう上空に飛び上がっていた。
私はただただ怖くて一言も声を出せなかった。
「何なんだアイツ……」
「私に聞かないで……」
取り残された私達は呆然として立ち尽くした。




