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麗紗ちゃんは最狂メンヘラ  作者: 吉野かぼす
第二章 もう絶対に離しませんからね、先輩!
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誕生その1

 凍牙が初めて屋敷に来た日。

 実の父親から捨てられたという状況に我を失っていた彼は、屋敷の前に連れてこられた途端能力を暴走させてしまった。


「あ、ああ……ああああああああああああっ!!!」

 凍牙の“フリーズバレット”によって屋敷の門と庭が全て一瞬で氷漬けになる。

 特色者の能力は精神に寄る所が大きいのか、心が大きく揺らいだ特色者は能力を暴走させてしまう事もある。


 暴走時には威力が極端に上昇し、特色者本人の制御が利かなくなる為非常に危険である。

 その為政府も特色者の対応には手を焼く次第だった。


 当然、まだ幼いとはいえ特色者である凍牙もその例外では無かった。

 屋敷が、鋭い冷気と厚い氷に包み込まれていく。

 その場所にだけ、白銀の世界が広がっていた。


 普通なら、相当な大惨事だ。

 だがしかし、それは普通ではない人間にとっては……。

 ――何ら問題は無かった。


「う~ん、なんかちょっとさむいなぁ……」

 異変にようやく気付いた麗紗は屋敷の扉を開けた。


「わぁ……こおりだぁ……きれい……!」

 麗紗は目の前に広がる気候外れの景色に感動し、扉をばたんと閉めて駆け出した。


「きゃっ! すべるすべる~! たのしぃ~!」

 屋敷が大変な事になっているにも関わらず夢中で氷の上を滑って遊ぶ麗紗。


「あああ……ああ……うああああああああああ!!!」

「わーいわーい……ってあれ?」


 暴走する凍牙の近くまで来てやっと麗紗は氷を大量に出している凍牙の存在に気付く。

(もしかして……あのおにーさんがこおりをだしてくれたの!?)


 能力を暴走させて以来ずっと一人ぼっちだった麗紗の前に、突然現れ夢のような光景を創り出していた凍牙は何の因果か彼女の純粋な目には輝かしい物として映った。


 麗紗は危険を一切顧みず……いや、彼女にとっては危険ではなかった。

 ともかく、凍牙の下に駆け寄った。


「きゃっ! つめたーい! きゃははははは!」

 当然氷に巻き込まれ麗紗の体は氷漬けになるが、

 服に付いた糸屑を掃うような気軽さで氷を恋色紗織で破壊した。


 そして麗紗は凍牙の裾をくいくいと引っ張り言った。

「ねーねーおにーさん! このきれいなこおりをだしたのはあなたなの!?」

「ああああああああ……ああ……」


「あれー? どうしたのー?」

「あああ……うあああああああああああ!!!」


 我を失っている人間がまともな受け答えが出来るはずもない。

 凍牙は麗紗に話しかけられてもただひたすら氷の世界を広げるのみだった。

 そんな凍牙に痺れを切らした麗紗は……恋色紗織で凍牙をひっぱたいた。


「むししないでよ! そんなにわたしのことがうっとうしいの!?」

「ぐあっ!?」

「あっ……きゃああああああああ!!! ごめんなさいーーー! おきてよ……! ねえ……! おきてよ……!」


 麗紗からすれば軽くやったつもりだったのだが、他の人間からすれば決定打である。

 凍牙は氷の床に倒れ込んだ。


 麗紗は必死に声を掛けるが、凍牙はもう既に気絶していた。

 それが、凍牙と麗紗の出会いだった。

 次に凍牙が目を覚ましたのは、見知らぬ病院のベッドの上だった。

「ここは……どこなんだ……?」

「あっ! おきた!」

「うおっ!?」


 傍らにはなんとなく見覚えのある顔の幼女……麗紗が居た。

 麗紗はキラキラとした目で凍牙を見つめている。

 凍牙は状況が全く理解出来ず混乱した。


「あれ……? 俺は確か……」

 そして思い出す。

 実の親に捨てられたという事を。

 化け物の下に送られたという事を。


「あ……ああ……」

 その事実にまた叫び出しそうになる。


 しかし、それらしき化け物はどこにも見当たらない。

 居るのは目の前の子供だけ。


 まさかこの子供がオヤジの言っていた化け物なのか? と困惑する凍牙。

 戸惑っている凍牙に、麗紗が心配そうな声で言った。


「だいじょーぶ? おにーさん、ないてるよ?」

「えっ?」


 凍牙は言われて初めて気付いた。

 自分が、泣いている事に。

 寂しさで心が張り裂けそうな事に。


「あ……うああ……うわあああああああああ!!!」

「……なにかつらいことでもあったのね」


 涙が堰を切ったように溢れ出す凍牙。

 麗紗は幼いながらもなんとなく事情を察し、凍牙の様子を見守った。


 ひとしきり泣いた後、凍牙はようやくほんのわずかに落ち着き、麗紗に言う。


「ごめんな……オレの方が年上なのにこんな所見せちまって……」

「いいわよべつに~。それよりまたこんどこおりだしてよ~」

「あれ何で知ってるんだ……というか誰なのお前?」


「わたし? わたしはさくらづきれいしゃ! あとあなたってあたらしくわたしのところにくるしようにんだったんだね! よろしくね!」

「……何だって!?」


 凍牙は思い出した。

 確か天衣の言っていた化け物の名前が、桜月麗紗だと。


 こんなか弱そうな生き物が化け物だとか、あのクソオヤジは一体何を考えているんだ。凍牙はそう思わざるを得なかった。


「お前が……本当に桜月麗紗、なのか……?」

「そーだよ? どうかしたの?」


 凍牙は麗紗のあっけらかんとした答えに拍子抜けし、あれこれと

考えるのをやめた。


「……いや、何でもない。それよりオレはこれからどうすればいいんだ?」

「えーと、はやくたいいんしてわたしのしようにんとしてはたらくだけよ~」


「ええ……シロウトが出来るもんなのかよそれ……」

「がんばればいいじゃない」

「……まあ、分かったぜ」


 そうして彼は、晴れて麗紗の使用人となった。

 使用人となってしばらく日数が経ったある日。

 凍牙は他の使用人達から教わりながらもだんだんと仕事を覚えつつあった。

 荒かった言葉遣いも上品になってきている。



 使用人の仕事に、やりがいも感じ始めている。

 だが、どうしてもぽっかりと空いた心の穴は埋めようがなかった。


 その心の痛みは、左目にはっきりと表れた。

 あれ以来、彼の左目は時々痛みを伴って光を放つようになったのだ。


「ぐっ……ぐああっ……あああ!」

「とーが? だいじょうぶ!?」

「な、何とか……」


 たまたま近くに居た麗紗が慌てて凍牙に駆け寄る。

 すると僅かに左目の痛みが引いた。


 いつも彼の目は一人になった時にだけ光を出す。

 ただそれは近くに人が来れば次第に収まる。

 その為、凍牙が苦しみ出した時は必ず誰かが側につくようにしていた。


「すみませんお嬢様……失礼しました」

「べつにいいわよ……。それより、あなたわたしにあうまでになにかあったの?」

「それは……」


 凍牙は少し躊躇ってから麗紗にここに連れて来られた経緯を語った。

 勿論、麗紗が化け物呼ばわりされていた事は伏せて。

 すると麗紗は、もの悲しそうな、儚い笑みを湛えて言った。


「わたしたちって、にてるわね」

「……似てる? どこが?」

「おとうさんとおかあさんがいなくて、ひとりぼっちなところ」


「……確かに、そうですね」

「わたしは、おとうさんとおかあさんとかみんなにこわがられて、しようにんさんともあんまりなかよくなくて、とってもさびしいの。それはあなたもおんなじでしょ? だから、ね?」


 麗紗は、悲しみの混じった笑顔を変えて、明るい笑顔を浮かべて言う。


「わたしたち、ともだちになろうよ! それならひとりぼっちなんかじゃない! さびしくなんかない! ふたりなら、なんでもできるわっ! ねっ、ともだちになってくれるわよね?」

「お嬢様……! もちろんです……!」


「やったあ……ありがとうとーが! あらためてよろしくね!」

「いやいや、こちらこそ……」


 麗紗と握手しながら、凍牙はふと目の痛みが完全に消えている事に気付いた。

 お嬢様が、助けてくれたんだ。

 そう思った凍牙は、麗紗に深く感謝した。








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